第三章・戦闘③
「フッ――!」
「ハァ――!」
斬り合い、払い合い。斬り合い、払い合い。
そして避けては防ぎ、避けては防ぎの、作業のような繰り返し。しかしその作業感は、彼らの苛烈な動きによって失われていた。
踊るように、舞うように双剣を振るう亮。
対して、邪魔なものを全て薙ぎ払わんと大槍を振り回す明。
対照的であるが、超人的な身体能力と微妙に違った動きを時々見せる二人の技術。
そして一般人の視覚の限界から、その違いは良く分からず。
分かるのは二人はこの数秒の間に、既に何十も斬り合っているという事だけ。
その際に響き渡る鉄と鉄が打ち合う音は、いつしか不協和音でなくなり、まるで武器を楽器とした演奏会のように成りだしている。
(これが、現実の人間と夢物語の人物の差か……)
チート物でなかろうと、最強物でなかろうと、彼らが現実的に不可能な事を平然とやってのけているというのは変わらない。
――そう、拓海たちにとって亮達は、化け物以外の何物でもないということなのだ。
〈聞こえる? 拓海〉
「――――!」
そんな事を考えながら、ボーっと二人の剣戟を見守っていると、突如拓海の脳内に真里華の声が響き渡る。
〈あっ、聞こえてても一応、返事はしないで。代わりに右手をチョキにしてもらえる?〉
その言葉に従い、周りをきょろきょろ見回すのを我慢しながら、言われたとおり右手をチョキの形にする。
そうしながら、そういえば真里華は心話の共鳴切断をしていなかった事を思い出していた。
〈……ん、確認した。それでお願い……ていうのも変だけど、もう少しそのまま現状維持させておいて。今私の騎士がこっちに向かってきてるから。そうすれば〉
(この現状を打破できる、か)
しかし、彼は、彼女の騎士はそこまで警戒すべき相手だというのか……?
〈良い? 今の現状のままで、出来る限りで良いから、上野さんの技能と能力の発動を妨害して。なんせ彼女は――〉
「ハッ――――!」
真里華が何か言おうとしていたその時、現状を崩したのは明でも未来でもなく、拓海の騎士である亮だった。
斬り合いをしていた中で突如後ろに跳び上がり、なにやら黒の剣の先端を明に向けている。
よく見ればあの黒い剣はただの剣ではなく、鍔の下には引き金がある。
――そう、あれは銃剣なのだ。
「弾丸装填」
亮が何か口ずさんだ瞬間、いきなり右腕が光り出す。
その光は銃剣へと移り、ガシャンという音と共に、銃剣の中に納まる。
「標準、合わせ」
その後着地し、カリバーンを支えとし、黒剣の銃口を明に完全固定する。
「全自動――」
そして引き金に指を掛け――
「発射‼︎」
そのまま引き金を引き、目の前の敵に無数の弾丸が、雨あられの如く襲いかかる――!
「チッ――ィ―――‼」
明は盛大に舌打ちしながら、大槍と回転させて即興の盾を手に、飛来する雨弾を凌いでいく。
――先ほどの光。亮の右腕が光っていたのは、亮が主に使っている、人間の力――気――をその部分に集中させていたから。
それを弾倉に込め、この銃剣特有の弾と化していたのだ。
それが出来るこの銃剣の銘はカラドボルグ。
元ネタはケルト神話に登場する有名な剣の一つ。
一説として、とある剣の原型だと、まことしやかに囁かれているのだが……まぁ、いま重要な事ではない。
して、こちらではカリバーンと対を成す魔剣。当然ながら、古代武具であり、同じように持ち主を選ぶ。
だが、こっちは穢れを知らないカリバーンとは逆に、穢れしか知らない。
なんせ、人を殺すことだけの為に生まれた――辻斬りの剣だからだ。
元々は聖剣として作られていた為、その名残としてカリバーンのように姿形は美しいままだ。
刀身が黒いのは、肉を裂いた時に浴びた血を誤魔化すため。
銃剣という形になったのも、『どんな状況でも相手を殺す事ができるように』と前の所有者が心のない意思に命じ、進化させたから。
聖の姿でありながら魔を宿し、黒きその刀身で血を舞い吹かせ、その刀身から撃き出される弾丸で肉を喰らう聖剣の片割れ。
それが魔剣、カラドボルグの設定だ。
実際、あの剣は近距離、中距離だけに留まらず、遠距離でも問題なく射撃を行い、敵を射殺する事も可能だ。
そして、この銃剣は弾を入れる部分がなく。
代わりに所有者の力を弾丸と化して放ち、燃費も良く、よほどのことがない限り、弾切れがないようになっている。
そう、さっき亮がやったことの話だ。
しかも、込める力によって弾の性質も変わる故、容量は少ないがレパートリーは豊富な亮にはうってつけの剣と言えよう。
例えば――、
「チッ」
あれからことごとく弾丸を防がれていた亮は、舌打ちしながら、埒があかないと判断したのか撃つのを一旦やめる。
いくら燃費が良いとはいえ、撃ち続ければ消費され、果てはなくなるのが常識。
しかも勝手が利く力、なくなる前にやめるのが常考だ。
まぁ、それなら――
「魔弾装填」
弾とする力を換えれば良いだけ!
亮は気の供給をやめ、代わりに魔力をカラドボルグへ流すと、弾倉の中に弾丸が生成される。
「魔力変換、炎」
さらに口ずさむと、心なしか刀身が赤くなり、銃剣に熱が込もり、右手が持つグリップが熱くなる。
その間、コンマ一秒。
狙いを定めた亮を見て、もう間に合わないと判断したらしい明は、再び槍を盾とする。
「任意射撃、発射!」
そんな彼に向け、躊躇いなく発砲。一発の赤い火の弾は、狙い通りの位置に着弾し――
「―――」
――火炎が、爆ぜた。
魔力は数ある力の中で一つ一つのパワーが優れているものだ。
それを炎に変換し、弾丸とすれば、爆弾となるのも不思議ではない。だが、そんなものを人に向けて放てば、木っ端微塵となるだろう。
「発射! 発射! 発射――‼」
そんなものを、亮は一発だけに留まらず、一弾、二弾、三弾。
次々と爆発弾はカラドボルグから撃ち出し、ついには爆煙で完全に明の姿が見えなくなってしまう。
やりすぎではあるが、これが魔力を弾に変えた時の性質、単発威力強化だ。
属性によっても形が変わる故、例の一つに過ぎない。
気、魔力、霊力、龍血、輝力、邪気、妖力。
様々な種族の力全てを有する亮は、量が少ないが故、本来は身体強化ぐらいにしか使い道がない。
が、カラドボルグの所有者としてはこれ以上ない逸材で、それらの性質を戦場に応じて使い分けている。
主に使っているのは気と魔力、それから霊力。
これらは劇中でも傭兵業をやっている中で、そして今この場で助けられている。
――そして、計一四発。魔力は切れる寸前にとなってやっと亮は引き金から指を離し、体制を崩した。
赤熱するほどの熱を持った刀身と銃口から陽炎が立ち上り、流石に持っていられなくなったカラドボルグを地面に刺して休ませる。
対して亮も、魔力の過剰消費による疲れからか息切れを起こし、時々咳もしている。
いくら気以外の力を使い切っても命に別状がないとはいえ、一気に体内のエネルギーを使ってしまえば疲れるのは当たり前である。
しかしこれで、
「やった――」
「いや、やってない」
「いえ、やってないわ」
拓海が勝利を確信したが、それを亮と真里華が揃って否定した。
「えっ? やってないって、あれだけの攻撃を受けたんだぞ? なのに倒れないはずが――」
「本来なら、そうね。でも彼は騎士よ。何かしらの力を持っているはず。たとえ持っていなくても、上野さんは適正ランクSよ」
「マジかよ……」
適正ランク……さっき心話で言いかけていた事か? ふむ、言われてみれば、
「最初、グリモワールにした時にそんな単語があったな。でもそれが一体なんだってんだよ」
「本来ならなんでもないわ。でも、Sランクとなると話は別なの」
そう前置きすると、真里華はまず「覚えてる?」と言って話し始める。
「能力と技能の説明の際、描写がしっかりしてないと強力なものは使えないって言う話」
「あぁ、覚えてる」
面倒だが、当然の設定だろうと思ってた。
しっかり描写しなきゃ、使う使わない以前に、作者達も読者もどんなものか理解できないし。
「あれなんだけどね、実は抜け道のようなものがあるの」
「抜け道?」
「えぇ。まぁ、こればっかりは才能というか……その人によるものなんだけど。グリモワールは騎士や能力などを顕現させれているのは、ある不思議の力のおかげらしいの。その力を扱うに当たって適正がないと駄目で、適性が高ければ高いほどそれはその創喚者に良く馴染むし、融通が利く」
そこまで言われれば後は想像が付く。
「つまり、適正ランクが高ければ高いほど、描写云々の設定が緩くなって、簡単な描写で強力な能力や技能が使えるようになるって事かよ……」
「その通りだぜ、紫苑拓海」
拓海の呟きのような回答に応えたのは、爆煙で未だ全く見えない明だった。
その声を聞いた途端、亮はカリバーンを手に構え、真里華は懐から取り出した中心に黒い宝石をつけた白いグリモワールを持ちながら、腰を下げて構える。
だが当の本人は煙の中から姿を現そうとしない。
というか、真里華のグリモワールって白色だったのか――ってあれ?
「そして我が創喚者は最高ランクたるSランク……それを聞いた上で、だ。そろそろ問うぜ? テメェら全員、この祭りから身を引く気はねェか?」
「……コイツは驚いた。まさかアンタみたいな男からそんな提案がされるとはね」
なんで…………。
「オレとしても、我が創喚者としても、そこまで闘る気のねェヤツにまで槍を振るおうとは思わねェよ。仮にも誇り高い魔術師なんでな」
「へぇ、アンタ魔術師だったのか」
「まァな……それで、返答は?」
身体が―――、
「論外だ」
「だろうと思った。一応、白の創喚者は?」
「同じく論外よ」
「そうかい。まっ、それなら――」
動 か な い ?
「我が銃槍の餌食となってくれ」
「能力発動。《瞬間停止》」
気付いた時には遅かった。
「はっ―――?」
「えっ―――?」
いつの間にか拓海達三人は、未来の発動する能力によって動きを止められていたのだ。
とは言っても、たった三秒。
されど騎士にとってそれは長すぎた。
煙の中から姿を現した、服もボロボロで額に血を流す明は、三人が動けるようになる頃には亮の前で、槍の先を向けていて。
「吹っ飛べ」
「――――⁉︎」
そこから火炎放射のような炎の砲弾を撃ち込み、亮に接触した瞬間爆ぜ、引き寄せられるように後ろに向かって吹き飛ぶ――、
――ド ク ン !
「――――」
刹那、動悸が激しく高鳴り出した。
それもそのはず。なんせこの光景は、拓海のトラウマを刺激するのに十分なものだったからだ。
吹き飛ぶ身体、骨が軋む音。
そこから連想される折れ曲がった四肢。
至る所から噴き出す血。
瞳孔を開ききった目。
冷たくなっていく肌。
「はーっ、はーっ、はーっ」
胸が苦しく、締め付けられるように痛い。
吐き気もして、気持ち悪い。
頭がクラクラし出して、視界も歪み出している。
――マズい、このままじゃ………!
(思い出すな……これ以上、思い出すな――!)
胸を両手で押さえながら自分に命じるが、頭は言うことを聞かず。
それどころかそれは鮮明になってきて。
『だ――か――たす―――』
「ぁっ…………」
――いつの間にか、その場で倒れていた。
だが拓海は起き上がろうとせず。
「――⁉︎ ―――‼︎」
真里華が何か叫びながら駆け寄ってくるのを見ながら、現実逃避をするように、そのまま意識を手放してしまった。




