第二章・開祭④
「―――⁉」
ふてくされつつ、なんとなく二人の会話を聞いていた真里華は、オーディンの言った言葉に思わず反応してしまう。
(え、えっ? もしかして……もしかする? 期待しちゃってもいいの?)
そう期待で胸を膨らませ、まだかまだかうるさく鳴り響いている鼓動を抑えながら、拓海の途切れてしまった言葉を待つ。
「どうなんじゃ?」
それから一時間、それともたった一分だろうか? 長くも短くも感じられた沈黙は、オーディンによって破られた。
それで観念したのか、ついに拓海は口を開く。途端、真里華の鼓動は大きく跳ね上がり――!
「………そりゃ、好きだよ」
(――きっ)
「――幼なじみなんだから、当たり前だろ?」
(たぁぁぁぁああ――よ知ってた!)
そして静かに収まった。
(そりゃね? こんなオチになると思ってましたよ? それでも期待したっていいじゃない、女の子だもの)
「………………はぁ」
そして虚しくなるのもお約束。
「…………まあ良いじゃろ、こういうのは節介を焼くものではないしの」
「……なに言ってんのかわかんねぇな」
「そうかいそうかい……では、説明の続きをしようかね」
「そうしてくれ」
……こちらも気を取り直すとしよう。いつまでもこう落胆していてもしょうがないし。
(というか、虚しくなる一方でキリないし)
「では、次はグリモワールに備わる基本的な機能について話そう」
そうため息を吐いて気持ちをリセットすると同時に、オーディンは説明を再開し、拓海もグリモワールへと眼を向け始めていた。
(基本機能というと…………創喚、能力、技能、改編結界、通心会話のことね……)
その中で唯一説明を終えている心話は除外するだろうからスルーするとして……まずは、
「初めに創喚……サモンから説明しようかの」
やはり、そこから説明に入るようだ。
(まあ、拓海ももう大体把握はしているでしょうけど)
少し面倒……凝った設定故、拓海でも全部覚えるのに苦労するだろう。
(私も一応しっかり聞いておこうかしら)
聞き間違えがあったら大変だし。
――創喚。
これは文字通り、本の中で文字や絵で創られたものを現世に呼び出すもの。
しかし創喚には主に三つに分けられており、創喚時も、それを分けて宣言しなければ創喚できない。
一つ目は騎士創喚。
これは主人公を創喚する際宣言するものだが、既に拓海も騎士を創喚済みなので、今や意味もない項目と言えよう。
創喚者同様、撃破されれば失格となるので気を配っておくべき対象だ。
二つ目は従騎士創喚。
主人公以外の登場人物を創喚する際に宣言するもの。
撃破されれば一時間経過しないと再び創喚できないが、それ以外のデミリットは存在しない故、安心と言えば安心だ。
ちなみに一度の戦闘に創喚できるのは最大三人まで。勿論、騎士を除いてだ。
最後の三つ目は武具創喚。
物語に登場した武器、防具を創喚する時のもの。
描写がしっかりしていれば、その武具の耐久度や宿る能力も再現され、最大四つまで創喚可能となる。
これも、騎士・従騎士がデフォルトで持つ武具を除いての話である。
以上が創喚に割り振られた設定。続いて能力に移ろう。
――能力とは、瞬間移動や反射。発火能力と言った、所謂魔法や超能力などの類いに位置し、物語に登場した能力を使う事が出来る項目だ。
描写がしっかりしておけば、強力な能力を使う事も可能だが、同じ能力を一度に何度も使う事は出来ないので注意。
そこまで強くない能力であれば一度に五回まで同じ使う事ができる。
「そういった選別は不正が効かんようにグリモワールが自動でやる、という事も覚えおくのじゃぞ」
「だろうと思ったが……グリモワールにしては便利だな、おい」
(確かに、私も同じ事思ってた)
細かい部分をやってくれるのはありがたいが、魔導書というにはあまりに親切というか……扱いやすいような気がする。
「読めないのが前提となっている本来のグリモワールよりはマシじゃろ?」
「……まぁ、そうだな。そもそもこれは創喚書であって魔導書じゃないもんな」
そう納得した拓海は、煮え切らない表情をほぐし、一つため息をもらす。
「然り。――では次に移るぞ」
「どーぞ」
では、気を取り直して技能の説明に入ろう。
――技能はいわゆる身体強化や五感強化、そして回復術などがこちらに含まれ、直接的な攻撃系能力などはこちらに属さない。
つまり、能力は攻撃系。
技能は補助系にあたるものだと覚えておけば大丈夫だろう。
ちなみに物語に必要なく、一つも書いてない者に対する救済処置として、目次辺りに最低限のものは書かれている。
後の描写云々に関する設定は能力と同じである。
――では、次は改編結界。
創喚者が戦闘中に必要な基本的な機能はこれで最後となる。
「これの場合、説明するだけでは分かりにくいのでな。赤羽くんに手伝ってもらって実際に見てもらった方が良いんじゃが…………」
「……なんかあるのか?」
「いやなに。単にここはワシが設けた結界禁止区域ってだけなんじゃよ。そもそも、ここ一面はワシ自身が創りだしたものなんじゃがな」
「だろうと思った……それで?」
「うむ、それゆえ、今この場で見せる事はできん。すまんが、後に外で実践してみてほしい」
「わかった」
と、前置きしたオーディンは、拓海の返事を聞くと改めて説明し始める。
――改編結界とは、一言で言うなら本の中にある世界を一部再現する結界だ。
詳しく言うと、本に描かれた世界に存在する場所――街や建物の中などと言った場所を……特に、しっかりと本に描写された場所を細部まで再現してくれるものなのだ。
簡単に言えば、遺跡などに存在するギミックや構造さえも、全て間違うことなく再現される。
再現するのは、創喚者が選択するページで構成されている限定的な空間。
遺跡、城内、城下町、村などがその対象にあたり、その場限りで現実は幻想に一部だけ改編される――それが改編結界という名の由来だ。
とは言っても一時的なもの。その中で行われている戦闘が終了すれば解除され、元の現実に戻る仕組みとなっている。
なお、これを張る際に相手の結界を打ち消して自分の結界を張る。などという事はできず、早いモノ勝ちなので注意。




