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夢と現のクロスロード  作者: 佐月栄汰
創喚者編Ⅰ
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第一章・創喚⑨

「………えーと、あれ? ここは別の本屋に繋がっていたのかな?」

「そんなわけないじゃない」


 しかし、拓海の言う事も分からなくもなかった。

 何故なら、あんな外装の中身だと思えないほど綺麗な内装だったからだ。

 苔一つ見当たらないどころか、ちゃんと細かく手入れされているのが見受けられる木の床や壁、それに本棚。

 その本棚には、見てみると古本だけでなく、意外にも最近の文庫本まで並んでいて、レパートリーが豊富だ。

 そして最後にここのバイト店員だろうか? 犬耳のような癖がついたクリーム色の長髪に、桃色の眼をした、見るからに気弱そうな美少女がレジカウンターに立っており、その可憐な風貌から、この店の雰囲気を和ませている。


(同時にここの異質さも放ってるけど)


 見た目とか見た目とか見た目とかが原因で。


「い、いらっしゃ……って赤羽さんでしたか! いらっしゃいませ‼︎」

「こんにちは、上野さん。頑張ってるようね」

「はいっ」


 真里華だとわかった途端に、元気になった上野という少女を見るに、それなりに仲が良いようだ。


「それで、えっと……そちらの、方は?」

「あぁ、そうね。紹介しないと。この人は拓海。私の幼なじみよ」

「あー、と。どうも。真里華の幼なじみの紫苑拓海です、お目当ての本があると聞いて来ました。よろしく」

「こ、これはご丁寧にっ。私はここの臨時店員をしております、上野うえの未来みらいと言いますっ。よろしくです……」

「二人とも、なんか固いわよ? もうちょっとフランクにいきましょう?」

(出来るわけないんだよなぁ)


 初対面の人と、いきなり仲良くする事なんて、拓海だけじゃなく、見た通り気の弱い娘らしい未来にとって難易度が高い事になぜ気付かないのか。


「……なんか、すいません」

「いえいえ……それで、どのような本をお探しですか?」

「あー……その、創世記に関する本って置いてないですか?」

「創世記ですか……」


 未来は「何処にありましたっけ……」と、ぶつぶつと呟きながら、レジから離れ、それを探しに本棚の奥の方へと進んで行ってしまった。


(こりゃ時間掛かりそうだな……)


 見つかるまでどうしようか?

 探すついでに物色するか、真里華と立ち話していようか。

 そう少し悩んでみるが、すぐに答えが出る。

(真里華と話しながら、探すついでに物色すれば良いんじゃん。なんで態々分けたんだ、俺は)

 とにかく、そうと決まれば早速――と、思い立ったその時。


「そう急ぐ気持ちは分からないでもないが、落ち着いてワシのような年寄りの話を聞いてくれないかい?」

「えっ?」


 ふと背後から声を掛けられ、振り向くとそこには、パッと見、ただの痩せ細った隻眼の老人がいた。

 しかし隻眼だからか、その割に弱った様子はなく、その代わりに何処か威圧感を滲ませている。

 そして何より――


(なにあれ、かっけぇ!)


 老人が持つ、自身を支える真っ白い槍のような杖は、拓海の目を釘付けにした。

 そのフォルムは、拓海の厨二心を程よく燻る。


「槍のような杖ではないぞ。これは正真正銘の槍なんじゃ」

「へぇー、そうなんですか……って」

(あれ、俺さっき考えてた事口に出してたっけ?)


 いや、そんな事はなかったはずだ。そもそも無自覚に自分の考えてた事を口にする奴が、現実にいるはずがない。

 ということは……


「そこまでにしなさい」


 少しの間考え込んでいると、気がつけば真里華は二人の間に入り込んでおり、拓海を庇うように立っていた。


「赤羽君か。ということは、その少年が紫苑拓海君かね」

「そうだけど、貴方には関係ないはずよ」

「残念だが大いにあるんじゃよ。なんせ、彼には適性がある」

「あらそう。でも関係ないわ。拓海だけは巻き込ませない。第一、貴方は適性はあっても、まともに参加できないような人にやらせる気?」

「ふむぅ、なるほどのぅ…………」

(何の会話だ、これ)


 流れるように言い合う、二人の話を聞いていてもちんぷんかんぷんな拓海は、寂しく思いつつ、ほとぼりが冷めるまでジッとしていよう――


「……君の言い分はわかった。しかし最早時間がないんじゃよ」

(……あれ?)

 と、後ろの方に下がろうとした時、急に自分の体が動かなくなる。

 金縛り……は寝て起きた時に起こるものだ。ならば何故?


「なんで……って、口は動くのか」

「えっ? まさか……オーディン・・・・・、貴方は――!」

「すまぬな。しかしワシも前に言ったはずじゃ。開幕の日は四月一日。つまり今日だと」

(オー、ディン?)


 オーディンと言えば、北欧神話に登場する、主神とも呼ばれた神だが……


「それがなんだというの‼︎」

「それがの、実は後一人分だけ《グリモアの種》が残っていたんじゃ。そんなこれの処分に困っていたその時に、その適性があるものが来てくれたのじゃぞ?」

「良い当て馬が見つかったから、処分ついでに参加させようってこと? ふざけないで‼︎ そんな横暴、許される筈が――」

「残念ながら、お主らに選択肢はない」

「――ッ⁉︎」


 言い争っていた途中、途端に真里華が口を閉じ、動きさえも止めてしまっていた。

 一体何が? まさか、あの爺さんが……だとするなら――


「……おい」

「むっ? なんじゃ、少ね――」


「てめぇ、真里華に何してんだ――‼︎」


「…………ほぉ」


 真里華を傷一つ。

 いや、汚れ一つ付けようものなら――


「例え爺さんだろうと、容赦しねぇぞ‼︎‼︎」

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