プロローグ
夢と現のクロスロードをご閲覧いただき、ありがとうございます。
――二つの剣が交錯する。
「ハッ!」
「ハァッ!」
荒れ狂う二人の剣戟。舞うは血と火花。
白いジャケットの裾を揺らし、白の聖剣を、まるで踊るように振るう亮。
対し、血に塗れた軽装の鎧で身を守り、黒い魔剣を、暴れるように荒れ振るうナナシ。
二人は刃を交え、自分の正義を貫く為に、相手の肉を引き裂かんと手に持つ凶器を振り回す。
剣の色は持ち主の意志を表す。
白は変化を望み、
黒は停滞を望む。
それらは交わる事はあっても、決して相容れず。
だから彼らはお互いを殺意を秘めた目で見据え、牙を剥き出すのだ。
例え目の前の獲物が、血の繋がった兄弟であっても。
成し遂げたい思いの為に、肉を裂き、骨を砕き、血を流す。
「オオオオォォォォォ‼︎」
「アァアアアアァァァァ‼︎」
だってこれは、戦争なのだから――――!
***
「ふぅ……今日はここまでにするか」
ここまでの物語を書き終えた彼、紫苑拓海はペンを置き、一息吐く。
窓の外を見れば、暗くなっていた筈の空は明るくなっていて、時計もすでに四時を回っていた。
拓海はこんな時間になるまで没頭して書く程、物語というものを愛している。
見たものや、聞いた事。そして想像から生み出されたそれは、まるで夢のようなものとして語られていて。
大昔から現代に至ってもなお、雲のように様々な形を成して残り、人々の生活の中に溶け込む物語を。
例えば、漫画、アニメ、小説、ドラマその他諸々によって表現され、
恋愛、ミステリー、ホラー、SF、ファンタジーと言った様々なジャンルで分けられており、まるで料理のように様々な人によって調理されることで多彩に形を変え、物語は人々を楽しませている。
その中でも特に小説。正確にはライトノベル――通称、ラノベをこよなく愛する拓海はベッドに転がり込むと、その世界に潜り込んだ妄想をしながら目を閉じる。
そうすれば、目前に自分が思い描いた夢の世界が広がっていた。
――起こるはずもない、あり得ない、あるはずがないと分かっている筈なのに欲しているそれが。
いや、だからこそだろうか。有りもしない、あり得るはずもないからこそ欲する。
それは皆同じことだ。口にはしなくても、きっと皆そう。ならば、せめて夢を見るくらいは罰が当たらないだろう。
(だから、物語って言うのが出来たのかもしれないな……)
所詮は夢は夢だというのは、嫌という程理解している。それでも、見たくなってしまうのだ。失敗ばかりの現実から、目を逸らしたくて。
だから拓海も、ライトノベルに手を伸ばした。物語という夢に浸れ、絵より文字派であった彼には、まるで宝のようなものだったから。
想像力を働かせ、そのキャラクターが動く様を、その人物が見ている風景を想像させてくれる。
さらにその主人公に自分を自己投影し、昔憧れた自分になる夢を見る。
自分ならどうしただろうか。
自分ならこう選択する。
自分ならこの子を選ぶ。
そんな妄想を馬鹿みたいに、無意識に繰り返す自分はとても滑稽だった。
もしそれが本当に起きてしまえば、自分なんかじゃ主人公のように上手くいかないと分かっているのに、想像する自分が。
だから読み終えた後、いつものようにそんな自分に嫌悪するのだ。
「あぁ、なんで俺はこうも惨めで愚かなんだろう」
――そう、今のように。
そんな思いを抱きながら、拓海は抗いづらい眠気に包み込まれるように、そのまま眠りに就いた。
***
そう、交わることはない。
白と黒のように、表と裏が同時に同じ向きを向かないように、夢と現も。
いや、そもそも相容れることすらあり得ない。
それが常識。それが理。それが摂理。
『騎士、創喚』
「《神崎来華》」
「《寺本明》」
「《サトル》」
「《大森美月》」
「《ミラーナ》」
――本来ならば、そうだった。