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番外編-それでも君に恋してた・4-

「なぁ、俺達とお茶しないー?」


「その後、映画とかもどぉ~?」




(え……?)


拓未と別れた後、駅前を通り掛った俺はつい十数分前にも聞いた台詞に足を止めた。




「“忙しい”とか言っておきながらまだこんな所をうろうろしてるんだ?」


「全然暇そうじゃ~ん?」


声がする方に顔を向けると、それはやっぱりさっきのチャラ男二人だった。


そしてナンパしている相手も――、


「あ、あの……」


神崎さんだった。


上木さんがいないからどこかで別れたのだろう。


だけど彼女もわりとはっきりと物を言うタイプみたいだから一人でも大丈夫だろうと思っていた。




しかし――、




「……」


彼女はただオロオロしているだけだった。


どうも様子がおかしい。




(……?)


俺は不審に思い、チャラ男二人に怯えている彼女に近付いた。




「……っ」


神崎さんは突然現れた俺に驚いたのか、怯えたように後退りをした。




「なんだよ? お前?」


「この子の知り合いか?」


敵対心剥き出しのチャラ男達。




「だったら、何?」




「「……」」


チャラ男達は俺が睨み付けると途端に無言になった。




「あんた等、さっきもこの子にフラれたばっかだろ? 二度も連チャンでフラれる勇気は立派だが、


 男として格好悪すぎるぜ。せめて三日は間を置けよ」




「なんだとっ?」


「ふさげんな!」




「ふざけてんのはどっちだよ? よく見てみろよ? 彼女、怯えてんじゃねぇか。


 もし、彼女に何かしてみろ? 被害届なんか出されて困るのはそっちだぞ?


 証人が必要って事になったら俺がいるしな」




「「……」」


脅し半分で言った俺の言葉をまんまと真に受ける二人。




「わかったら、二度とこんなナンパはしない事だな」


俺がそう言うとチャラ男二人は無言でその場を立ち去った。




「大丈夫?」


俯いたまま怯えた様子の神崎さんに声を掛ける。




「……あ、の……」


小さな声を発しながら俺を見上げた彼女は涙目になっていた。


その目は完全に怯えているようだった。




(……?)


俺を怖がってるのか?




先程見掛けた彼女の様子とはあまりにも違う。




「えーと……それじゃ」


俺は早々に退散を決めた。




「あ、あのっ」


すると、神崎さんが慌てて俺を引き止めるように再び口を開いた。




「うん……?」




「……あ、ありがとう、ございました……」


小さな声だったけれど、神崎さんはそう言って俺におじきをすると逃げるように立ち去った――。






     ◆  ◆  ◆






翌日――、


廊下で神崎さんにすれ違った。




クラスメイトの女の子と楽しそうに話をしながら歩いている。




(……)


昨日、駅前で会った時とギャップがあまりにもあり過ぎる。

 





そして昼休憩――、


学食にパンを買いに来た俺の前に神崎さんが並んでいた。




やっぱり昨日の様子とはまるで違う。




「……ちょっと、何?」


しかも、俺が後ろからガン見しているのがバレたのか怪訝な顔で神崎さんが振り返った。




「さっきからすんごい視線を感じるんだけど? 何か言いたい事があるんならハッキリ言えば?」




(えぇーっ?)


「いや……」


正直、俺は面食らった。




「おい、和磨、どうしたんだ?」


すると、そこへ一緒に学食に来ていた拓未が近寄ってきた。




「……後で話す」


俺はひょっとしたら昨日、駅前で会ったのは神崎さんじゃないのかもしれないと思い始めた。


だって、やっぱりどう考えてもおかしすぎる。


いくらあの子が怯えていたとは言え、俺の顔くらいは憶えているはず。


昨日の今日だし。


余程記憶力が悪くなきゃ忘れないだろう。


辺りもまだ明るい時間だったし。






「んで? 舞ちゃんと何揉めてたんだ?」


拓未の目の前に腰を下ろすと奴は興味深げに訊いて来た。




「……昨日さ、神崎さんと上木さんがナンパされてたじゃん?」




「あー、あのチャラい奴等?」




「そう……で、そのチャラいの二人を一蹴してたよな?」




「してたしてた。見事にビシッと」




「だよな?」




「どうしたんだ?」


拓未は苦笑いしながらカレーライスを一口パクリと食べた。




「俺、お前と別れた後に駅前でまたあのチャラい二人がナンパしてるのを見掛けたんだ。


 しかも相手の女の子が神崎さんだった」




「え……?」




「『さっきは忙しいって言ってたのに暇そうじゃん?』……て。


 でも、俺、またきっぱり『行かない』って言うもんだと思って遠巻きに見てたんだ」




「ふんふん?」




「……だけど、彼女すごくおどおどしてたんだ」




「けど、昨日はあんなにはっきり『嫌だ』っていう意思表示をしてたじゃん?


 つか、香奈ちゃんはいなかったのか?」




「あぁ、神崎さん一人だった」




「じゃあ、一人だったから怖かったのかな?」




「にしてもなぁ……で、なんかヤバそうだったから助けに入ったんだ」




「ほぉ~?」




「そしたら、なんか俺にも怯えてる感じだった」




「うはっ、舞ちゃんてちっちゃいから、デカいのが来て怖かったんじゃないのか?」




「うーん……」


確かに俺はまだ180cmには届いていないけれど神崎さんから見ればデカいのかもしれない。




「それで、その後どうなったんだ?」




「とりあえず、お礼を言われたけど逃げる様に去って行った」




「……てか、それホントに舞ちゃんだったのか? 今のお前の話を聞いた感じ全然舞ちゃんの話に思えないんだけど?」


拓未が怪訝な顔をする。




「そうだよなぁ? それで俺もおかしいと思って、さっき彼女をガン見してたんだ。


 そしたら『何か言いたい事があるのか?』って言われた」




「なるほど、それでか。でも、普通助けて貰った相手にそんな事言わないぞ?


 やっぱそれって別人だったんだって。それか幻だったか」




「幻って……白昼夢か?」




「そそ」




「でも……そうだよなぁ?」


そうすると全ての説明がつく……ような気がする。


現にチャラ男達も神崎さんだと思って声を掛けた。


しかし、彼女ではなかった。


その証拠にあの子も何の事だがわからないという風にオロオロしていたし。




「実は和磨も舞ちゃんの事、密かに狙ってるからそんな幻を見たんじゃないのか?」


拓未はニヤニヤしている。




「俺はそんなつもりはないんだが……」




「“ザ・無自覚”♪」




「“ザ”は付けなくていい」


それに俺は神崎さんの顔を見ても拓未みたいにテンションが上がる事はない。




(てか、これが“無自覚”って事なのか?)




「お前、バイトの疲れが出てるんじゃないのか?」


すると、拓未がそんな事を言った。


俺は最近、バンドの活動資金稼ぎの為にバイトを始めた。


ほとんど家にいない両親からは十分な小遣いは貰っている。


しかし、高校生になって好きで始めたバンドの活動資金くらいは自分で稼ぎたかったのだ。




「そうかもな」


そうだ……俺はきっと疲れてるんだ。




(今日は早く寝よう――)






     ◆  ◆  ◆






数日後――。


週末の土曜日、この日は俺達Juliusの記念すべき初ライブの日だ。




「やべぇ……超緊張する」


准は朝からずっと同じ事を言っている。




「俺、もう一回トイレ行ってくるっ」


智也もずぅーっとこんな調子だ。




だが、しかし――、




「ワクワクすんなぁ~♪」


拓未だけはこんな調子だった。




俺はと言うともちろん緊張はしていたが、どちらかと言うと拓未と同じ様にワクワク感の方が大きかった。






そして、俺達がライブハウスに到着した十分後――、


「「「「「おはようございます」」」」」


対バンのメンバーも到着した。




初出場の俺達はもちろん前座。


メインのバンドは大学生くらいの人達だった。


しかし、その中に一人だけ高校生くらいの女の子がいた。




(あ――)

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