番外編-それでも君に恋してた・2-
「なぁなぁ、和磨、そろそろバンド組まねぇ?」
四月、高校に入学して間もなく――、拓未と帰り道にあるファーストフードに寄り道した時、
そんな事を言われた。
拓未とは小学三年生からの付き合いで、小学生の頃は同じ野球チームでバッテリーも組んでいた。
中学に入ってからは二人共音楽に目覚めて野球チームを辞めたけれど、一緒にギターを始めて
入試が終わった後、高校に入ったらバンドを組もうと話していた。
「そうだなぁ、けど、他のメンバーはどうするんだ?」
「楽器屋なんかによくメンバー募集の貼り紙があるだろ? あれ、出してみようと思うんだ。後、学校の掲示板」
「学校の掲示板って、そういうのも貼って良いのかな?」
「生徒会に申し込めば貼ってくれるって。今日、休憩時間に先生に訊いてきた」
拓未は思いついたら即行動するタイプだ。
俺に話す前に既にある程度リサーチをしていたみたいだ。
「じゃあ、とりあえず今から楽器屋に行って、明日は生徒会に行ってみるか」
「おぅ♪」
拓未はワクワクしたようににんまりと笑った。
◆ ◆ ◆
「やっぱ、ベースとドラムの募集が多いな?」
楽器屋へ行き、店内の掲示板に貼ってあるメンバー募集のビラに一通り目を通していると、
拓未がげんなりした様子で口を開いた。
ヴォーカルやギターの募集もない訳じゃないが、ヴォーカルだけを募集とか、そのまた逆でギターだけの募集しかない。
俺と拓未の二人が加入出来る様なヴォーカルとギターの募集がないのだ。
「お、これ……て、駄目だ。『女の子限定』って書いてある」
「こっちは社会人バンドだ」
「う~ん……やっぱ俺等もビラを貼っとくしかないな」
そう言うと拓未はメンバー募集用の用紙を貰いにレジに向かった。
「おーい、和磨、ここで書かせて貰えるらしいぞー」
間もなくして、レジの横のテーブルに移動した拓未が俺に手招きをした。
近付いてみるとそこにはいろんな色のペンと、白紙のメンバー募集の用紙が纏めて置かれていた。
どうやら店員に一声掛ければテーブルにあるカラーペンを自由に使わせて貰えるみたいだ。
「やっぱり、ここは“情熱の赤”で記入だな♪」
拓未が真っ赤なカラーペンを手に取る。
「募集パートは赤でいいけど詳細とかは黒かグレーがいいんじゃないか? 赤ばっかだと目が痛くなるぞ?」
「おぉ、そうか♪」
募集パートの欄に太く大きな文字で“Dr&Ba”と書いた後、拓未は次に黒いペンを手にした。
「詳細は……“プロ志向”、“出来れば同年代の男”って感じか?」
「うん、あんまり注文が多いのも敬遠されるだろうしな」
「連絡先は俺のメアドでいっか」
「俺のはいいのか?」
「うん、窓口は一つの方がややこしくなくていいと思うんだ。なんか反応あったら、とりあえず会う約束をして
二人で会ってみればいいし」
「それもそうだな」
「これでよし、と」
拓未は募集パートと条件、代表者の連絡先等を書き込むと満足そうに言ってカラーペンをペン立てに戻した。
「「宜しくお願いします」」
拓未と二人で店員にビラを渡すと、
「じゃあ、今日から一ヶ月間貼っておきますね」
そう言ってさっそく掲示板に貼ってくれた。
「俺、ちょっとギターの絃とピック見たい」
そして拓未がギター関係の小物が置いてある方を指差した。
「俺は気になるCDがあるから、そっち見てるよ」
「おう、じゃまた後で」
俺は拓未と一旦別れて、別フロアにあるCDと音楽雑誌、それと楽譜が置いてある売り場に行った。
(えーと……The Salt Of The EarthのCDは……)
“The Salt Of The Earth”というのは、最近デビューした明るい爽やかなRockをやっているバンドだ。
俺と拓未がやりたい音楽とは少し路線が違うが歌詞やメロディーだけでなくアレンジとかコード進行が変わっているから
聴いていて面白いと思えるアーティストだ。
(あ、これだ)
まだそんなにブレイクはしていないから、最新アルバムもあまり目立たない所に陳列されていた。
俺がそのアルバムを手に取ると――、直後、白く細い指の手が横から伸びて俺と同じCDを手にしていた。
何気なくその人物を見る。
だが、顔はよくわからない。
背が低くて長い黒髪。
体つきはとても華奢で真新しいどこかの制服を着ているという事は俺と同じ高校一年生か?
俺の真横に立っているその女の子は、The Salt Of The EarthのCDを手にレジに向かった。
俺はなんだか嬉しかった。
自分と同じ様にThe Salt Of The Earthのファンがいる事を――。
「和磨」
その女の子の後姿に見惚れていると拓未が楽器店のショッピングバッグを片手にやって来た。
おそらく絃でも買ったのだろう。
「どうしたんだ? ボーッとして」
「いや……」
買ったばかりのThe Salt Of The EarthのCDを手に楽器店を出る名前も知らない女の子を横目に
俺も手にしたCDを購入する為にレジに向かった――。
◆ ◆ ◆
翌日の昼休憩――、
俺と拓未は生徒会室に校内の掲示板へ貼り出して貰う為、申請に行った。
内容は昨日の楽器店で書いたビラと同じ。
そして、その日の放課後――、
さっそく拓未の携帯が鳴った。
ほぼ同時に。
それは、楽器店に貼って貰った方じゃなく、学校内の掲示板を見た人物からだった。
一人はベースの小川准。
もう一人はドラムの早坂智也。
俺と拓未はその二人と学校近くのコーヒーショップで会う事にした。
所謂“面接”だ。
腕はともかく、まずは第一印象――。
「俺、一年一組の小川准。バンド経験はないけど中二の夏くらいからベースを始めて毎日練習してたから
足を引っ張らない程度には弾けると思うんだ」
ニカッと可愛らしい笑みを浮かべて言った准。
人当たりは良さそうだ。
「俺は一年五組の早坂智也。俺もバンド経験はないんだけど、うちのマンションの一階にジャズ喫茶があって、
そこのマスターに小六くらいからドラムを教えて貰ってるんだ。
だから俺も足を引っ張らない程度には叩けると思うよ」
智也もまた柔らかい笑みを浮かべて“足を引っ張らない程度”とは言ったけれど、少し自身有り気だった。
しかし、彼もまた人当たりは良さそうだ。
「俺は一年二組の望月拓未。中一で音楽に目覚めて隣にいる和磨と一緒にギターを始めたんだ」
拓未も笑みを浮かべて自己紹介をする。
「一年七組の篠原和磨……ギターもだけどヴォーカルに関しても中一から」
「コイツ、いつもこんな感じなんだ。無表情で口下手というか無口。だから気にしないでね?」
なるべく表情を柔らかくしたつもりだったけれど、やっぱり俺は全然固い表情をしていたのか拓未がフォローしてくれた。
「とりあえず、なんか合わせてみようぜ?」
智也がワクワクした様子で言った。
だが、俺と拓未、それに准も楽器を持って来ていない。
まさかビラを書いたその日にいきなり音合わせなんて事になるとは思っていなかったからだ。
「あ、楽器なら俺の師匠の店で貸して貰えると思う。ここから一駅だから行こう」
そう言ってスクッと立ち上がった智也。
「おう♪」
拓未は満面の笑みで立ち上がった。
コイツは基本的に行動力がある奴は好きだ。
だから智也とは気が合うだろう。
「あ、待って」
准は話の展開の早さに少し戸惑いながら立ち上がり、俺と一緒に二人の後を追った――。
◆ ◆ ◆
智也のドラムの師匠の店だというジャズ喫茶で二曲程合わせた後――、
「俺は全然OK、和磨はどうだ?」
拓未はすっかり彼等を気に入ったらしく、ニッと笑った。
「俺も二人となら上手くいく気がするよ」
彼等はとても気さくで第一印象が良かったし、腕も悪くないと思う。
変に気を遣わなくて済みそうだ。
俺がこんな風に感じる相手も珍しい。
「和磨がそう言うなら問題ないな。宜しく、准、智也」
拓未がそう言って二人に握手を求めた。
その手を握った准と智也はニカッと笑みを浮かべた。
「これから宜しく」
俺もそう言って二人に手を差し出すと准と智也は満面の笑みで手を握り返してくれた。
これが俺と拓未、准と智也との出会い……『Julius』が結成された瞬間だった――。