続編 -和磨の本音、唯の本音・8-
「唯、帰って来て」
和磨の本音を聞き、唯が驚いていると和磨は唯の肩を抱き寄せ、耳元に囁いた。
「うん」
唯はゆっくりと頷きながら返事をした。
すると、和磨は「もう一つ、言いたい事があるんだけど」
と、唯の顔をじっと見つめた。
「俺のところに来て欲しい」
「え?」
「俺と一緒に暮らそう。今の部屋だとピアノが置けないけど、
唯が日本に帰ってくるまでにピアノも置ける部屋を絶対探すから」
和磨は唯から目を逸らす事無く言った。
「あ、ううん、ピアノはいいの」
「……? どうして?」
「えっとね、今日お昼に山内さんとも話したんだけど、日本に帰って
ピアノが置けるマンションを見つけるとしても場所的に難しいだろうって事になって、
それなら事務所のスタジオにピアノがあるからそこで自由に練習ができるように
してくれるって事になって……」
「じゃあ、問題なし?」
「うん、あ、でも……同棲する事になったらパパラッチとか大丈夫かな?」
「俺はいくら撮られたって平気だけど、唯はやっぱり気になる?」
「まったく気にならない訳じゃないけど、前よりは平気になったよ?」
「じゃあ、問題なし!」
和磨はそう言うと思いっきり唯を抱きしめた。
――それから三ヵ月後。
桜吹雪が舞う中、和磨は空港に向かって車を走らせていた。
今日は唯が日本に帰って来る日――、
今までのような“一時帰国”ではなく“帰国”する日だ。
唯の荷物はもう既に和磨のマンションに届いていた。
といっても、そのほとんどが衣類と本や楽譜だった。
日本を拠点に移したとしても一年の三分の一程度はパリに滞在する事になる。
それでパリにある唯のマンションは一応そのまま残すことにしたからだ。
空港に着き、和磨は車を駐車場に停めた後、国際線到着ロビーに向かった。
早く唯に会いたいと言う気持ちを落ち着かせるように煙草に火を点け、
唯を乗せた飛行機が到着するのを待っていた。
間もなくしてパリからの飛行機が着陸し、和磨は二本目の煙草に火を点けた。
そして三本目の煙草を銜えて火を点けようとしていた時、
「かず君」
唯の声が耳に届いた。
ふと顔をあげると唯が目の前に立っていた。
ちなみに唯のマネージャーの山内はというと昨日、
一足先に日本に帰って来ていて今日は唯一人で帰って来たのだった。
深く被ったキャップとサングラスの下で和磨は嬉しそうに笑みを浮かべると
唯の荷物を持った。
「おかえり」
そして和磨が柔らかい笑みでそう言うと唯も「ただいま」と、嬉しそうに笑った――。