続編 -和磨の本音、唯の本音・6-
「神崎さん」
「はい」
「もしかして昨夜、Kazumaさんここに来られました?」
仕事に向かう車の中、山内さんは運転しながらバックミラー越しに
私をちらりと見た。
「……」
確かに昨夜、突然かず君がホテルの部屋に来た。
(なんで知ってるんだろ?)
「さっき、ロビーでKazumaさんを見かけたんですけど、
帽子もサングラスもしてなかったし、少し急いでるようでしたけど、
何かあったんですか?」
「……いえー……」
かず君は昨夜かなり酔っていて、私に澤田さんの事を聞いた後、
眠気が襲って来たのかそのままベッドで眠ってしまった。
そして、つい15分前に私の携帯に望月くんから電話があり、
慌しく帰って行ったのだけれど……
(かず君……多分、お仕事遅刻しちゃったんだろうなー)
「……神崎さん、僕ー、思うんですけどー……」
「は、はい?」
「神崎さん、今パリを拠点にしてますよね?」
「はい」
「日本を拠点にしようとは考えていないんですか?」
「それは……」
考えていなくもない。
いや、寧ろできればそうしたいと思っている。
「でも、それは難しいことなんですよね?」
今の私はパリでの仕事が半分、後の半分は日本や他の国での演奏会などだ。
その状態では拠点を日本に移すことは難しい。
「いえ、意外とそうでもないですよ?」
しかし、山内さんはあっさり言った。
「確かに今の仕事の割合のままじゃ無理ですけど、仕事のウエイトを
日本に置けば可能ですよ? それでも一年の三分の一くらいは
海外になるでしょうけど。
今までは橘さんから引き継いだとおりのマネージメントをしてましたけど、
その頃とは事情が違ってきていますし、そろそろこういう話を
しようと思っていたところなんです。
神崎さんの人気は日本でも高いですし、日本を中心にした演奏活動と
芸能活動も有りだと思います。
実際、日本からのオファーもたくさんあるわけですし。
神崎さんがどうしても海外での活動に拘るのであれば別ですけど、
もし、特に理由がないのでしたら考えてみませんか?」
「はい……」
(そっか……今までは私が橘さんに「日本へは帰りたくない」って言ってたから……)
「ただそうした場合、問題はKazumaさんとの事で今まで以上に
パパラッチが付き纏ってくることになると思います。
まぁ、事務所としてはいきなり“できちゃった”とかは流石にびっくりするんで、
そういうのだけ素っ破抜かれる前にコソッと言っておいてくれればいいですから」
「え……っ」
(“できちゃった”て……)
山内さんは時々びっくりするような事を言う……。