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続編 -和磨の本音、唯の本音・4-

『ニューイヤー音楽祭』の打ち上げが終わってホテルに戻り、


シャワーを浴びた後、テレビを付けてソファーに座るとドアチャイムが鳴った。




(……? こんな時間に誰かな?)




時間はもう0時近い。


マネージャーの山内さんや澤田さんならこんな遅い時間に訪ねて来る時は


一度電話をしてから来る。


もしかしてシャワーを浴びている間に携帯が鳴ったのかな? と思い、


携帯を開いてみたけれど着信履歴はなかった。


その間もドアチャイムは何度も鳴り、私がドアを開けるのを躊躇っていると


微かにドアをノックする音がして「唯、いないの?」と、声が聞こえた。




(かず君?)




慌ててドアを開けると、


「きゃ……っ! か、かず君っ!?」


ドアに寄り掛かっていたのか、かず君が倒れるように部屋に入ってきた。




「かず君? 大丈夫?」


かず君は酔っているみたいだった。


こんな彼を見るのは初めてだ。






とりあえずなんとかベッドまで連れて行き、冷蔵庫から冷たい水を出して手渡そうとすると、


腕を取られ、押し倒された。


「かず……っ」


少し乱暴にキスをされ、私が抵抗するとかず君は唇を放し、何か言いたそうに見下ろしていた。




「……ごめん」


束の間の沈黙の後、かず君が後悔した様に言った。


そして私の腕を軽く引っ張って体を起こしてくれた後、気持ちを落ち着かせるように水を一気に飲んだ。




「……」


なんて言っていいかわからず、黙っているとかず君の方から口を開いた。




「……聞きたい事があるんだけど」




「……?」




「今日、唯と共演してた奴って……前に一緒に撮られた奴だよな?」




「……うん」




「あの人って……」


かず君はそこまで言うと、その先の言葉を選んでいるのか、なかなか次の言葉が出てこなかった。




「俺、最初は唯の恋人ってあの人だと思ってたんだけど……、


 でも、唯の恋人って橘さんだったんだよな?」




「うん……」




「……けどあの時、週刊誌に撮られた写真って……、合成とかじゃないんだろ?」




「うん」




「じゃあ……あの週刊誌に書いたあった事も……全部、その……」




「澤田さんとは何でもないよ?」


私がはっきり言うとかず君は少しだけ顔をあげた。




「確かに澤田さんにはよくコンサートに連れて行って貰ってるし、その後一緒に食事もしてるよ。


 特に音楽院に通ってた時は部屋も隣同士で同じ日本人の好みで良くして貰ってたし」




「へ? 隣同士?」


「うん」


「じゃあ、同棲してた訳じゃないんだ?」


「うん。同じアパルトマンだったけど部屋は別々」


「あ……で、でも、あいつ唯の事、前に“俺の天使”とか言ってたけど……」


「え? それっていつ?」


一体、澤田さんはいつそんな事を言ったのだろうか?


私が首を捻っていると、


「パリのスタジオで唯と会った時」


と、かず君が答えた。




そういえば、あの時、澤田さんは差し入れを持って来てくれたんだっけ。


私と話す前にかず君達と話していたのかな?




「それって多分、あんまり深い意味はないと思うよ?


 音楽院に入学したばかりの頃にね、澤田さんがちょっと行き詰まってた時期があって、


 その時にちょうどお父さんが公演でパリに来てて、気分転換に公演のリハーサルを


 一緒に見学させてもらったことがあるの」




「それってー……神崎修一さん、だよな?」




「うん。それで、そのリハーサルの後にお父さんと一緒に食事する事になって


 いろんな話しているうちになんか立ち直ったらしくて、


 だから私の事、“天使”だなんて言ったんだと思うよ?」




「ふーん……」




「それに澤田さんにちゃんと真剣に付き合ってる彼女もいるし」




「えっ?」


かず君は澤田さんに彼女がいるのが意外だったのか驚いていた。




「澤田さんと同い年の人でね、パティシエの修行で同じパリにいるの。


 “理恵”さんて言って、私ともすごく仲良くしてくれてる


 お姉さんみたいな人なんだけど、その人、クラシックとかそう言うのに


 まったく興味がないと言うかー……オーケストラとかオペラとか、


 聴くのが苦手みたいで……だからいつも澤田さん、私を誘ってくれてるの」




「そ、そうなんだ……」




「……かず君、ずっと気にしてた?」


澤田さんの事はいつか聞かれるんじゃないかと思っていた。


多分、気にしてるんじゃないかなー? っていうのも薄々感じていた。




「……うん」


かず君は俯いて返事をした。




「ちゃんと言わなくて、ごめんね」


言わなくちゃ……と思いつつ、なんて切り出していいかわからなくて


そのまま黙っていたけれど。




「もっと早く聞けばよかった」


軽く息を吐き出してかず君が呟くように言った後、


「俺の事、好き?」


かず君はまだ不安そうな顔で私の肩を抱き寄せた。




「うん、大好きだよ」




「愛してる?」




「うん、愛してる……」


私は、“愛してる”って言う言葉をこの時初めて口にした。


いつもは“好き”とか“大好き”だったけれど、


そんな言葉だけじゃ、かず君は不安なのかもしれない。

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