続編 -和磨の本音、唯の本音・3-
年が明けて間もなく、唯が出演する『ニューイヤー音楽祭』――。
俺はJuliusのメンバーとJuliusのマネージャー・菊本弥生、
そして今俺の真横でパンフレットを手に
「あ、今日はこの人も出るんだ?」
口を開いた上木さんと会場に来ていた。
「この人って?」
拓未は上木さんの隣を歩きながらパンフレットを覗き込んだ。
「「あ……」」
俺の前を歩きながら一緒にパンフレットを見ていた准と智也も
上木さんが見ていたページを開くと足を止め、ゆっくりと俺を振り返った。
「え……な、なんだよ……?」
気がつくと准と智也だけじゃなく、拓未と上木さん、弥生さんまでもが
俺の顔をじっと見ていた。
「……和磨、知ってたのか?」
あまり反応を示さない俺に拓未は不思議そうな顔をした。
「知ってた」
拓未の言っている“知っていたのか?”とは、この『ニューイヤー音楽祭』に
唯と俺の初スキャンダルの時に一緒に素っ破抜かれた男、
澤田祐介が唯と一緒に出演する事だった。
「ふーん……」
拓未達は俺が澤田の事を気にしていないと思ったのか、
そう返事をして再び歩き始めた。
(知ってはいたけど、別に気にしていない訳じゃないんだけどな……)
澤田の事は唯から直接「共演する」と聞いていた。
しかし、特にそれ以上唯も何も言わなかったし、
俺もあまり根掘り葉掘り聞くのもどうかと思い、敢えて聞かなかった。
客席に座り、俺もパンフレットを開いてみると
今回共演する唯と澤田がツーショットで写っていた。
(むー……)
澤田のプロフィールを見てみると俺達より四つ年上で、
去年、唯と同じ音楽院の指揮科を卒業したばかりだった。
しかもつい最近、ドイツで行われた大きな指揮者コンクールで優勝したのだとか。
で、今回はその優勝した時の曲『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調「皇帝」』を
澤田の指揮と唯のピアノで共演するらしい。
オーケストラのメンバーが舞台に出て来てコンサートマスターとチューニングを合わせた後、
黒のテールコートを着た澤田と共に淡いグリーンのシングルショルダーのドレスを着た唯が出てくると、
まだ演奏前だと言うのに大きな拍手と歓声に会場が包まれた。
いつもはストレートの髪も今日は緩く巻いてあって、サイドの髪を纏め上げすごく可愛い。
……と言うか、すこぐ綺麗だ。
そんな唯に見惚れていると拓未がククッと笑いながら俺を見ていた。
(何が言いたいかは、だいたいわかる気がするけどな)
「……」
俺は無言で拓未から目を逸らした。
そして軽く座りなおして正面を向くと、ちょうど澤田の指揮で演奏が始まった。
オーケストラを率いて堂々と指揮をする澤田はさながら『皇帝』そのもので、
力強く演奏している唯ももう一人の『皇帝』の様だった。
“二人の皇帝”
しかし、決して二人がぶつかり合って主張しているようには見えなくて、
澤田がリードしたり、唯がリードしたり……
二人が創り出す音の世界に自然と惹きこまれていった――。
演奏が終わり、会場はスタンディングオベーションの嵐に飲み込まれた。
唯と澤田の二人は何度もカーテンコールに応え、舞台に出てきた。
休憩時間になり、この後仕事がある俺達は唯に挨拶だけして行こうと楽屋に向かうと、
唯の楽屋の前で澤田と二人で楽しそうに何か話していた。
“二人で”……