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続編 -和磨の本音、唯の本音・2-

ライブが終わって打ち上げの後、唯と一緒に俺のマンションに戻ると、


「お疲れ様……かず君」


唯が柔らかい笑みを俺に向けた。




「……うん」


靴も脱がずに玄関でキスをした。


すると、唯は少しだけ顔が赤くなっていた。


でも、それは打ち上げの席でも少しだけ飲んでいたからかもしれない。


“少しだけ”と言うのは、唯はこの間、俺の誕生日に拓未の部屋でワインを飲んで、


その後、俺の部屋で二人きりになった時には既に酔いが回っていてすぐに眠ってしまった。


だからあの時以来、唯は俺の前でアルコール類を飲む事は控えていた。






「アンコールの曲、聴いてくれてた?」


普段、ステージから客席は見えないのだけれど、今日はPAブースに唯がいた。


PAには暗い客席の中でも操作が出来る程度の明るさを確保する為に小さなライトがある。


そして、そのライトの微かな灯りで唯がどこにいるのかがわかった。




「うん……」


唯は俺を真っ直ぐに見つめ返した。




『言葉のかわりに』は、唯と別れてから一度も歌っていなかった。


元々は唯の為に書いた曲と言う訳ではなく、当時高一だった俺が


適当に“恋愛ごっこ”をしている中、書いた曲だった。


しかし、唯と出会ってから、唯を好きになって付き合うようになってから


唯の為だけに歌いたいと想う様になった――。




だから、唯と別れて離れていたこの三年間はどうしても歌うことが出来なかったのだ。




「かず君、大好き……」


唯が珍しくそう言って俺の胸に顔を埋めた。


一瞬、酔っているのか? とも思ったけれど、少し潤んだ瞳で俺の顔を


見上げた唯は真剣そのものだった。




「唯……」


唯は橘さんと別れてから徐々に“好き”と言う言葉を口にするようになった。


最初は橘さんの事を忘れたいからだと思っていた。




だけど唯は俺と会う度、見つめる瞳が真剣で何か言いたそうで……。










――時計の針が0時を回り、25日になった。




「「メリークリスマス」」


俺と唯はロゼで乾杯をした。


二人とも明日も朝から仕事があるからグラス一杯だけだけど。




「そういえば、唯、正月はどうするの?」




「一応、実家には帰るつもり」




「……え、てか、唯の実家って、今誰もいないんじゃ……?」


唯の家族は両親もお兄さんも唯と同じ様に世界中で活躍している。


両親は一応、日本を拠点にしているみたいだけど、


ほとんど家にいる事がないと言っていたし、兄の雅紀さんも


留学先だったウィーンの音楽院を卒業して、そのままそこを拠点にしている。




「そんな事ないよ?」




「そうなの?」




「うん、普段はハウスキーパーさんがいるし、それに今年のお正月は


 お父さんもお母さんもお休みが取れたみたいだから」




「じゃあ、正月はずっと実家?」




「うーん、でも、年明けに『ニューイヤー音楽祭』があるから


 リハーサルとかであんまり実家でゆっくりできないけど」




「あ、そうか」


唯は新年早々コンサートがある。


いろんな音楽家が出る音楽祭で明日もそのリハーサルがあるらしい。




「それにホテルもとってあるから実家には大晦日の晩に泊まるくらい」




唯は日本に帰ってきた時は必ずホテルをとっている。


今日みたいに俺と会った時は俺の部屋に泊まっているけれど、


出来れば日本にいる間くらいはこの部屋に帰ってきて欲しいと俺は思っている。




その為に合鍵も渡してあるんだけどな。

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