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第四章 -12-

……コン、コン――。




どのくらい時間が経ったのだろう……?




遠慮がちなノックの音が放心状態の唯を現実に引き戻した。




……誰だろう? そういえば……プレゼントが届くと言っていた。




唯はドアノブに手を掛けて、ゆっくりとドアを開けた。




そして、てっきりホテルのボーイだと思っていた唯の目の前に現れたのは和磨だった。




「……っ!?」


なぜ、和磨が……ここに自分いる事は橘と山内以外知らないはずなのに。


唯は驚きを隠せないでいた。


するとその時、廊下で話し声がした。




(……っ!)


こんな所で和磨の姿を見られたらまずい。


唯は咄嗟に和磨の腕を取り、部屋の中に引き入れた。




「……あ……ご、ごめん……」


驚いている和磨の顔が目に入り、とりあえずそう口を開く。




「……いや」




「……」




「……」




しばしの沈黙の後、ようやく唯が口を開いた。


「どうして……ここに?」




展望台の時と同じ質問。




「……橘さんから、電話があったんだ」




「えっ!」


和磨から返ってきた答えに唯は驚いた。




「唯を迎えに行って欲しいって言われた」




「橘さんが?」




「“最後のプレゼント”……そう言えばわかるって言ってたけど……」




「……っ!」


最後のプレゼント……確かに“ナマモノ”だ……。


たとえ自分と別れても唯の事だから和磨の所へは自分からは戻らない……と思ったのだろう。


彼らしい“最後のプレゼント”だ。




だが……素直には受け取れない。




だって……きっと和磨は……。




「唯……俺……、ずっと唯に謝りたかったんだ……」




(謝りたかった……?)


「……な、なんで……?」




「唯がパリに行った日……あの時の事、長瀬から聞いた……」




「……!?」


あの時の事とは……町田に呼び出された時の事だ。




「……俺の所為で……ごめん」




「篠原くんの所為じゃないよ……」




「……でも……」




「昔の事だし……」




「……ごめん……ホントに……」




「もう忘れたから……」




「唯……」


忘れられるはずもない事を『もう忘れた』と言った唯。


それがどんなに辛い事か……和磨は胸が締め付けられる思いで唯を見つめた。




「唯の気持ちも考えずにあんな事言ってすごく後悔してる……」




「……何も言わなかった私が悪かったんだし……篠原くんが怒るのも無理ないよ……」




「唯……」


気が付くと和磨は涙を流していた。




「泣かないで……」


唯は和磨の涙を初めて見た。


頬に触れると唯の指を伝って涙が零れ落ちた。




「……唯……ごめん……ごめ、んな……」




「あの時の事はもう……忘れて……?」




「……ごめん……」


和磨は唯を抱き寄せ、何度も何度も泣きながら謝った。






「……唯……もう一度……俺とやり直してくれないか?」




「……え?」


和磨の口から思っても見なかった言葉が出てきた。




「でも……私の事……もう嫌いになったんじゃ……」




「そんな事あるはずないだろ」


和磨はそう言って真っ直ぐに唯を見つめた。




「あの日からずっと後悔して……ずっと唯の事が忘れられなかった……」




「っ」




和磨も自分と同じ様にずっと忘れられなかった……?




「唯は……やっぱり橘さんじゃないと嫌? 俺じゃ、駄目?」




『そんな事ない』、素直にその言葉を口に出来ない唯。




“自分の気持ちに素直になれ”




(私もずっと忘れられなかった……)




“最後のプレゼント”




“ちゃんと受け取れよ”




“幸せに”




橘の最後の願い……。


そしてその橘の言葉が唯の心を解き放った……。




唯は首を横に振った。




「唯……っ」


ポロポロと涙を流し、泣き始めた唯を和磨は抱きしめた。


ずっとこの腕の中に戻りたいと思っていた。


展望台で撮られた時、抱きしめられていた間、このまま時間が止まってしまえばいいのに……とさえ思った。




「私が……パリに戻ったら……また、会えなくなるよ……?」




「会えなくても唯が俺のものでいてくれるなら……それだけでいい……。


 この三年間でそれがよくわかった……」




「……でも……」




「それに……会うだけがすべてじゃないだろ?」




それは以前、拓未が和磨に言った言葉だった。




「……うん」




「今度は絶対唯の事、離さないから……」




「……」




「だから……俺の所に戻って来て?」




「うん」


唯はそう言って頷き、和磨の背中に手を回した。




「唯……」


和磨は抱きしめた腕の力を強くすると、


「好きだよ……」


唯の耳元に囁いた。




「かず君……」


唯も和磨の名前を呼ぶと、ギュッと背中に回した手の力を強くした。




「かず君……大好き……大好き……っ」


唯はやっと素直な気持ちを言葉にした。




「大好き……」






     ◆  ◆  ◆






和磨は唯の涙が止まると深いキスを落とし、そっと体を離して唯の左手を取った。


そして、薬指にはめられた指輪を抜き取った。




橘が唯に贈ったブルーサファイアの指輪を――。




「橘さんに俺の手でこの指輪を抜き取ってくれって言われたんだ……」




「橘さん……そんな事を……?」




「その後、唯と二人でこの指輪を捨ててくれって……でも……」


和磨はそう言って唯を真っ直ぐ見つめて一旦、言葉を切り、


「この指輪は捨てないで唯が持ってて欲しい」


唯の掌に指輪を握らせ、その上から自分の掌で覆った。




「かず君……」




「唯の事を今までずっと支え続けてきてくれた人だから……」




「……」




「唯にとっても、俺にとっても大事な人だから……だから捨てないでお守り代わりに大事に仕舞ってて?」




和磨の言葉に唯はコクンと頷いた。




「ありがとう……」


唯は自分の左手を覆っている和磨の掌の上に自分の右手をそっと重ねた。






     ◆  ◆  ◆






――それから数日後。




唯の左手の薬指には和磨が贈ったペリドットの指輪が光っていた。




九月十二日の誕生石。




石言葉は……




“運命の絆――”

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