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第三章 -18-

「……なんで? お前から言ったのか?」




唯は首を横に振った。




「じゃ、アイツが……?」




「だから……もういいよ」




「俺との事を疑ってるんだったら、俺がちゃんと話してやるから!」




「いいよ、そんな事したら全部話さなきゃいけなくなるでしょ?」




「だったら、全部話せばいいだろ?」




「駄目!」




「なんで?」




「……」




「アイツが責任感じるかもしれないからか?」


確かに孝太の言うとおり、和磨が有坂にハッキリ言っていればあの事件は起こらなかったかもしれない……。


しかし、それでも起こっていた可能性もない訳でもない。


けれど和磨は事実を知ればきっと責任を感じてしまうだろう。




「お前はいいのか? このまま別れて」




「……いい」




「そんなのおかしいだろ?」




「いいんだってば、その方が篠原くんの為だし」




「なんだよ、それ?」




「だって……私がパリに行ったら最低でも三年は会えないんだよ? 音楽院を三年で卒業出来たとしても、


 活動拠点を日本にする事はないだろうし……」




「だからって……」




「そんなので篠原くんを縛り付けてはおけないよ……」




「だけど……生きてさえいれば会えるだろ?」




「っ」


唯は孝太の言葉にビクリとした。




そうだ……孝太はもう舞とは会えない。




どんなに会いたくても二度と……。




だからこの三年間ずっと苦しんできた。


それを唯は誰よりも知っている。




「それでも……」




「唯、まさか……それで態とこのまま別れるつもりなのか? パリにすぐ行っちゃうのも


 アイツと離れたいからか?」




「このまま別れればきっと篠原くんはすぐ私の事忘れるよ」




そうだ……それがパリに早く行きたい本当の理由。




“和磨を忘れたいから”




「バカ! お前っ……」


「これでいいの!」


「何言ってんだよ!」


「篠原くんなら、きっとすぐに私よりいい人が見つかるもん!」


「お前はどうなんだよ? 篠原の事、本気で好きなんだろっ?」


孝太は唯を怒鳴りつけた。




「……私は……私には音楽があるから」


唯は孝太から視線を外した。




「ふざけんなよ!」


「ふざけてないもん……」


「違う! 篠原の事だよ!」


「コウちゃん……」


「なんでだよ……なんで、唯の気持ちわかってやれないんだ?」


納得がいかない様子で唇を噛み締める孝太。




「コウちゃん……篠原くんは悪くないよ」


「お前はそう思ってても俺が納得いかねぇ!」


「……」


「お前が言えないなら、俺が言う」


「駄目!」


「唯!」


「絶対言わないで!」


「言う!」


「絶対言っちゃ駄目!」


「言う!」


「絶対言うな!」


「言う!」


「言ったら絶交!」


「言……あ?」


孝太は昔から“絶交”という言葉に弱かった。




「篠原くんに言ったら、もうコウちゃんとは絶交するからね!」




「なんだよ、それ! 汚ねぇー!」




「……なんとでも言って」




「くそー」




「とにかく……私には音楽があるし、失恋して落ち込んでる暇なんてないもん」


唯はそう言うと「だから大丈夫」と孝太に笑ってみせた。




しかし、孝太からみれば唯の顔は全然笑えてなどいなかった――。






     ◆  ◆  ◆






和磨は唯と孝太が抱き合っているのを目撃してから、あのペアネックレスも唯に貰ったピアスもバングルも外した。




翌日から話し掛けようともしなかった。




唯の方からも何も言って来ない。


……というか、いつの間に撮ったのか三月から例のシャンプーのCMの春バージョンが流れ始めて、


唯の周りは騒がしくなった。




まだ顔はそんなにハッキリ映っていないけれど、同じ学年で唯の顔をよく知る人物が見ればわかるくらいだった。


おかげで休憩時間になるとクラスの男子はもちろん、他のクラスからも男子生徒が唯の所に来ていた。




だからどの道、和磨が話し掛けようとしても出来なかった訳だが――。






     ◆  ◆  ◆






それから数日が経ち、卒業式の日――。




最後のHR。




今日で和磨が唯の姿をもう見る事はない。




……テレビ画面の中以外では。




(これからは精々アイツと仲良くやってくれ。超遠距離恋愛で)


そんな事を思いながら和磨は目の前に座っている唯の後姿をHRの間ずっと眺めていた。




もうすぐお別れだ……。






HRが終わると、准と智也、それにOracleのメンバーが唯にお別れを言いに教室に来た。


香奈は珍しく大泣きしている。




「唯ちゃん、メールするから」


拓未は香奈の頭をよしよし……と撫で、宥めながら唯に言った。




「うん」




「唯、帰ってくる時は、絶対、……連絡してね?」


香奈はまだ泣いている。




「唯ちゃん、パリデビューする時は教えてね」


「向こうでも頑張ってね」


「俺達がデビューしたら一緒に競演しよう!」


「コラボしようぜ、コラボ!」


みんながそれぞれ唯に別れを言う中、和磨が何も言えずにいると――、




「それじゃ、元気でね」


唯はみんなに笑顔で手を振り、教室を出て行った。




和磨の方を一度も見る事無く……。




唯は、この後JuliusとOracleのメンバーで卒業式の打ち上げに行こうと言ってもパリに行く準備で忙しいらしく、


明日も香奈達が空港まで見送りに行くと言っても別れが辛くなるからと何時に出るのか、どの便に乗るのかさえ言わなかった。






そして唯が教室を出て行った後――、


和磨が窓の外を眺めていると、正門の手前で男子生徒達に囲まれてオロオロしている唯の姿が見えた。


四方八方を塞がれていて身動き出来ないみたいだ。




(あーぁ……どーすんだ?)


なんて思っていると、どこからともなくやってくる孝太の姿が見えた。




(スーパーマン登場ってやつか?)


孝太は唯を取り囲んでいる生徒達を押し退けると、彼女の肩を抱いて人だかりからいとも簡単にあっさりと連れ出した。




(さすがは新恋人。いや……昔から知っているなら唯が取り囲まれて困る事くらいお見通しか。


 もし、俺が駆けつけていたとしても多分、アイツの方が早かっただろうな)


和磨は孝太に肩を抱かれたまま歩く唯の姿を胸が締め付けられる思いで見つめていた。




(もう唯とはなんでもないんだ……)

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