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番外編・ホワイトデー -1-

――三月十日。




今日は唯達が通う高校の卒業式だった。






卒業式が終わり、在校生も午前中で学校が終わった後、和磨が久しぶりに唯とゆっくり話が出来ると思い、


一緒に帰ろうといそいそと帰り支度をしていると、まさしくその唯からメールが届いた。




----------


今日は先に帰るね。


----------




(えー)


和磨は密かにショックを受けた。




(マジかよー)


不機嫌顔になった和磨。




「どうした? 唯ちゃんに振られたか?」


すると拓未がそんな冗談を言って話し掛けて来た。




(まったくコイツは時々、神経を逆撫でする様な事を言いやがる……)


和磨はムスッとしたまま拓未を睨みつけた。




「うはっ、図星!?」


拓未はそう言うとそそくさと香奈と一緒に帰って行った――。






それから二,三日――、唯はずっと一人で先に帰っていた。


しかも、和磨が唯の教室に行こうものなら、避ける様になんだかんだと言って唯は教室を出て行く。




(なんで……?)


和磨は自分が何かしたのかと思い、夜も電話を掛けてみたが唯が出る事はなかった。




おかしい。




絶対におかしい……。






     ◆  ◆  ◆






そして春休みもいよいよ間近に迫った十四日、またまた女の子にとってドキドキするイベントの日。


一ヶ月前にチョコを渡した相手から返事が返ってくるホワイト・デー。




和磨と拓未は例によって朝っぱらからファンの子達に囲まれていた。


皆、もしかしたらお返しがあるのではないかと期待して来るのだ。


しかし当然のごとく、和磨はファンの子にはお返しなどはしない。


今まで“彼女”にもしなかったくらいだ。


和磨がお返しをするのはただ一人……唯だけだ――。






昼休み、和磨は女の子達に囲まれる前に唯の教室へ行った。


しかし、唯の姿が見当たらない。




(音楽室か……?)


和磨はクラスメイトと話している香奈に近付き、


「唯は?」


と訊いた。




「あ、今日休み」


すると思いがけない答えが返ってきた。




「えっ!? なんで?」


和磨は唯からは何も聞いていなかった。




(演奏会のリハーサルかな?)


唯は約一ヵ月後に大きな演奏会がある。


去年の十二月に出場したコンクールの上位入賞者による演奏会だ。


その為、最近はずっと練習とリハーサルで忙しい。


それに、この間は取材や撮影なんかもあったらしい。


和磨はてっきり演奏会の事で休んだのだと思っていると、


「風邪でダウンしたっぽいよー?」


香奈の口から意外な事実が語られた。




(……へ?)


「風邪?」




「うん、四,五日前からなんか調子悪そうだったし。てか、篠原くん、気が付かなかった?」


香奈にそう言われ、改めて唯の様子を思い出す。


言われて見れば、なんだか辛そうだった気がしないでもない。




「まぁ、とは言え唯は篠原くんに風邪をうつすまいと必死で避けてたみたいだったしね」




「え……」


(確かに避けてた……。俺が近づこうとすると逃げるようにどこかに行ってたし。


 あれは俺に風邪をうつさないようにする為……?)




「今週末、Juliusのライブでしょ?」




「あぁ」




「ヴォーカリストにライブ前に風邪うつしちゃ洒落になんないと思ったんじゃない?」




「そーゆーコトか……」


(なるほど。唯らしいな……)






     ◆  ◆  ◆






――放課後。




和磨はなんとかファンの子達を振り切り、唯の家に行った。


今日は特別な日……と言うのもあるが、なにより唯が心配だった。




「あら、篠原くん、いらっしゃい」


唯の母・真由美がにっこり笑って和磨を家の中へと入れてくれた。




「あの……、唯さんの具合は?」




「さっきまで熱があったんだけど、今下がってるから大丈夫よ」


そう言って真由美は二階にある唯の部屋に案内してくれた。




コンコンッ。




「唯ちゃん、篠原くんが来てくれたわよー」


真由美はノックをして中で寝ているであろう唯に声を掛けた。




「えっ!? か、かず君……!?」


すると中から唯の驚いた声がした。




真由美がドアを開け「コーヒー淹れてくるわね」と言い、一階へと降りていった。




和磨はおずおずと唯の部屋に入った。


もちろん、ここに入るのは初めてだ。


唯の部屋はピアノがあるからか、十二畳くらいの広めの洋室で全体は淡いブルーで統一されていた。


ピンクの部屋を想像していた和磨の予想は見事にはずれた。


ピアノとドレッサー、ベッド、クローゼット、テレビ、コンポ、DVD、机とテーブル、


ノートパソコン、本棚には大量の楽譜と音楽に関する本。


後は、いくつかの写真立てとぬいぐるみがあった。


やっぱり女の子の部屋だ。




「大丈夫か?」


和磨はベッドにいる唯に近付き、心配そうに声を掛けた。




「うん」


返事をした唯は鼻声だった。


熱が下がって少し動けるようになったからか、唯はパジャマの上に軽くカーディガンを羽織って


本を読んでいたようだ。




和磨はベッドの横に膝をついて、


「寝てなくて平気なのか?」


唯が羽織っているカーディガンを掛け直した。




(こんな時に不謹慎だけど、パジャマ姿も可愛いな)


和磨がそんな事を思っていると、真由美が和磨にコーヒーと唯にはちみつレモンを淹れてきてくれた。


唯のマグカップはもちろん、あのグラスマグだ。


和磨はやっぱりディズニーパスポートじゃなくてよかったかも……と思った。






「わざわざ来てくれるなんて思わなかった」


真由美が部屋を出て行った後、唯は嬉しそうに言って頬を赤くした。




「当たり前だろ? 彼女が風邪ひいてんのに……」


そう言って和磨は唯のおでこに手を当てた。




「ん……、熱はないみたいだな」


さっき真由美から熱は下がったと聞いてはいたが、やはり心配だった。




「俺に風邪をうつしちゃいけないと思って避けてた?」


和磨は唯の顔を覗き込んだ。




「だって、明後日Juliusのライブだし……」


唯はそう言いながら俯いた。




「俺はそんなに柔じゃねぇよ」


和磨は唯に優しく微笑んでみせた。




「う、うん……」


唯は俯いたまま返事をした。




「けど、ありがとな。気ぃ遣ってくれて」


和磨は唯の頭をクシャッと撫でた。




「あ、そうだ……これ」


和磨は唯に小さな紙袋を渡した。




「?」


唯は、不思議そうな顔をしながら紙袋を受け取った。




「今日、何の日か忘れた?」


和磨はクエスチョンマークを頭の上に浮かべている唯に苦笑しながら言った。




「今日? ……あっ!」


唯はようやく思い出したようだった。




「ホワイト・デー」


和磨はにっこり笑った。


紙袋の中身は、クッキーとリボンのかかった小箱、後は風邪をひいた唯の為に急遽買ったのど飴だった。




「さすがにクッキーは手作りじゃないけどな」




「かず君の手作りクッキーなんて想像出来ないよー」


唯はクスクスと笑った。


そして中に入っている小箱を手に取った。




「これ、開けてみてもいい?」




「あぁ」






唯はリボンを解き、小箱を開けた。


中には、花をモチーフにしたシルバーの指輪が入っていた。


小さな花の部分にはジルコニアがあしらわれている。




「かず君……これ……」


唯は思わぬ物が入っていたのか言葉を失っている。


和磨は指輪を手に取り、唯の薬指にそっとはめた。




「え……、ぴったり……」


唯は指輪のサイズがぴったりだった事に驚いている。




「な、なんで……?」


キョトンとしている唯の顔が可笑しくて和磨は思わず笑った。




「内緒」


和磨は悪戯っぽく笑いながらそっぽを向いた。


実は先々週、和磨の部屋に唯が来た時、寝ている隙に糸を薬指に巻き、測っておいたのだ。


これも拓未から教わった方法なのは言うまでもないが。




「かず君……ありがと」


唯は嬉しさの余り、目に涙を浮かべている。




和磨は、そっと唯を抱き寄せ、


「今日はバレンタインに告白してくれたお返しの日」


そう言って、唯にキスをした。




「かず君、風邪うつっちゃうよ……」


唯はすぐに和磨から離れようとした。


けれど、風邪で弱っている唯の力はとても弱く、しかも和磨の腕が唯の肩をしっかりと抱いていた為、


離れられなかった。




「唯の風邪なら喜んで全部貰うよ」


和磨はそう言うと、もう一度唯の唇にキスを落とした――。

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