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第二章 -10-

――その日の放課後。




「篠原、ちょっと……」


和磨の所に戸田直樹が来た。


思わぬ人物の登場に怪訝な顔をする和磨。






「あのさ……神崎さんの事なんだけど……」


人気のない場所まで来たところで、戸田は徐に口を開いた。




(う……この展開……、前にもどこかで……)


「唯がどうかした?」


和磨はなるべく平静を装った。


“あの時”と同じ様に。




「ごめんっ、俺の所為で」




(へ……? “俺の所為”? どういう事だ?)




「なんか……篠原、誤解してるみたいだから」




(誤解?)


「えーと……話が見えないんだけど?」




「あー、ごめん。最初から話すよ」




「あぁ」


(是非そうしてくれ。ワケガワカラン)




「先週の金曜日、俺と神崎さんがファーストフードにいたトコに篠原達もいただろ?」




「……あぁ」


(気づいてたのか)




「あれ……別にデートしてた訳じゃないから」




「え……?」


(そうなのか?)




「実は、神崎さんと上木さんが文化祭にライブやっただろ?」




「あぁ、Oracleね」




「そう、そのバンドでベースやってた子に……なんていうか……その……」




(……? 何が言いたいんだ?)




「まぁ……所謂一目惚れしちゃって……」


和磨が怪訝に思っていると、戸田は少し顔を赤くしながらそう言った。




(……え? 一目惚れ? 芹沢さんに?)




「それでその……神崎さんと、上木さんにお願いして会わせて貰ったんだ」




「……」


意外な話の展開に和磨は唖然とし、ポカンと口を開けていた。




「……で、篠原が見たのは、上木さんに芹沢さんを連れて来て貰う前だったんだ」




「あ……そう、なんだ……」


和磨はなんだか段々と力が抜けていった。




(いやいや、待て待て。まだ謎はいっぱい残ってるぞ)


「けど、なんでまたあんなトコで?」




「あー、あれは……学校の近くだと野球部の連中に見られるとマズイと思ったからなんだ。


 それにあそこだと芹沢さんの帰り道だって聞いたから」




「なるほど……」




「それと後、月曜日の事なんだけど……」




(あー、そうだ。それだ、それ!)




「月曜日の昼休憩にさ、俺、部室に用があって部室棟の横を通ったんだよ」




「うん」




「そしたら、部室棟の裏から“Kazumaくんに近づくな”とかなんとか文句言ってるのが聞こえたんだ」




「……っ!」


(それって……)




「……で、ちらっと裏側を覗いたら神崎さんが文句言われてたみたいでさ。


 なんか、えげつない事してるなぁ……と思いながら俺が声を掛けたら、


 その文句言ってた数人の女の子達は逃げていったんだけどね」




「そのリーダー格の女って高橋早苗?」




「うん」




「……そう、か」


(今日が初めて呼び出された訳じゃなかったのか……)




「んで、その後神崎さん、音楽室に行くって言うから、それなら護衛で一緒に行くって俺が言ったんだ。


 また文句言いに来るかもしれないと思ってね」




(あ……)




“やっぱり、心配だから俺も一緒にいるよ”




“い、いいのに……”




“まぁ、邪魔はしないから”




(それで、あの会話が……)


和磨はあの時聞こえて来た会話を思い出した。




「ホントは篠原が音楽室を出て行った時に、言えばよかったんだけど……


 神崎さんがどうしても言わないでくれって言うから」




(だから、追い掛けて来なかったのか)




「けど、なんか最近神崎さんと篠原、ギクシャクしてるっぽいから、ひょっとして、


 ケンカでもしたんじゃないかと思って……」




「ケンカはしてないけど……」




してはいないが……。




「でも、俺と二人でいる所を二回も見てるし、なんらかの誤解が生じてもおかしくない場面だったしね」




「まぁ……な」


(確かに。現に俺は誤解してたし)




「と……いう訳だから、ごめん。俺の所為で」




「あ、いや……」




「んじゃ、そういう訳だから神崎さんと仲直りしてねー」


戸田はそう言うと和磨に事情を話してすっきりしたのか軽く手を挙げ、笑顔で戻って行った。




真相がわかってホッとしたやら、力が抜けたやら、疲れたやら……。




和磨は自分が思っていたよりも唯が強かだという事を思い知らされた気がした。




(エリの時といい、文化祭の時といい、月曜日の件といい……俺は結局、全部他人から聞いている。


 唯は一言も俺に何も言わなかった。今日の事だってエリが知らせてくれなかったら、


 きっと俺はまた何も知らずにいた……)






戸田との話を終え、和磨は自分のカバンを取りに教室に戻った後、唯の教室に向かった。


教室を覗くと既に香奈の姿はなく、唯は自分の席に座って楽譜を見ていた。




「唯」




「あ、かず君」




「ごめん、待たせて。拓未と上木さんは?」




「先に帰ったよ」




「そっか」


(それは好都合。ちょうど唯と二人でゆっくり話したかったし)




「帰ろう」




「うん」


唯が楽譜をカバンに仕舞って立ち上がると同時に和磨は唯と手を繋いで教室を出た――。






     ◆  ◆  ◆






二人は例によってあの公園の展望台に足を運んだ。


ここなら静かだし、一緒に夕陽を眺めながらゆっくり話が出来るからだ。




「唯……」




「うん?」




「なんであの女に突き飛ばされたの言わなかったんだよ?」


和磨は唯の顔を覗き込んだ。




「……だ、だって……」


唯は俯いて口篭った。


あまり言いたくなさそうな感じだ。


しかし、ここで曖昧にして終わらせる訳にはいかない。




和磨は唯が自分から話し始めるまで待った。






「……私がかず君に言ってたら……どうしてた?」


しばらくして唯はゆっくりと話し始めた。




「もちろん、あの女をシメに行ってた」


躊躇う事無く答えた和磨。




「……そんな事したら、……ファンが減っちゃう」


唯は俯いたまま小さな声で言った。




(そんな事思ってたのか……)


「だからなのか?」




「……」




和磨は黙り込んだ唯の頭をクシャクシャと撫でて自分の肩に凭れかけさせた。


「そんなファンなら……いらない」




「でも……」




「唯の言いたい事はわかるよ」




「……」




「俺だってファンは大事だと思うから出待ちをされてても、ライブの翌日に学校で取り囲まれたりしても追い払ったりはしない」




「うん」




「他のメンバーほど愛想は良くないけど」




「……うん」




「でも、ファンが俺達メンバーのプライベートな事にまで首を突っ込むのはおかしいだろ?」




「うん」




「俺が誰と付き合おうが、誰と仲良くなろうが俺の自由なんだし。


 ファン同士の話の中で、俺が誰と付き合ってるとか噂になるだけならともかく、


 相手の女に手を出すようなファンは正直ちょっと……な」




「……」




「だから……今度からそういう事があったら、ちゃんと俺に言えよ?」




「……」




「唯?」


和磨はなかなか返事をしようとしない唯の顔を諭すように覗き込んだ。






「……うん」


唯はしばらくして、ようやくコクンと頷いた。




ちゃんと言えよ……とは言ったものの、本当はわかっていた。


唯と付き合い始めてから、ずっと……。


きっとまた早苗が“何か”するんじゃないかって。


そして、唯は“何か”されても多分何も言わないんだろうって事も。


現に唯は早苗に突き飛ばされた事も、月曜日に呼び出された事も和磨に言うどころか、


寧ろ隠そうとまでしていた。




(だから警戒してたのに……)


和磨はここ数日の自分の行動を後悔していた。




唯は今まで付き合って来た子みたいに和磨との事を公にしたがらないし、自分からは手も繋いでこようとしない。


Oracleのメンバーにさえ、打ち上げの時に話の流れで隠し切れなくなってようやく和磨と付き合ってる事をバラした。




(それでもずっと警戒してたはずなのに……。それなのに、俺は……)


戸田と唯の事を勘違いして勝手に一人で不貞腐れてた。


警戒するどころか唯の事を放ったらかしにしていた。




(俺がもっとちゃんと気を付けてたら……)




「かず君……ありがと……」


唯はまた泣き始めた。




「彼氏なんだから……当たり前だろ?」


和磨は強かなくせに泣き虫な唯を抱きしめた。


自分に何にも言わずに、一人でずっと我慢してたんだと思うとなんだか遣り切れない。




多分、他にもたくさん我慢していることがあるんだろうな――。




(きっと、俺に言わないだけで……)


和磨は抱きしめる力を強くした――。

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