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番外編・花火大会 -1-

唯と和磨が付き合い始めて一ヶ月――。




和磨は不満に思っている事があった。




それは唯との事だ。


学校がない休みの日は和磨のバンドの練習などが入っているが、それでも土日のどちらかは会える。


学校がある平日は、朝は登校する時に会えば一緒に行く程度。


昼休みも何か用事がない限り、唯からは和磨の教室には来ない。


ただ帰る時だけは一緒だ。




しかし、月曜日から水曜日は和磨のバイトが入っている為、ゆっくり話す事も出来ない。


更に木曜日も唯のピアノのレッスンがある為、ゆっくり出来ない上に和磨が日直や掃除当番とかぶった時は


レッスンに遅れてしまう為、唯は先に帰ってしまう。




“仕方のない事”




わかってはいるけれど――。




夜も和磨からメールをしても唯から返事が来るのは寝る前だったりする。


それは電話も同じだった。


和磨から電話を掛けてもほとんど出ないし、唯から掛け直して来る事もない。




もっと話したいのに……。




もっと一緒にいたいのに……。




そんな訳で和磨は少々不満に思っていたのだった。




だが、明日からはいよいよ夏休みだ。


午前中の終業式だけで学校が終わった後、久しぶりに唯とゆっくり話が出来る。






「唯、夏休みの予定は?」


和磨は唯とファーストフードに入ると、夏休みのデート計画を練ろうとスケジュール帳を出した。




「んっとね……」


唯もカバンからスケジュール帳を出す。




「こんな感じ」


そして和磨の目の前にスケジュール帳を広げて見せた。


さすがに毎日朝から晩まで――、とはいかなくても、いつも以上に会えるだろうと和磨は期待をしていた。




ところが……、




「……え」


和磨は唯のスケジュール帳を見て絶句した。




明らかにいつもより多い“レッスン”の文字。


それに混じっていろいろと友達(……とは言え、香奈がほとんどだが)との約束なんかも入っていた。


いや、それはいい。


友達との約束は普通の事だ。




いいのだが……何故こんなにレッスンの日が多いのか?




和磨は顔を引き攣らせた。




「どうかしたの?」


絶句している和磨を見て、唯は不思議そうな顔をしていた。




「てか、なんでこんなにレッスンがあるんだ?」




「んとね、夏休みの間にコンクールの曲を特訓するから」




(こんくーる?)


「コンクールに出るのか?」




「うん、十二月に」




「十二月にあるのにもう特訓?」




「うん、今から弾き込んで練習しておかないと間に合わないから」




「ふぅ~ん……」


ライブでやる曲を一ヶ月前から練習する和磨にとっては少々理解不能だった。


とは言え、和磨達がやっている所謂ROCKとかPOPSとは違い、クラシックの曲は一曲が長かったりする。


それに夏休みが終わればまたレッスンの回数も元に戻るからなのだろう。




和磨は自分のスケジュール帳を開いて唯の予定と見比べた。


バンドの方針はこの夏休みの間を利用して新曲を作り貯めしようと言う事で、拓未と数日おきにどちらかの家で曲作り。


それに合わせてメンバー四人でのミーティングとスタジオでの練習。


バイトの方も夏休みだからと、店長の仕業で入る日数が増えてしまっていた。




(やな予感するな……)




和磨の勘は的中した。


案の定、会えそうな日がない。




何故……?




何故こんなに見事に会えないのか?




それは、唯が空いている日は和磨に予定があり、和磨が空いている日は唯に予定が入っていたからだった。




(マジかよ……)


「嘘だろぉ~っ?」


がっくりと肩を落として項垂れる和磨に対し、


「うぁ、見事にすれ違いだねー」


と、一言で片付けてしまった唯。




「……」




「どうしたの?」


黙り込んでしまった和磨の顔を唯が覗き込む。




「……」


和磨は顔を上げて唯を見た。




至って“普通”だ。




(唯はなんとも思わないのか? 会えなくて辛いと感じているのは俺だけ……?)


「唯……、唯は……」




“俺と会えなくて平気なのか?”




その言葉がなかなか出て来ない。




「なんか今日の篠原くん変だよ?」


また黙り込んでしまった和磨に唯はしれっとした顔で言った。




「……」


実は和磨にはもう一つ気になる事があった。


それは唯が未だに和磨を“篠原くん”と呼んでいる事である。




和磨から告白をして付き合う事にはなったけれど、唯の口からはまだはっきりと“好き”とは言われてはいない。


その上、下の名前ではなく苗字で君付け。




“これじゃ、他の同級生と変わらないんじゃないのか……?”




そんな風に思えてくる。


だから余計に俺と会えなくて平気なのか? とは訊けなかったのだ――。






     ◆  ◆  ◆






――次の日。




拓未の家でさっそく曲作りが始まった。


お互い普段から書き溜めておいた曲や詞を並べ、形に出来そうな物から手をつけていく。






そうして、まだ荒削りだがなんとか一曲形になったところで休憩をする事にした。




「なぁ、拓未」


徐に口を開いた和磨。




「んぁ?」




「お前ら、会う時間あるのか?」


和磨は自分と同じ様な予定が入っているであろう拓未に訊いてみた。




「はぁ?」


拓未は『何を言い出すんだ?』と言わんばかりの顔をした。




「いや、だから上木さんと」




「香奈と?」




「うん、お前もバイトとか入ってんだろ?」




「そりゃまー、入ってるけど?」




「バンドの練習だってあるし」




「あるねぇー」




「こうやって俺と曲作りもあるし」




「だな」




「そんなんで会う時間あるのか?」




「そりゃ、さすがに毎日は無理。香奈にも予定があるし」




「んじゃ、会えないのか?」




「まぁー、夏休みだからと言って一日中は無理でも三日に一度くらいはなんだかんだ言っても会えるし」




「そんなに?」




「てゆーか、別に無理して会わなくてもいいだろ」




「お前は会えなくても平気なのか?」




「平気? というか、会うだけが全てじゃないしな」




「と言うと?」




「いろいろデートの為のリサーチとか、スィーツが美味しい店とか見つけた時は幸せそうに食べる香奈の顔が浮かぶし、


 そういう“彼女の為のリサーチ時間”も俺は楽しいと思ってる」




「なるほど……な」




「だいたい、会えなきゃ会えないでメールとか電話すりゃいいんだし」




「まぁ……な」


それはそうだ。




「唯ちゃんとなんかあったのか?」


拓未はすっかりお見通しみたいな顔をした。




「……」




「そんな恋愛初心者みたいな事言い出すからには、なんかあったんだろ?」




「なっ……!? 恋愛初心者って……」




「何があったんだ?」




「まぁ……たいした事じゃねぇけど」




「けど……お前とってはたいした事なんだろ?」




まったくもってその通りだ。




「……唯とさ……、会えないんだよ」


自分一人の中だけでは解決しそうにないと思ったのか和磨がぽつりと呟くように話し始めた。




「なんで?」




「俺の予定と唯の予定が見事にすれ違ってて……」




「メールすりゃいいじゃん」




「唯からは用事がない限りメールは来ないし、俺からしても返事が来るのは寝る前なんだよ」




「んじゃ、電話は?」




「電話も同じ。唯からは掛けて来ないし、俺から掛けても出ない事がほとんど」




「つまり、昔、お前が女にしてた事をやられてる訳だ?」


拓未は苦笑いした。




「……っ!」


(そうだった……。確かに俺はそんな付き合いばかりしてきた。何か用事がない限り俺からはメールも電話もしなかったし、


 女の方からメールをしてきても返さない事も電話に出ない事もあった……)


和磨はつくづく自分は酷い男だったんだな――、と今更ながら思った。




(いやでも、それは好きじゃなかったからだし……ん? て……事は、やっぱり……唯は俺の事を好きじゃないからなのか?


 どうでもいいから、メールも電話もして来ないんだろうか……?)


そんな事を考えていると、


「これに唯ちゃん誘って愛を深めてみれば?」


拓未が何かの雑誌のページを和磨に見せた。




「……?」


拓未に見せられたページには、大きく“花火大会”の文字が。




「花火大会?」




「そそ、やっぱ夏はこれだろ!」


ニッと笑う拓未。




「お前らも行くのか?」




「当然!」




和磨はスケジュール帳を出して自分の予定を確認した。




花火大会は八月十八日、土曜日。


とりあえず空いている。




和磨はスケジュール帳に花火大会の開催予定日時と場所を書き写した。




(後は、唯次第か――)

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