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第一章 -Prologue-
五月の爽やかな風が和磨の前髪を揺らし、新緑の匂いが鼻を擽る。
その風に乗って聴こえてきた柔らかな音色に中庭を歩いていた和磨は思わず足を止めた。
(……ん?)
とても心地の良い旋律――、キラキラとした光を纏っているかのようなピアノの音色が
辺りの景色をパステルカラーに染め上げていく。
(誰が弾いているんだろう?)
そのピアノを弾いている人物が気になり、大きく開け放たれた音楽室の窓を見上げた。
いつもならこんな風にピアノの音やギターの音、歌声が聴こえてきても気になる事などはない。
気が付けば和磨はピアノの旋律に引き寄せられるように音楽室へと向かっていた。
だが――、
……キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン――、
昼休憩の終わりを告げる予鈴が鳴り、同時にピアノの音も消えた――。