儀式的な
きっと、私の言いたいことなんて、一ミリ程度しか伝わっていない。
『おはよ』
『おはよー
今日はやいね、バイト?』
毎日儀式的に繰り返されるやりとり。そのやりとりにどれだけの拘束力があるのか、私には分からない。けれど、なんでもやらないよりはまし。少なくとも私にとっては重要な意味があって、このやりとりが続く限りは少し安心していられる。
「ねえ聞いた? 葉月先輩なさんだけどさー」
と、噂話を楽しげに語るのはバイト先の同期かつ同じ高校に通ってた元クラスメイトの瞳。どこからか仕入れてきた人のあれこれが大好きで、聞いてもないのによく話してくる。ちなみに、葉月先輩とは高二の頃の生徒会長らしい。私はよく覚えていない。
「葉月先輩ってめっちゃ美人だったじゃん? それで、最近社会人と付き合いだしたらしいんだけど、どうやらその社会人、学生時代はかなり遊んでたみたいで、当時の生徒会メンバーみんな警戒してて。で、お酒の勢いもあったらしいけど、副会長がうちの葉月泣かせたら許さないからねって睨みつけて。そしたらその相手の社会人震えながら絶対幸せにしますぅって、面白いよねー」
「あはは、副会長はお父さん目線だね。大切にされてるね、葉月先輩」
私も、噂話は好き。こっちから聞き出したりはしないけど、提供される話を聞くのは苦ではない。どうせどこかでは私のことも噂されてるんだ。だったら他人の話を聞かないなんて損でしょ。特に色恋沙汰には、興味がある。人の恋から、学べることは少なくないから。
「で、朱音は最近どうなの?」
「私からも噂話の徴収? 別にいいけどさ」
瞳とは、こんな皮肉を言える程度には、互いのことを知っている間柄だ。高校時代でこそあまり話したことはなかったが、このバイトを始めてもう三年になる。大学は違うが同期同世代、自然と仲良くなるものだ。
「いいじゃん、どうせ朱音は惚気話しかないでしょ」
「そうでもないよ。喧嘩だってするし」
「えー、意外。べた惚れじゃなかったの」
べた惚れですよ、私の一方的な。一応お互い好き合ってて付き合うことになったとは思ってるけど、でもその好きには差がある気がする。
「私も、葉月先輩くらい美人だったらもっと堂々としていられるのかなぁ」
「なになに、珍しく落ち込んでるね」
「珍しいは余計だよ。別に、大したことじゃないけどさ、なんか一方通行だなって感じるんだよね。そうすると急に不安になるの。相手のこと信じてないわけじゃないけど、こっちの気持ち伝わんないなぁって思うこともあれば、相手の気持ちが全然読めなくなったりもする。私ばっか好きみたいじゃない?」
最近は、常にそんな気がしてる。好きだよって言われたら嬉しいし、ほっとする。けどそれは一時的に気分が楽になる麻薬のようで、しばらくするとまた不安になって、その言葉がもらえないとどんどん落ちていって、わがまま言って拗ねて、挙句相手を怒らせて。そこで、はっとする。
このままじゃ、私、嫌われてしまうんじゃないか。
そして慌てて謝って、でももう遅いよね。謝ってるのか、縋ってるのか、ただ最後に好きだから別れないでと願うしかない。
このままだときっといつか、本当にいつか、その時が来てしまう。けれど、そのいつかが来る前に私は変われるのだろうか。
「両思いなのに、何をそんなに不安がる必要があるのかね」
瞳は首をひねって悩んだふり。私だって、そう思いたいよ。
「喧嘩だって一方通行って感じだよ」
「えーなにそれ余計分からん」
「簡単に言うと、私が怒ると、向こうも怒るでしょ? で、慌てて私が謝るって感じ。二人で正面から思いをぶつけ合うとかしたことないんだよね」
本当は喧嘩すら、できていないのかもしれない。臆病なのか、保身なのか、私は思いを言葉にして伝えたいだけなのに、きっと、私の言いたいことなんて、一ミリ程度しか伝わっていない。私の言葉が悪いのかもしれない。でも、私は伝えたい。
分からないよね、ごめんね。だって自分の気持ちすら、よく分からないんだもんね。しかたないね。
私は君のことが、分からなくなるよ。
「朱音は一途すぎるんだね。っと、そろそろ休憩終わりか。まぁそんな落ち込まないで、私がいるでしょ! そっちがやんなったら私とカラオケ行こうよー。それから、趣味の方も付き合ってよね」
「あ、待ってよ私も行くー」
瞳には、意外と救われてるな。バイトでもしてないと、ずっと落ち込んでしまいそう。忙しい方が、色々忘れられていいのかもしれないな。
男の子の好きってなんだろうな。そういうことの相手としか思われてなかったら、さすがに悲しいな。私はこんなにも君のことが好きなのに。ねぇ、君は本当のところどうなの? 君も同じだったら、嬉しいな。
私は縋るしかないけど、だから早く、証明が欲しいなんて思ってしまうけれど、でもそれは、許されないんだよね。
また、儀式だけ積み重ねる。
『おやすみ』
『おやすみなさい』
山なし、オチなし、救いなし。なしなしづくしのおは‘なし’となりましたー。なんだこれ。
久しぶり文章書きたかったので。やっぱり文にすると落ち着くんですよね。感情とかいろいろ、考えてること、わーって書き出したくなることないですか?
話は変わりますが、皆さんは、上手い下手はさておき、自分の気持ちを言葉にして伝えたいですか? それとも分からないまま放置しますか?
私は思ったことは言えるなら言いたいと思います。もちろん、状況とかは考えますが。分からないのって、双方辛いと思うのですが、知らぬが仏という言葉もありますからね。
恋愛って、悩みが尽きないものですよね。そこも味なんだろうけど、幸と不幸の天秤が極端に傾くと、よくない方向に進んでくのかもしれませんね。結局のところ阪神なんて人である限り分からないんだから、本気で恋愛してたら不安がない人なんていないんじゃないでしょうか。綺麗事で済んだら二次元は存在しませんね。
こんなに一気に文章を書いたのは、本当に久しぶりで少し疲れました。でもまだ書きたいこといっぱい。不思議ね。最近はまともな小説が全く書けず、感情を書き連ねることしかできません。本当に情けない限りだ。昨日見た夢でも小説にしてみようかな? 魔王に仲間を人質として囚われて、魔王を完全復活させるために一人で旅する夢でした。ちなみに分岐ありのゲームみたいな世界観。ちょっと面白そうでしょう。
そんな話はさておき、本当に悩みをはなして終わりのお話でした。ま、ある意味リアリティがあるということで。
それでは、また。
2018年 8月26日(日) 春風 優華