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ごみ箱

『消してしまえ、楽になるから』

 私は一人暗い部屋の中、過去と決別するかのように、ただ視点を手元にあるそれに向け、そして、指を動かす。

 よくあるごみ箱のマーク。何も考えずに押す。

 嘘。

 本当は、脳内で渦巻く様々な感情を全て押し殺して、全て無くすために、押す。

 別れだ。これが私流のさようならだ。

 もう増えることも減ることもない。これが最初で最後。

「はぁ……これでもう、終わりね」

 ベッドに背中から倒れこみ呟く。手元からスマートフォンが零れ落ちた。しかしもう、気には留めない。

 あの人との思い出を、消した。いとも容易く、この一瞬で。

 電子化っていうのは全てのデータが残る恐ろしい時代だとか言うけど、そんな範疇に一般人の私は踏み込めないのだから、むしろ私にとっては単純化されたタップ一つで何もかもを失えるあっさりした世界だ。

 今まで、何を話してきたっけ。もう、分からない、そのうち人間の記憶では、思い出せなくなる。

 それでいい。

 こんな思いするくらいなら、いっそ消してしまえ。

 そうして行動に移したのは、他でもない私だから。

 消えたらきっと、楽になれる。そうだよね、だってさ、そうやって誰かが言ったんだから。

 言ったんだから。

 じゃあ、頬を伝うこれは、何?

 暗い部屋に響く、嗚咽。

 何でこんなにも、切なくて悲しくて、苦しいんだろう。

 消したのに。いや、まだ消えてない。

 私の中にある思いが、記憶が、感触が。

 それら全てが消え去って、やっと私は解放されるんだね。

 なら、それはいつ。

 それもタップ一つで、消すことはできないの……?

 私の感情も、ごみ箱にぽいと捨ててしまいたい。


 それではまた。


2016年8月23日 春風 優華

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