第七話
4回目の飛行でも、辿り着けなかった。むぅ〜。これ歩いてたら、きっと三日じゃ着かないよ。
もうちょっとなんだから、最後の飛行にするぞ〜。
着いたら、ご飯食べたい!
その前に、どっちに進むか決めないと!
「まどか〜、門の場所を探さなきゃ、この方向、人が全然いないよ〜」
「こんなに、大きい城郭都市なら、門は東西南北にあると思うんだけど……。円になってるみたいだし、右か左に進路をとりましょ。どっちに行く?」
「んー。右!右がいい!」
「じゃ、右に進むわね」
まどかが前に跨り、オレが後ろに跨る。
「カウントするよ〜」
「OK」
「3、2、1、0、発射ー!!」
進路を右にとり、スピードを上げていく。
離陸はスムーズにできるようになった!あとは、スピードのコントロール。
スピードが一定になれば休み、落ちてくれば、風のボールを回転させる。
「とおる!地面が茶色になってる場所があるわ!道じゃないかしら!」
「うわぁ!ホントだぁ!このまま壁に平行して進めば、門があるよね」
「何か動いてるわ!隊商……キャラバンとかじゃないかしら?連なってるわ」
「おお!中世って感じ!」
「壁と並行するように進路をとるわ」
「ラジャ!」
「とおる!交代しなくて大丈夫?」
「いける!省エネ成功!まだまだ飛べるよ!」
「もうちょっとよ」
グウウゥゥゥ
またお腹が先に反応しちゃったよ。恥ずかしいよ〜。
「うふふ。着いたら、宿と食事どころを聞くから、もうちょっと我慢してね」
「はーい。ごめんね〜。さっき、まどかの分も、もらったのに〜」
「男の子なんだから、沢山食べないと伸びないわよ。それにその分、とおるが沢山飛んでくれたじゃない」
「もう飛ぶのは、ばっちりでっす!あとは、スピードへの挑戦!」
「こんなにりっぱな城郭なら、職人さん、期待できるんじゃない?」
「そうだといいなぁ〜」
どんどん近づいてくる。おぉ!門らしき場所が見えた!ん?槍を構えてる?なんで?
「とおる、スピード落として。警戒されちゃったのかも。門番の人が、槍をかまえ……門番押しのけて、おじさんかしら?手を振ってるわ」
「振りかえすよ〜。友好のアピールしないと」
「えっと……あってるみたいね。門番が槍を下ろしてくれたわ。少し前で、止まりましょ」
「了解。もう止めてるよ〜」
少しずつ、高度が下がり、スピードも落ちてきた。
もうそろそろかな。
「とおる、合図したら、飛び降りて」
「はい!」
「3、2、1、0、飛び降りて!」
片手で、ロープを掴み、飛び降りる。ブレーキをかけて、そのまま結界と並走する。
8m程で無理なく、止まった!着地も順調〜。
「ねぇ、まどか。足の結界と風のボールは、消しておいたほうがいいかな?」
「そうね。消しておきましょ」
「娘さん!それは何だね!?見たことも聞いたことも無い!飛んでいたぞ!?見せてはもらえんか?」
手を振ってくれたおじいさんが、叫びながら駆け寄ろうとしてる。
後ろの人たち、メッチャ慌ててるよ?いいの?
「おじいさ〜ん。慌てちゃダメだよ〜。そっちに行ってもいーい〜?」
「おお、早く見せてくれ!!道なきところを飛んできたのかね!?」
「落ち着いてください。私達、魔法使いです。修行の旅の途中で、こちらの城郭を見つけ、寄らせて頂きました。出来れば、宿と食事を先に取らせて頂きたいのです。私達の成果に興味をお持ちいただけたのでしょうか?お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「おお、これはすまんの。わしは、このシッタルダ共和国の商人、カルタッダじゃ。宿と食事なら、我が家に招待しよう。今日は、丁度、息子のキャラバンが帰ってきているのじゃ。一緒に行動しておる商人たちが、多数訪れておる。今からでは、宿を取るのは、難しいぞ。我が家にどうかね?ぜひ、その成果を見せて欲しい。対価が必要なら、勿論支払う」
まどかと顔を見合わせる。
「どうしよう?オレはカルタッダさん、悪い人じゃないと思う」
「私もそんな気がするわ」
「カルタッダさん、魔法好き〜?」
「おお、好きじゃ。残念ながら、わしには才能が無かったんじゃが。キャラバンでも高待遇で雇っているし、魔法使いの育成もしておるよ」
「ねぇ、まどか。いいよね?」
「えぇ!お願いしましょ」
「カルタッダさん。オレ、とおるです」
「私は、まどかです。本日はお世話になります」
「おぉ、早速こちらへ。入国の手続きはわしが口添えしておこう」
「入国の手続きって何するの?」
「お前さんたちのところには、なかったのかね?」
「故郷から出てきて、他の国に立ち寄ったのが、初めてなんです。こんなに大きな城郭初めて見ました」
「そうかね。ここまで大きくなるのに、100年かかった。わしは、この国を守りたいんじゃ。気に入ってくれたら、うれしいのぉ」
「カルタッダさん、ここが大好きなんだね〜」
「勿論じゃとも……二人で軽々と持っておるが、軽いのかね?」
「はい。結界と魔法でとても軽くなっています。中には私達の荷物が入ってますので、このまま移動して、着いてから結界を解きたいのですが、かまわないでしょうか?」
「ちょっ、ちょっと持たせてくれんか?」
「カルタッダさん〜、後ろの人たち心配してるから、後ろの人たちに先に見てもらったほうがいいんじゃないの〜」
「見たこと無いから、わしが先に見たいんじゃ!!」
「しかし、大旦那様!!このように一番に動かれては困ります!」
「喧嘩はダメだよ〜。おじさんはカルタッダさんの警護の人〜?」
「あぁ、そうだ。君達はどこから来たんだね?」
「遠くから〜。もう帰れないの〜」
「どういうことだ!?」
「すいません。私がお話します。一度外に出ると、もう故郷へは帰れないんです。それを承知の上で、魔法の更なる開発のために、私達は故郷をでました。そして、最初に辿り着いたのが、ここなんです。ここがどこかも私達は知りません」
おぉ!まどか、説明上手〜。オレ、空気読めるもん。後押し出来るもん。
「そうなの〜。まどかと一緒に、魔法の開発するの〜」
「おお!魔法の開発!ぜひ、聞かせて欲しい!!」
「いいよ〜。オレ達、実験場所も探してるの〜。この辺のことも知りたいの〜」
「ふーむ。わしでよければ、ここの説明をしてやろう。さぁ、早く行こう!」
「ちょっと、大旦那様!」
「大丈夫じゃ!この子達からは悪意を感じん!むしろ、われわれの知らない魔法を知っているようじゃ。ここは、教えを請うべきなんじゃ!!」
護衛のおじさんが、一歩下がった。護衛の仕事って大変なんだね〜。
お客さんが元気いっぱいだと、振り回されちゃうんだね。……護衛の仕事は無しで!
グウウゥゥゥ
話しかける前に、またお腹が先に反応しちゃったよ。いっぱい人がいるのに恥ずかしいよ〜。
「うぅぅ。またしても〜。カルタッダさん、オレ、お腹すいたの〜」
「おお!すぐに準備させるからのぉ。まずは、入国の手続きをしよう。ついてきなさい」
「はい」
「は〜い」
カルタッダさんの後に着いて、門へと向かう。警護のおじさんの一人が隣を歩いているから、聞いてみよう。
「おじさん。こっちでは、魔法で飛んだりしないの?」
「……坊主、俺はおじさんではない!まだ二十五だ!」
「……えっ!?三十台かと思った!」
「さ……三十……だと!?……子供のいうことだ……真に受けちゃダメだ……」
おじさんって、いっちゃまずかったかな?お兄さんにしとこう。
「ねぇ、お兄さん。こっちでは、飛ばないの?」
「おぉう。飛べねえよ。だから大旦那様が、目の色変えてんじゃねえか。……本当に魔法で飛べんのか?」
「あのねぇ、出てきたら、草原の真ん中だったの。歩くの大変だから、飛んできたよ!遠かったんだよ〜。オレもまどかも頑張った!」
「……出てきたら、草原の真ん中って、どういうこった?」
まどかがこっちを見る。
「すいませんが、そのお話は着いてからでも、よろしいでしょうか?カルタッダさんが、こちらを見ています」
「げぇ!?やべぇ。さっさと行くぞ」
急ぎ足で、カルタッダさんのとこへ行く。
門番の人がいた。
「君達の名前と来訪の目的を、述べなさい」
「オレ、とおる。目的は宿と食事と物資の補給。ここが見えたから、来たの〜」
「私は、まどかです。目的は、同じく物資の補給です。」
「宿泊はカルタッダ様のお屋敷だな?」
「今日はお泊りでっす。様?カルタッダさん偉い人?」
「よし、通っていいぞ。そうだ。失礼のないようにな!」
「ありがとうございます」
「おじさん!ありがとう」
「カルタッダさん。お待たせ〜。はやく行こうよ」
「あぁ、こっちじゃよ。馬車があるんじゃが、それに乗って飛んでみたいのぉ。駄目かのぉ」
「大旦那様!!駄目に決まっているでしょう!!」
護衛の人が必死で止めようとしてる。ホントに護衛ってたいへんなんだなぁ。
「カルタッダさん、護衛の人がいいって言ったらいいけど、ダメって言ったらダメだよ」
「わしは乗っていくぞ!」
「駄目です。荷物は、こちらで運びますから、あなた達も大旦那様と一緒に馬車に乗ってください。大旦那様、そのほうが話をしやすいですよ」
「オレ、こっちの馬車に乗ってみたい〜」
「むう。そうか。ならば、馬車で行こう。さぁ、乗ってくれ」
案内された馬車に乗り込む。おぉ、6人掛けで向き合って座れるようになってる。
まどかと並んで座り、カルタッダさんと護衛の人が座るのを、待つ。
護衛の人が、合図して、馬車が動き出した。座面は生地が張ってあるけど、あんまり柔らかくない。
ゴトゴト、揺れてる〜。……やっぱり、飛ぶほうが、いいね!
「今日は、商館の離れに泊まってもらおうと、思っておる。馬車で、すぐじゃ。本宅は、明日案内しよう。本宅の使用人たちも、今は商館を手伝っているのでな。」
「うん、どこでもいいよ〜。そうだ!カルタッダさん、こっちでは、お風呂あるの?石鹸は?」
「風呂か?それは何かの?石鹸はあるぞ。湯を運ばせるから、身を清めるとよい」
「やっぱり、お風呂はないのか〜。お風呂はね、お湯に浸かって疲れを取るんだよ」
「お湯に浸かる?なぜ、そんなことをするのじゃ?」
「あの、ここでは水は貴重なものですか?」
「無駄遣いはせんが、貴重というわけでもないのぉ。大きな地下水脈があるのじゃ。井戸があるので、飲み水に困ったりはせんよ。その風呂というのは、お湯を大量に必要とするのじゃな?」
「そうなんです。明日で構いませんので、大きな桶か樽のようなものがあれば、貸していただけませんか?お湯は私達で用意できますので」
「ということは、それだけの水魔法と火魔法も使えるんじゃな?その若さで、すばらしいのぉ」
「オレも、出来る〜。カルタッダさんも、明日試してみる?」
「おお!試したいぞ!いいのかね!?」
「いいよ〜。二人入れる大きさなら、オレと一緒に入ればいいよ〜」
「では明日、用意させよう」
「ありがとうございます」
「ねぇ、カルタッダさん。なんで偉いの?」
「ちょ、ちょっと、とおる!訊き方が!」
「あぁ、構わんよ。わしの先祖がこの国の初代王と兄弟だったのじゃ。もともと商才があったらしくて、臣下に下り商人として国に貢献したんじゃ。金が無くては、何もできんからのぉ。いまでも王家とは懇意にしておる。それで、様付けで呼ばれるわけじゃ」
「ふーん。そうなんだぁ。カルタッダさんも商売の才能ありそう!」
「ほっほっほ。ありがとう。とおるも魔法の才能があるようじゃのぉ」
「えへへ〜。あのね!いっぱい新しい魔法を創りたいの!!まどかと一緒にギルドも!!」
「ギルドとは何かね?」
「魔法使いによる魔法使いの為の、魔法開発をする組織のことだよ!」
「とおる……。すいません。私達が言うギルドというのは、各種の職業別組合のことで、今回は魔法使いの組合のことです。特に、魔法の開発と伝承の場としての機能を、持たせたいと思っています」
「創った魔法を公開してくれるのかね!?」
「一定の基準は必要だと思いますが……まだ、こちらのことをよく知らないので、詳細は決まっていません。魔法の開発だけは決まってますが」
「……ふむ。……明日、この国一番の魔法使いを紹介しよう。そして出来れば、この国を守るために力を貸して欲しい。ダマスカフ帝国が存在する限り、やがては攻めてくる。それは間違いのないことなんじゃ」
「?戦争してるの?」
「いずれ、戦争を仕掛けられるということじゃ。今も領土拡大と奴隷の確保のために、あちこちに侵略をしておる。その難を逃れて、この国へ辿り着いたものは、保護しておる。わが国の存在が帝国内で大きく広まれば、必ず滅ぼそうとする。なにせ、元臣下が帝国の政策を拒否して、反対の方針の国を樹立させたんじゃからのぉ。面子にかけて、滅ぼそうとするのぉ。一応、王家はあるが、基本的に身分の上下はないとしておるからのぉ。この国では、王族は役職名のようなものじゃ。他国との交渉において、王族としたほうが交渉しやすかったのでな。王家を制定したのじゃ」
「じゃあ、カルタッダさんは?王族なの?」
「わしは違うのぉ。王族は、王と配偶者と未婚の子供、王と配偶者の子供で成人した男子、その子供までが、認められる。次の代になった時には、王族の資格がなくなる者がでる。ゆえに、一般の民でも遡れば、王族の血縁者はわしを含めて、それなりにいるのぉ。まぁ、身分の上下は無く、旗印として王家があると思っておけばよい」
「お話にあったダマスカフ帝国は、身分の上下があるのですね?」
「そうじゃ。あの帝国で奴隷にされれば、過酷な生活が待っておる。そして奴隷の多くは獣人じゃ。獣人の部族は故郷を守り、部族を守るため、ほとんどが徹底抗戦するのじゃ。誇りがあるからのぉ、逃げるという選択は部族が壊滅するまで、なかなか選ばぬ。それによって、多くの種族が滅しておる。今のわしらに出来るのは、逃れてきた者を受け入れ、守ることぐらいじゃな。ゆえに、力を欲しておる。守るには力が必要なんじゃ。100年かかって、守りを固めた。あとは、迎撃の力が必要なんじゃ」
「こちらから攻めるということは、無いんですね?」
「無いのぉ。戦争になれば死人が出るし、国力の差が大きい。出来るだけ戦争はしたくないのじゃ。だが、攻めてくるとわかっているのに、何の準備もしないというわけにはいかん!それに守るために、この地へ逃れて安住の地としたのじゃ。民を危険に晒すような事は、避けねばならん。わしには、先祖から受け継いだ魔眼もしくは慧眼といわれている眼があるのじゃ。お前さんたちが、嘘を言ってないことはわかる。魔法への情熱もな。
じゃから、わしも真摯に本音で話して、お前さんたちの信用と協力を得たいのじゃ」
グウウゥゥゥ
あぁ〜。シリアスムードぶち壊しちゃった。だれか喋って〜。