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木で作られた味のあるアーチが出迎える。
「『サウース村』、か…」
…どういう意味かはよくわからない。
道は途中から石で軽く舗装されていたし、(村から反対方向に延びる石の道が、恐らく陸路なんだろう)アーチの向こうはさらに整った石畳が続き、その奥には巨木が。
「おい! 早く!」
モイに怒鳴られようやく我に返る。
「ご、ごめん!」
慌ててアーチをくぐる。
村の中央に君臨する巨木は、予想を遥かに上回っていた。比較対象が見当たらない。木の周りを普通に歩いても2、3分近くかかる。皮も分厚く素手では剥げない。そして頭上。一部では葉が完全に陽を遮り夜のように暗い。天まで届きそうな枝葉。
「おい!」
背後から呼ばれて慌てて振り返る。
既にユウとモイが冷たい石畳の上に正座している。
サエも慌てて続く。
(…空気が重い!)
村に入って最初の大きな十字路には中央に温泉がある。温泉といっても小さな池のように囲った程度で当然裸で入る人などいない。囲いの淵に椅子が幾つかあるから普段は足湯として機能しているのだろう。
その椅子にばらばらに二人の人が座っている。
一人は年はたいして変わらない位の少女。黒い髪を後頭部で人結びしてあり、それが膝の裏にまで降りている。また背中にに提げた長い刀が同じ位の高さにある。顔立ちといえば目立つのはやや恐い印象を与えるつり目位だろうか。他は…、そこそこである。年相応、といったところだろうか。(年は知らないが)
もう一人はおそらく最年長、しかしまだ二十歳位の男の人。背が高いがそれよりも高く伸びる槍に体を預けている。四角い縁の眼鏡が知的なイメージとなるがそれよりも大きく何かを感じる。
「はあぁ…………」
その体の芯から発せられるような溜息に正座している三人の身体が無意識にビクンと震える。
「…初日にして遅刻者二名に無断で龍を討伐者一名……やってけんのかね?」
重い動作で体を持ち上げる。モイ、ユウ、サエと並んでいる順にその前を通る。眼鏡の奥の瞳が光る。
「…私もあんまり言いたくないんだけれど…」
もう一人の少女の方が椅子に座ったままこちらを睨む。
「…死にたくなかったら気をつけなよ?」
(そ、ソレハ龍になのかソレトモあなたにナノカ…)
サエの体が強張る。
「…まあ茶番はこの位にして…、私はミコ。この村の出身。あんまり群れるつもりはないけど、…一応よろしく」
「「「…………」」」
目が未だ怖いのはまだ怒っているのかもともとそうなのか。
「…まあこれ以上怒っても仕方ないものは仕方ないし。僕の名はロウ。まあよろしく頼むよ」
説教が終わったのは怒りが無くなったのか諦めが良いのか。
(…この二人、イマイチわからんな)
「…さて、良い感じに自己紹介も終わったし、」
「「「「!?」」」」
あの巨木の陰に隠れるように佇む一つの影が。
「やあやあ。今日は皆さん集まってくれてありがとー☆ 私の事は気軽に先生、とでも呼んでくれ」
巨木から離れ、こっちに向かってくるのは黒い白衣…黒衣(?)に身を包んだ胡散臭い男。具体的にいうと黒く黒く渦巻く天然パーマに顔が眼がギリギリ見える位隠れている。そしてその雰囲気自体、無理して明るくしているような感じだ。
「…補足するとこの人はこの龍狩の事務員みたいな奴よ。…実際にはそもそもの収集をしたのもこの人。本名は私も知らない。で、先生、今回のこの目的は?」
地元出身と言っていたミコが説明する。昔から馴染みがあったのか、先生と呼ぶその声に違和感はなかった。
「ミコちゃんはもう知っているからいいでしょー。今回君達を集めたのにはちゃんと理由があってね、」
左の人差し指を唇に持っていき、
「ヒ・ミ・ツ・で~~す☆」
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「せ、正確に言おう…。今は『まだ』話せない…ん、だ」
モイとユウがおどけた先生の顔に一発ずつ拳をめり込ませたらふらふらとその場に座り込んで話し始めた。
「「あ"ぁ!?」」
二人のこめかみがピキピキと鳴る。
「いや、そんな怒らないでよ…。全く短期だな…。ここで適当に生活をしていればいずれ『こっちが知りたくなる』位理解するから、さ」
「そういえばミコさんは知ってるって言ってましたよね、で結局なんでなんですか? なんでも無い私まで呼んだ理由は」
「一番優しそうだったサエちゃんがまさかのスルー!? 天然娘怖い!!」
「先生五月蝿い。……まあ、私も詳しくは知らない訳だし………、それに言うと意味ないから言うな、って」
さっきまでの怒りは何処へいったのやら。申し訳なさそうに首の裏を掻きながらそっぽを向くミコ。
「え、えぇ~~……」
がっかりと肩を落とすサエ。
「…………」
直立したまま怪訝な表情をするユウ。
「……………」
さっきから会話に参加せず、話を聞くだけのロウ。
「…帰る」
一人立ち上がるモイ。
「…どんな理由かは知らないが、
説明できないなら帰らせてもらう。今から向かえば夜までに隣町までは行ける筈だ」
「…そっか。残念だ」
村のアーチに向かうモイを特に止めようとしない先生。他の四人はどうしていいかわからず、動きを止めている。
「…でも、」
先生の口が歪む。
「「「「「!!?」」」」」
ドドド、と地鳴りがし、地震のように地面が揺れて、全員の体がわずかに揺れる。
(龍!?)
そして、地鳴りがだんだんと大きくなり、
巨大な岩が村の入口であるアーチの前におかれる。
「なっ………」
砂粒がたち籠める中、爆風吹き荒れ、衣服はおろか体ごと吹き飛ばされそうになる。現にアーチのすぐ近くにいたモイはこちらまで引き戻されていた。
「…え…?」
地元民でもあるミコでさえもこの状況にはついていけないようだ。
さらにアーチ周辺の家も岩は干渉しており、人々が慌てて出てくる。
「主、さ」
唯一冷静な先生が話す。
「君達を逃がしたくないんだろう。この山の頂点に棲む巨大な龍の仕業さ」
村のさらに奥、山の頂付近に大きな影が見えた。
「……てめぇ! 最初から知っていたな!」
モイが先生の胸倉を掴んで揺さぶる。
「…さっきから巨大な影がちらちら見えたからな。単なる予測だよ」
ズレた眼鏡を掛け直し、改めて言う。
「あの岩の撤去にはかなり時間がかかるけど………………どうする?」
『色彩』について
だいぶまとまりつつある世界観ですが今回は作中の色について。基本、日本独特の見方で生まれた和色を使用します。が、明らかに名前で推測しにくかったりとイメージしづらい色は控えるようにします。以上、また次回。