再び会いに
覚悟をして再び病院を訪れた僕。
病室に入ると、お父さんが椅子に座っておられました。
僕に気付くと、お父さんは立ち上がって会釈をされてベッドの横に行き、
「おい。会社の人、来てくれたぞ。」
と、寝ているKさんの頬をぺちぺちと軽く叩きました。
Kさんはベッドで眠っていたようで、ゆっくりと目を開けました。
「寝てたのなら、無理に起こさなくてもいいのに…。」と僕は思いながら、ベッドのそばに歩み寄りました。そして、「お父さんは、あまり細やかな性格ではないのかな。」と感じました。
「大丈夫?」
『うん。』
彼と一言、言葉を交わしました。
まだ心電図がついており点滴もしていましたが、最悪の事態を想像していた僕には、少し安堵の気持ちが湧いていました。
お父さんが椅子を持ってきてくださり、僕はベッドの横で腰かけました。
鎮静剤が効いているのか、疲れているのか、眠そうでまぶたがくっつきそうなKさん。
僕は他の人がいると、素の自分を出せない性格なので、Kさんと会話をすることもなく、彼の顔を見つめていました。
すると、後ろのソファーに座っていたお父さんが、
「家はどこなの?」
と聞いてこられたので、それに答えたりして時間が過ぎていきました。
お父さんに聞いたところ、ここ数日で昨日が一番状態の悪かった日だったようです。
そして、昼はお父さん、夜はお母さんが付き添いに来られているとのことでした。
Kさんの体温は39℃前後からなかなか下がらないようで、顔には滴になるくらいの汗をかいていました。アイスノンの枕にはタオルが数枚重ねてありました。
お父さんがタオルでKさんの顔や頭を拭かれていたのを見て、僕も同じように拭いてあげました。
僕はKさんと二人きりになりたかったのですが、Kさんの様子が心配なのかお父さんもなかなか傍を離れられませんでした。
しかし、唯一、お父さんが飲み物を買いに部屋を出られたときがありました。
僕はすぐにKさんの手を握りました。
手の力はなく、体の血色はありませんでした。もともと色白な彼の肌が、より白く見えました。
入院前から見ると、腕も顔も体もずいぶん痩せて見えました。
タオルで顔の汗を拭きとった後、手で頬を撫で、短く生えている髪の毛をといてあげました。
彼はまた目を閉じて眠っているようでした。
柔らかくて暖かいKさんの手を両手で握ると、僕はとても心が安らぐのを覚えました。お互いの心と心が通じ合っているような感じがしました。
疲れるだろうから無理に会話をする必要はないと思っていたので、お父さんが戻って来られるまでの数分間、僕はずっと彼の手を握っていました。