彼への思い
病室内で立ち尽くし、涙が溢れてきた僕。
傍にいたKさんのお父さんも、彼の背中をさすりながら目には涙が浮かんでいました。
僕は涙をこらえて、
「また来るからね。」
と言って、部屋を後にしました。
それ以上の言葉は、その時の僕には出てきませんでした。
Kさんは、僕の言葉に、背中をさすられながらうなづいてくれました。
僕は駐車場へ戻り車に乗り、バタンとドアを閉め、少しの間放心状態でした。ついていたラジオを消して、家へと向かいました。
頭の中や心の中が、言葉にできない思いでいっぱいになっていました。
いつも往復していた道が、違う道に思えました。
そして、家に帰り自分の部屋に入ると、僕はベッドの上に腰かけました。
しーんと静まりかえった部屋の中、Kさんのことを一生懸命に考えていました。
手術して体力が回復して、また戻ってくると思っていたのに
またカラオケに行ったり、あほなことができると思っていたのに
もしかしたら、それがもうできないかもしれないこと
もしかしたら、Kさんがいなくなるかもしれないこと
そんなことは、今まで一度も考えたこともなかったこと
Kさんを失いたくないこと
とっさに携帯電話を取って、泣きながらKさんにメールをうちました。
Kさんに初めて出会った日のこと
退院祝いの飲み会で、彼の楽しそうな横顔を見ていたこと
一緒にカラオケに行ったこと
仕事がきつかった時のこと
この前、手を握ってあげた時、心の中で僕の気持ちを贈ってあげたこと
直接言う勇気がなかったけど、Kさんのことを好きなこと
Kさんを愛していること
伝えておかないと、僕がなくなりそうな気持ちでした。
Kさんには、僕が好きだったことを知っておいてほしかった。万が一、最悪の結果になろうとも、彼のことを僕が愛していたと知ってほしかった。
その時初めて気付いたのですが、いつの間にか、僕の心の中には溢れるほどのKさんへの思いが詰まっていたのです。
僕にとって、彼はかけがえのない人になっていました。
Kさんは状態もあまり良くなかったから、どれだけこのメールを見てくれたかはわかりません。
何回も続けてメールを送ったから、迷惑だったかもしれません。
居てもたってもいられなかった僕は、メールで上司にKさんの状態を伝え、次の日も病院へ向かいました。