手術
入院して手術することになったKさん。
Kさんからは、
『見舞いには来んでもよかよ。』
と、おどけたかんじのメールをもらっていました。そこで、僕は週に一回程度のペースで彼にメールをしていました。
「今日は仕事が忙しかったよ。」
「課長が部長に昇進したよ。」
「Kさんも、カラオケ部の部長になったよ。(笑)」
とか。
Kさんも、メールで仕事の様子を聞いてきたり、
『痛い。』
とか
『体が一揆を起こしてるぜ。』
というメールをしてきました。辛い痛みに耐えていたのですね。
会社では、いつもKさんが座っていた椅子は主をなくしてポッカリ穴があいたようでした。
僕も、彼の顔が見られないことやスキンシップの楽しみもなくなり、寂しく思っていました。
その後、手術は成功して家から病院に通いながら、リハビリをしていると聞いていました。しかし、数か月後、再度手術をすることになったと聞きました。
もう何か月も彼に会っていないし、早く元気な姿で戻ってきてほしかったので、ショックでした。
同僚に聞くと、五年前の時も二回手術をしているとのことだったので、僕は自分を納得させました。
Kさんが再入院してしばらく経った六月頃、お見舞いに行った同僚の女性が、
「Kさん、ヒロピーさんに会いたいと言ってたよ。」
と僕に教えてくれました。
僕はドキッとしました。僕に会いたいと思ってくれていること。それを、なぜか同僚の女性を通じて伝えたこと。
「どうしたんだろう。なぜ僕にメールして来なかったのかな。」と思いました。「僕に直接、来て欲しいとメールするのが恥ずかしかったのかな?」
「同僚に、どういう言葉で伝えたんだろう。」それも気になりました。
でも、僕は素直に嬉しい気持ちもあったし、今まで一度もお見舞いに行っていないことへの後ろめたさもありました。
そこで僕は、家に帰ってからKさんにメールをしました。すると、
『ヒロピーさん、いつ来ますか。』
と送ってきました。僕は
「じゃあ、明日行くね。」
と返事をしました。
丁度、週末の休みでした。
自宅から車で30分ほどの距離にある病院。
個室にいるKさんの病室に入ると、Kさんはベッドの上に腰かけてテレビを見ていました。
振り向いて僕に気付くと、Kさんは一瞬顔が綻んだような笑顔を見せました。僕も久しぶりに彼の顔を見ることができて嬉しかったです。
そして、手に持っていた携帯電話で、いきなり僕をパシャっと撮影しました。
僕は照れながら、痛みが無いか、いつ手術なのかといろいろ聞きました。
Kさんの左腰は、ソフトボールくらいの大きさに腫れあがっていました。手術でこれをとるようでした。
仕事は忙しくないか、口うるさい上司は元気かといったことも会話しました。
その後も、月一度のペースでお見舞いに行ったり、
「ドラマのDVD、あんまり見過ぎないようにね。えっちなDVDも見過ぎないようにね!」
とか、あほなメールもしていました。
二度目の手術も終わり、投薬治療が始まりました。彼からは、
『禿げそう』
とか、
『俺の髪の毛、が~んばれ!』
と僕にメールをくれたこともありました。僕は、
「禿げていくKさんを、禿げ増します!」
と冗談を言ったり、
「出家するにはいいかもね。」
と、僕なりの言葉で励ましていました。
そんなある日、お見舞いに行った帰り際、それまでのKさんの表情が一瞬とても寂しそうに見えました。
僕はその感じが忘れられなくて、家に帰ってからも思い出していました。