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お別れ

Kさんの知らせを聞いてから二日後、Kさんの葬儀に向かいました。


ちょうどその日は、春分の日で休日でした。

暖かな春の陽射しが差していました。


早めに式場に着いた僕は、いつも病室でお会いしていたご家族に挨拶をし、彼の遺影を見ました。

少し若い頃の晴れやかな笑顔でした。

Kさんの上司も、

「いい顔してるな~」

と言っていました。

僕は上司や同僚と、式が始まるまでの時間、席に座って彼の思い出話をしていました。

仕事が忙しかった時の彼との思い出や、入社した頃はもっとスレンダーだったとか、甘いジュースが好きでコーヒーが飲めなかったこと、家電製品が好きでいつも電気屋さんに行ってたこと。

融通がきかないし世話がやけるけど、人懐っこくてどこか憎めない、そんな人でした。

写真を見ながらそういう話をすると僕は涙がこぼれそうになるので、少し上を向いて、写真を見ないように目をつむりながら、ハンカチを左手に思い出していました。


式では、お父さんが涙で話ができなかったので、挨拶を一言だけされました。

式が終わり、棺が運ばれて、参列者が式場の外で最後のお別れをするとき、僕は泣かないようにこらえていましたが、無理でした。

これが本当のお別れになると思うと、うう…という声とともに、心から涙がこみあげてきました…。

参列者からも、すすり泣く声が聞こえてきました。


実を言うと、昨日までは、葬儀には来たくはありませんでした。

こういう形式ばったものが好きじゃないとか、Kさんのお宅へ伺ってご家族とゆっくり話をしたいからとか、ゆっくり時間をとって偲びたいからと、自分で理屈をつけていました。

でも、本当は人前で泣くのが恥ずかしくて、抵抗があったからなんです。

大きくなってからこれまでに、人前で泣いたことなんてありませんでした。

そして、葬儀に行くと、僕は絶対に泣いてしまうのがわかっていました。


だけど、自分の気持ちを素直に表現することも、彼が教えてくれたひとつの宝物でした。

まだ少し抵抗はありましたが、素直に泣くことができました。


春の陽気が僕たちを包んでいました。




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