彼の気持ちは
Kさんへの思いに自分では気付いていましたが、僕は他人の前では自分を出せないし、好きな人に対してもツンデレなようで、Kさんがニコニコして親しそうに、
『もうすぐこんなデジカメが発売されるよ。』
というかんじで話しかけてきても、近くに他の人がいると、
「へ~。そうなんだ…。」
と、そっけない態度をとっていました。Kさんごめんね。
昼休みの時間は、Kさんの周りにはいつも男性数人が集まっていて、いろんな話をしていました。
そして、ある頃から、ぽっちゃりしたKさんの体を、揉んだりつついたりすることが流行り始めました。
Kさんて、意外といじられキャラでした。つっこみのかわりに腰を揉まれたりするようになりました。
僕は、以前から、彼のズボンがむっちりしている後ろ姿を見て、「Kさんの太ももやお尻に触りたい。」と思っていました。夏場に半袖になると、上着の袖口から出ている彼の太い腕を見て、僕は多少の興奮を覚えていました。彼の太い指も僕には魅力的でした。
したがって、同僚の女性が見たらキモいと思われそうなのですが、僕もそれに便乗して彼の腰や肩を揉むようになるまでに、時間はかかりませんでした。
Kさんは、触れられると、
『やめて~。』
とか
『攻撃されてる~。』
と言って体をくねらせるんですが、昼休みにふざけ半分で好きな人の体に触れることができる日々は、僕にとって毎日が楽しみでした。
でも、僕にとっての問題は、Kさんが男性に興味があるのか?ということでした。
社会的にも、同性が好きということはいまだに軽蔑の対象になりますし、もし僕がそうであると知られたら、会社の同僚も今とは違った目で僕を見るようになるかもしれない。
だから、僕の気持ちをKさんに伝えることはできませんでした。
もし、僕がKさんに、
「Kさんて、男の人に興味ある?」
そんなふうに聞くと、逆に僕がカミングアウトしているようなものです。
さらに、『ないよ。』という返事だったとしたら、Kさんの僕に対する態度も変わってしまうかもしれないと考えていました。
そんなある日、会社の飲み会の席で、数人の同僚の女性に囲まれたKさんが、携帯電話のデータを見られていじられていました。
「興味ないのかなと思ってたけど、さすがに、Kさんもこんな動画見るのね~。」
Kさんの携帯電話に、男女のえっちな動画が保存されていたようでした。
僕は気になって、遠くからその会話を聞いていました。
「やっぱり、Kさんはノーマルなんだ~。」僕は少しがっかりして、そう思いました。
僕自身、下ネタを他人と会話することはほとんどないし、Kさんも自分からそういう話題をすることはなかったから、それまでわかりませんでした。
ところが、ある日、いつものように昼休みに僕がKさんの腰を揉んだりしていて、午後からの仕事に向かおうとしてKさんから離れた時、Kさんが振り向いて、そっと、一瞬だけ僕の腰に触れてきました。
僕は、「えっ?」と思ったんですが、仕事に遅れるといけないのでリアクションできませんでした。
そして、その後は一度もそんなことをしてきませんでした。
「あれは何だったのかな。」と僕は考えていました。
いつもやられていることに対する反撃だったのかな。
何かの意思表示だったのかな。
聞いても答えてくれる人じゃないので、僕からそのことを聞くこともなく、今でも謎のままですが、二人の距離が縮まりそうで縮まらずに、時間が経過していきました。