無条件の愛
もしKさんが僕に対して恋愛感情が無くても、それはそれで僕は納得できそうでした。
彼のことを想うことで、彼と話をすることで、お見舞いに行くことで、僕は自分自身の心の中に愛があることを確認できる。もしKさんが僕を傷つけても、もし僕のことを嫌いだと言っても、僕はこれからも、ずっとKさんのことを愛していられる。そういう自信がありました。
彼に僕を好きになってほしい、僕の言うことを聞いてほしい、そんな見返りや束縛を相手に求める気持ちではなく、彼の彼らしいところ全部が好き。何も求めるものはない。そんな気持ちでした。
今までに言葉で聞いたことはありましたが、これが、無条件の愛、無償の愛、というものなのかなと思いました。
毎日のようにお見舞いに行っているから、僕のことを好きになってほしい。そう思う気持ちもわかりますし、僕も、彼が僕のことを好きでいてくれたとしたら最高の気持ちです。
ただ、僕がお見舞いに行っているのは、彼のことを愛しているからであって、愛してほしいからじゃない。そんな風に思うようになっていました。
僕自身、これまで恋愛にはほとんど興味が無く、友人にも恋や愛を語るような人ではなかったのですが、片思いの可能性があるにしても彼とこうやって過ごしてきた日々が、僕を成長させてくれていると思えました。
僕は、僕のできる限りの力で彼を愛して、愛させてもらえれば、それだけで幸せだと思えるようになっていました。
そして、三月の二度目の週末、彼に会いに行きました。
お父さんが付き添いに来られていました。お父さんは、昼間は病院に来られていて夕方に家に帰られます。早朝に海で釣りをされるのが趣味だと話してくださいました。
今は、県の特産品であるホタルイカがよく獲れて、今朝は十キログラムも獲れたよと僕に話しかけてこられました。
お父さんが売店に行かれると、僕は、
「Kさん、会いたかった。」
と彼の手を握り、顔を添えました。
Kさんは少し寒気がすると言っており、毛布を重ねてかけていました。少し熱があるようでした。
お父さんは、僕にホットコーヒーを買って来られた後、夕方に帰られました。
僕はいつものように彼とスキンシップをして、
「好きだよ。」
「愛してるよ。」
と言葉をかけました。
彼も、いつものように、
『きゃ~。』
と照れていました。
彼は家電製品が好きなので、僕が
「退院したら、新しくできたあの電気店に行きたいね。」
と言うと、
『行きたいな~。いろいろ買うものがある。』
と応じました。
「じゃあ、良くなったら、電気屋さんに行こうね。」
『うん。』
Kさんが答えました。でも、
「電気屋さんでデートしようね。」
僕が言うと、彼はテレビを見て聞こえない振りをしました。核心に迫ろうとすると、なかなか彼も応じてくれませんでした(笑)
「じゃあ、そろそろ帰るよ。」
『はい。』
「最後にキスさせて~。」
『ダメ~。』
こんな会話も、最近の二人の、おきまりのセリフでした。
電気屋さんデートの誘いには答えてくれませんでしたが、僕にとっては、こんなやり取りだけでも、彼とデートをしてるような気分でした。




