一番は誰?
三月になりました。雪もすっかり溶けていたと思います。
三月頃になると、僕は、仕事などでお見舞いに行けない平日は、業務時間終了後の夕方五時過ぎ、会社の図書庫の奥で同僚に聞かれないように、彼に電話をしていました。
「今日は痛み出てない?」
「食欲ある?」
「明日も電話していい?」
毎日のように聞いていましたが、僕は彼の声が聞けるだけで安心して、嬉しく思っていました。
その頃のKさんは、手や腕にかさぶたのようなものができていました。
会社の先輩は、
「かさぶたは、体が治ろうとしてるから出てるんじゃないかな?」
と言っておられたので、僕もそうだといいなと思いながら過ごしていました。
病室内で僕と彼の二人だけになった時は、Kさんが小さい頃に好きだった女の子の話とか、彼のお父さんと弟は喧嘩っ早いので、宴会ではいつも止めに入る役になるとか、二人でテレビを見ながら、早く東北が復興するといいねといった会話もしていました。そして、
「会社の同僚の中で一人選ぶとしたら、誰が一番好き?」
と僕が聞くと、
『誰それさんかな~。』
と答えました。同僚の女性の名前でした。
『引っ張って行ってくれる人が好きかも。』
「へ~。そうなんだ。」
「もし、その人が付き合ってって言ってきたら、付き合う?」
『付き合うかも~。』
少し意外な答えでした。仕事をしているとき、彼は女性にはほとんど自分からは話しかけないし、全くそういう風には見えなかったんですけどね。
「じゃあ、僕は何番目?」
と聞くと、彼はしばらく考えて、
『う~ん。三番目かな。』
おーい!と僕は思いましたが、でも、嬉しかったんですよね。彼の好きな人リストに入っていることが。
脈がないことはない!と。
ただ、そうやって答えて、僕のことが好きなのを照れ隠ししているのかな?と、僕は期待も込めて思いました。
会話をしながら、僕はいつものように彼の手を握ったり、腕にキスをしたり、手に顔をくっつけたり、頬を撫でたり、髪の毛をといたりしていました。
それから、Kさんは、
『僕がお見舞いに来てくれることは嬉しいけど、それと恋愛感情は別!』
と得意げに言いました。
この憎たらしい奴め~と、僕はいたずら好きな弟を見るような目で彼を見ていました。
これまでの彼の話や僕に見せてくれた秘密の動画などから考えると、おそらく彼の性の対象は女性だったのかもしれませんね。
ただ、彼が病気で倒れる前に、僕の腰をちょっとだけ触れたり、カレーのメールをくれたり、ここでは書けないえっちな表現のメールも一つ見ていたので、男性への気持ちも少なからず持っていたと僕は思っています。
そこに、僕からカミングアウトや告白をされ、キスも迫られ、内心動揺したと思います。自分もやっぱり男の人が好きなのか?と。
僕がお見舞いに来て、スキンシップをしたりご両親とは話せない会話もできたことは、彼も嬉しかったと思いますし、しだいに僕に心を開いてくれて、秘密の話もできるようになりました。
彼が僕に好意や感謝の気持ちを持ってくれていることは、僕も感じていました。
でも、もしKさんが僕に恋愛感情が無くても、僕はそれはそれでいいと思うようになっていました。




