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病気のこと

平日は仕事が終わってからお見舞いに行くと、病院に着くのはだいたい午後六時。その時間には、お母さんが来られていました。


「いつもありがとうございます。仕事で疲れてるのに、ごめんね。」

とお母さん。

「いえ。大丈夫です。」

僕が答えました。

お母さんは、お父さんと違っていろいろ気がつく方で、小柄で優しそうな感じでした。


午後六時になると夕食が運ばれてきて、

『まずい。』

と言いながら、Kさんは、もぐもぐとおにぎりやおかずを食べていました。病院食がまずいのは僕もよく聞いていましたが、おにぎりしか食べない日もありました。Kさんは、元々、好き嫌いが多かったのかもしれません。

「野菜も食べてね。」

もぐもぐしている彼に、僕は言葉をかけました。


ある日お見舞いに行くと、Kさんはカップラーメンを食べていました。豚キムチ味を食べた時は、一口食べてすぐに、辛さで口の中が痛くなって、苦しんでいました。

先日も、コンビニで売られているピリ辛味の唐揚げを食べて苦しかったとメールを送ってくれていたのですけれど。

「だから、極端に辛いのはダメだって言っとったのに~」

方言交じりで、お母さんが言いました。

『極端に甘いものも食べられないし、俺の味覚どうなったんだ~。』

とKさんが冗談っぽく言いました。

毎日病院の食事だと味もおそらく薄味だし飽きるから、たまに、濃い味のものが食べたくなるんでしょうね。食べたいものが食べられないというのは、辛いことですよね。


僕は何度もお見舞いに行っているくせに、実は、Kさんがどんな病気なのかを詳しくは知りませんでした。

それで、同僚の女性の方に聞くと、腰の仙骨という骨の周りに腫瘍ができる病気とのことでした。

仙骨の周りには神経がいくつも通っているらしく、腫瘍が大きくなると痛みが出てくるそうです。

また、その腫瘍は手術でしか取れなくて、神経を傷つけると手や足が動かなくなるから、とても慎重で大がかりな手術になること。

一度の手術では腫瘍を取りきれないから、二度に分けて取ること。それでも、完全に取り除くことは難しいこと。取り除いても、少しずつ腫瘍が大きくなってくると、また手術が必要なこと。

数十万人だったか数百万人に一人程度の割合で起きる特殊な病気だということも初めて知り、驚きました。


今まで入院したこともない僕には、そういう特殊な病気と一生付き合っていく辛さや不安は、計り知れないものがあるんだろうなと感じました。

でも、もし僕が彼と一緒に暮らせる日が来たら、僕も一生を捧げても全く後悔しないという自信がありました。僕ができることなら何でもしたい。そう思っていました。




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