物語を創ろう
『さあ物語を創ろう。大丈夫、誰にだって紡げるさ。ハッピーエンド? バッドエンド? それすら自由だ! 未来は定まっていない! さて、君は何を描く?』
勉強用にと買ったノートにはそう書かれていた。
最初は既に書いてあったキャラクターと性格の一覧をもとに物語を書いた。基礎すらままならない状態だったけれど、徐々にのめりこんでいった。自分の思い通りの世界が創れる。それだけで感動した。人物相関図も作った。子供ができたようで楽しかった。
夢中で書いたそれは、設定集となった。
慣れてきたころには、その物語にオリジナルキャラをまぜた。その子もすぐに既存のキャラクターたちに加わって動き出した。もちろん、収拾がつかなくなることもあった。暴れ出したキャラクターたちをなんとか捕えて物語の枠にはめた。
歪な形をしたそれは、確かに作品だった。
もっと面白い話を、もっと心を動かす話を、もっと美しい物語を! いつの間にか書くことが苦痛になっていた。キャラクターたちの動きがわからなくなった。闇の中に閉じ込められて、物語の枠すら見失った。
積み上げてすらいないそれは、作品とは呼べなかった。
こんなものしか書けないなら、もういらない!
泣き叫んでも誰も助けてはくれない。
そうだ、もともとは勉強用に買ったものじゃないか。こんなことを続けていても意味がない。ノートを捨てて、何もかも、無かったことにしよう。
物語も、苦しみも、……楽しさも。
『それが君の望みなんだね。わかったよ。長い間? 短い間? 君の感覚ではどっちだったんだろうね? その中でみんなを動かしてくれて、生んでくれて、ありがとう。もう、この言葉を、君が見ることも、ないだろうけれど』
わたしは世界を描きたかった。
誰かに知ってほしかった。
楽しんでもらいたかった。
悲しんでもらいたかった。
苦しんでもらいたかった。
理解してもらいたかった。
……共感してほしかった。
年月と共に、様々な思いも消え去った。
ノートの存在が忘れ去られ、物語は終わりを迎えた。
『次はどんな終わりだろう? 願わくば、キャラクターたちに、完結を』