第5話:プロは専門知識が必須
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俺は現在自室に引きこもっていた。
机にむかって殺し屋の訓練メニューについて纏めようとするもののどうも筆が進まねえ。
これじゃあ女共に地獄を見せれないどころか嫌がらせも出来なくなってしまうぜ。
三角関数娘共には舐められないように啖呵は切ったもののどうやって立派な殺し屋として育成していくかが問題だ。
サザーランド家は代々暗殺者斡旋を生業にしている闇の名家。
糞オヤジにやり方を聞いてみても「お前の思う通りにやりなさい」の一点張りだ。
親馬鹿の癖に仕事に関してはきっちり線付けしてやがる所がまたむかつくぜ。
「どうしますか?ガルム様」
背後から感情の無い声を出してくるのは糞オヤジが俺に付けた目付役のマリアだ。
この女もリディアと同じく一流の女暗殺者だったらしい。
モデルになれるような程の長身で腰まで伸ばした青い髪。
整った顔立ちの中にあるのは感情が見えない硝子細工のような冷たい目。
メイド服なんてコスプレをしてるが、中身はまさに真性の殺し屋って感じのおっかねえ女だ。
マリアには既に俺の本性を見せている。
勿論、糞オヤジに報告は厳禁にさせているが…。
ていうかこの女は外面はプロの営業スマイル宜しくの快活な女のはずだが、何故俺の前だと陰気な感じに背後に佇んでやがるんだ。
やっぱり俺の本性を見せてから自分も隠す必要ねえって思ったんだろうかねえ。
まあ、そんなことは激しくどうでもいいことだ。
「どうしますかこうしますかじゃねえ!何か良いアイディアがねえんかよ!マリア!」
「私は殺しの専門ではありますが、教えることは専門外です。悪しからず」
「ちっ!使えねえ女だな」
「申し訳有りません」
いや、この女は俺がどの程度あの女共を仕込めるかを見定めているんだ。
目付役というよりは糞オヤジが差し向けた監視役と言ったところか…。
俺は前世では一応殺しの経験はあるが、どいつも衝動的にやったものばかりで参考にはなりゃしねえ。
そもそも殺し屋の訓練ってどうやるんだ?
喧嘩慣れさせるように反復練習の如くひたすら殺人をやらせてやるべきか?
だったら死刑確実の犯罪者共を集めて、殺しを強要させてみるのはどうだろうか?
糞オヤジはやり方を教えてくれねえが、準備だったら引き受けてくれる。
けど、犯罪者を殺させまくるやり方は却下だ。
殺し屋一人育てるために沢山人を殺させるなんて割に合わん。
殺し屋は殺しのプロだ。
ただの人殺しとは一線を画するような何かを持たせないといけねえ。
それには専門知識が必須となるだろう。
確かな知識に基づくプロならでは殺しのテクニックを身につけてもらわないと駄目だ。
そのためにまずは座学で基礎知識を叩き込んでいくとするか。
万能の天才と呼ばれたレオナルド・ダ・ヴィンチは人を描くためにわざわざ人体図を造り上げ、人間の身体構造を突き詰めていったと聞いたことがある。
だったら、殺しもまた然りだ。
よし、方針は決まった!
女共には解剖学をガリ勉させてやる!
俺は椅子から立ち上がって背後に立つマリアを見る。
「どうやら方針は決まったようですね」
「ああ、マリア!急いで机を三つ用意しろ。それと物を書くための板もだ!」
「御意に…」
マリアは忍者のように音を立てることなく消えていった。
さてと、三角関数娘共のために殺人塾でも開くとするか…。
………。