第3話:奴隷共は三角関数
奴隷市場はまるで馬小屋のような汚い場所だった。
あるいは藁とか置かれた鉄格子の中で奴隷共がくつろいでいるアナログな刑務所のような場所とも言うべきかねえ。
それにしても臭いな。
売り物なら手入れして綺麗にしとけってんだ。
さらに言えば掃除してない人間中古品ショップみたいなもんだな。
それとも埃まみれの生きたアンティークショップかねえ。
俺としてはこの世界そのものがアンティークのように思えてくるぜ。
糞オヤジはいちいち俺の仕草や言動に過剰に反応して感動してきてうざいから無理矢理別行動を取らせてもらった。
繋いでいた手を離した途端に涙目になってやがったが、男の涙なんて下水道の生水にすら劣るもんだ。
奴隷と言えば、だいたいは女に限る。
野郎な奴隷なんて弾避けや使いっ走り以外に何の需要も無いからな。
女であれば性欲の捌け口にも使えるし、側に置いとくだけで目の保養にもなる。
だが、サザーランド家で生まれた者として美女であれ何であれ、殺し屋として育てる義務が俺にはあった。
前世で殺し屋に始末された俺が今度は殺し屋を育てる側に回るなんて運命の女神も粋な計らいをしてくれたもんだぜ。
さてと、生きたフィギィアを探すつもりでだらだらと奴隷市場を見回るとするかねえ。
………。
……。
…。
やっぱり奴隷は美女美少女に限るな。
逝かれたようにぶつぶつ言ってる奴や虚ろに空を眺めてる奴。
ギラギラと目を光らせているような奴やこの世の終わりのように絶望に満ちた目をしてる奴などと選り取りみどりだぜ。
とりあえず一通りのタイプを見定めるとするか。
まずはツンデレ系と無口系、それと妹系に姉系かねえ。
未亡人という設定もいいが、いかんせん俺はまだ六歳児だ。
今の俺では敷居が高すぎるかもしれん。
髪型もロングヘアーのショートカット、ポニーテイルにツインテイルと一通りは揃えたいな。
宝塚に出てくるようなゴージャスなドリル頭はさすがに奴隷市場にいないだろうから却下だ。
それに俺はドリルは好みなんかじゃねえ。
まあタイプや見てくれも大切だが、何よりも上手く殺し屋に仕立て上げれるかどうかが問題だ。
具体的にどうやって育てるかは分からんが、精神崩壊がきたすような過酷な訓練を強いるんだろう。
壊れないような頑強な精神力も伴ってないと話にならないわけだな。
目星は決まった。
後は忌まわしい限りだが、糞オヤジに可愛らしく懇願してみるとするか…。
よし、糞オヤジの所にダッシュだ!
………。
……。
…。
糞オヤジの姿を見つけることが出来たぜ。
まだハゲ丸と一緒に時代劇の悪党宜しくの陰謀臭を漂わせてやがる。
「父上」
「おおっ!どうしたんだ?愛しいガルムよ!」
糞オヤジは大仰に両腕を広げて俺を迎えてくる。
胸に飛び込めってのか?
くそっ、頼み事をするためだ。
涙を呑んで茨の園に飛び込んでみせるぜ。
俺は糞オヤジの胸の飛び込んで上目遣いしてやる。
「父上、私は3人ほど奴隷が欲しいです」
六歳児の子供が玩具なんかじゃなくて奴隷を強請るなんてこの世界でなければ、普通はありえんのだろうな…。
「おおっ!ガルムよ!お前は何て勉強熱心なんだ!3人なんてけちくさいことを言わず十人だろうと百人だろうと与えてやるぞ!」
糞オヤジが感涙して俺の頬をごりごりと髭面を押しつけてくる。
身の毛がよだってくるが、大人しく我慢するんだ!
下手に拒絶してへそを曲げられてしまっても困るからな…。
それにしても本当に親馬鹿だな、この糞オヤジは…。
俺は目星を付けた奴隷3人娘がいる場所に糞オヤジの手を引っ張って案内していく。
………。
……。
…。
「本当にこの3人でいいんだな、ガルムよ…」
糞オヤジは鷹のように鋭い眼光で俺が選んだ奴隷3人娘を舐め回すように物色してくる。
さすがは殺し屋斡旋を生業とする男の面構えというやつなのか…。
さっきまでの親馬鹿振りが嘘のようだぜ。
「はい、この3人を私は所望します」
「よし、だったら買うとしようか。お前ももう六歳となるんだ。しっかり調教して優秀な暗殺者を育成できるようにするんだぞ」
「はい、父上のような立派な暗殺者育成師になってみせます!」
「そうか、期待してるぞ。可愛いガルムよ…」
糞オヤジは俺の頭を気安く撫でながらハゲ丸に金を握らせていく。
「有り難うございます!今後も末永くご贔屓を…」
ハゲ丸はほくほく顔で金を握って下品な笑顔を見せてくる。
俺が買い取った奴隷娘共を見る。
一人目は無口系で青色のショートカットの女だ。
胸は一番でかい。
いずれあの谷間に俺の頭を埋めてやるとするか…。
二人目は赤色のツインテイルで如何にも気が強そうな目つきをしたいわゆるツンデレ系になるそうなタイプの女だ。
俺の喉笛を噛みちぎろうするぐらいに敵意を剥き出しにしてやがる。
こういう反抗的な女が調教しがいがあるんだろうな。
それと胸は…少々残念だが、揉めば大きくなるかもしれん。
三人目は茶髪のロングヘアーで儚げでか弱い感じの姉系の女だ。
胸はまあツインテイルの女に比べれば及第点と上げてもいいぐらいか…。
あまり過酷な訓練をしてしまうと壊れてしまいそうなタイプだが、上手くいけば大化けするかもしれん。
壊さない程度に可愛がってやろうかねえ。
「気に入ったか?ガルムよ」
「ええ、有り難うございます、父上」
「そうかそうか。おい、この奴隷共を馬車につぎ込め!私の可愛い息子が選んだ物だ。大切に扱うのだぞ!」
「ははっ!」
糞オヤジは鉄格子を乗せた馬車に奴隷三人を入れるように従者に言い渡す。
六歳児の子供の俺が最初に親からもらったプレゼントが奴隷三人だとはこの世界は本当に最高だな。
「家に帰るまで奴隷共の名前を考えておくといい」
糞オヤジが俺にアドバイスをしてくる。
三人娘共の名前か…。
丁度三人いることだし、数学の三角関数に因んで名付けてやるとするか…。
無口系はサイン、ツンデレ系はコサイン、姉系はタンジェントだ。
家に帰ったら早速調教開始だぜ!