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第26話:如何なる職業も社会見学は必要である

俺はプライベートルームでコーヒーを飲んでくつろいでいた。


あれから愚者は心が病んでしまってリタイヤって状態になっちまったらしい。


別に歯を抜くつもりも無く、ちょっとからかってやろうと思っただけだったのによ。


全く人の心が如何に脆弱なのかを思い知らされたねえ。


「コーヒーのお代わり、いかがですか?」


「もらおうか、マリア」


結局、サインのために“弱者”を用意する件は頓挫しちまったが、まあいい。


サインについては後ほど考えるとして、そろそろサイン共に実習をやってもらわねえとな。


即ち現段階で暗殺者として技量がどれだけ備わっているかってことだ。


「どうぞ、ガルム様」


「ああ」


俺はマリアに差し出されたコーヒーを啜る。


「うめえな」


「ありがとうございます」


淡々とお辞儀するマリア。


いやはや相変わらず良い仕事をしやがるね、まったくよ。


お早うからお休みまでマリア様におんぶに抱っこってやつだな。


「今後の予定を説明しろ」


「はい、明後日にリンガイア当主マンセル様主催の社交パーティーがお屋敷で開かれます」


リンガイアって確か四大貴族の一つでヴァルハラを支えてる政治屋連中を生産してるとこだったな。


政争渦巻くトンデモ一家が主催するパーティとは見逃せねえ重要イベントじゃねえか。


「社交パーティ?ふっ、謀略パーティーの間違いだろ」


あるいは黒い交際をするパーティってとこか。


当然、糞オヤジの薦めで俺も社会勉強の一貫として出席することになってる。


まあ、いずれ標的になる輩だ。


偵察あるいは視察するって形で出席すると思えばめんどくさくはねえわな。


「おい、使用人も何人か連れていけるのか?」


「はい、貴族ならば身の回りを世話する者を引き連れて当然かと…」


「なるほどな」


だったら見学実習もやらしてみるか。


俺は飲み干したコーヒーカップを置いて立ち上がる。


「マリア、至急サイン共のパーティドレスを用意させろ。いいか、二十四時間以内にサイン共を庶民から貴族令嬢に改造するんだ。出来るな?」


薄汚れた奴隷女を一夜にして麗しの貴族令嬢に変身させる。


まさに大改造劇的ビフォーアフター。


そんでもって今回の匠はマリアだ。


「簡単なことです、ガルム様」


マリアが明後日の方向に視線を向けると黒子連中が頭を垂れて、姿を消す。


早速有言実行ってやつか。


「てめえは本当に有能だな。裏切られたら俺は一貫の終わりだぜ」


俺はにやけた笑いを浮かべてマリアを抱き寄せていく。


冗談抜きでマリアに裏切られてしまえば俺はどうしようもなく終わりだ。


だが、別に裏切られるのは恐くはねえ。


そんなの俺がヤクザの下っ端だったころには当たり前のことだったからな。


裏切られたら俺に運が無かったってことで地獄にリターンするのもまた運命ってやつだ。


「私がガルム様を裏切ることは有り得ません」


「そうかい、そうかい。俺は忠誠心豊かなスーパーメイドを持って幸せだぜ」


俺はマリアのけしからん胸を揉みながら谷間に顔を埋めていく。


そんな俺をマリアは抱き締めて頭に顎を乗せてくる。


「では、私の忠誠心がどれ程のものかを試しますか?幼いガルム様には重すぎるかもしれませんが…」


マリアは俺の顔を両手で掴んで眉一つ動かさない能面みてえな美形顔を見せてくる。


冷たい目線に挑発的な言葉で俺を試そうってか?


「そうだな。マリアの身体が重すぎて潰されねえように手加減してくれると有り難いけどな」


「女性に身体が重たいと言うとは失礼ですね。そんなガルム様にはお仕置きします」


マリアは俺の顎を持って冷たい視線を向けた後、貪るように俺の唇に自分のそれを重ねてくる。


冷たい外見に反して唇と舌は熱いな。


「痛っ!」


俺の舌にマリアは自分の八重歯を突き刺さしてくれやがった。


なるほど、お仕置きってやつかね。


マリアは唇を離して俺の血で濡れた舌で自分の唇を湿らせてくる。


「ガルム様、このまま私のものになりますか?それとも生意気なメイドたる私に身の程を教えてくださりますか?」


たかが暗殺メイドの癖に何処までも俺を挑発してくるわけか。


売られた喧嘩は限界までに値切って買わねえといけねえよな。


「上等だ…所有権はこっちにあることをてめえの股間に思い知らせてやるぜ」


そして、俺はマリアを押し倒して、野獣のように乱れまくっていく。


………。


……。


…。


俺はいつものようにマリアに抱き枕にされた状態で目を覚ます。


さてと、いつも通りに家族の団欒を楽しむとするかね。


マリアに服を着せて貰い、朝食が用意された部屋へと赴く。


部屋には相変わらず元日本人である俺にはボリュームありすぎる料理が勢揃いしてやがった。


なるほど、金に汚い貴族が汚らわしい豚に成り下がるには十分の食事環境だ。


それでも糞オヤジとリディアは映画撮影してる美形カップルみてえなスターの輝きを放ってやがる。


いったいどんな胃袋してやがるんだ?


俺の胃袋は大宇宙ってやつなのか、おい。


「おおっ、我が天使!愛しいガルムよ!」


糞オヤジは美形面を台無しにするような緩んだ面をして俺を抱き締めてくる。


相変わらずウザい愛情表現してくるオヤジだぜ。


現代に生きる糞アマ共だったら確実に即反抗期に突入だな。


「あらあら、あなた。ガルムが苦しがってますわ」


リディアは気の良い近所のおばさんのような笑みを浮かべて糞オヤジを窘めてくる。


全く何故こんな糞オヤジにリディアは靡いたのかねえ。


糞オヤジは済まないと言って俺を解放し、食事のテーブルに付く。


「早速だがな。明日、リンガイア家で社交パーティをするのだがお前にも出席してもらう。社会勉強の一貫だと思ってくれ。その顔だと既に知っているようだな」


さすがはサザーランド家当主、親バカから一変してもう冷徹な当主の顔を見せてきやがったぜ。


この変わり身の速さだけは見習わねえとな。


「はい、既に存じています。それでお願いがあるのですが、サイン達も同行させても宜しいでしょうか?」


「ほう、あの者共にも社会勉強させる算段なのか?良かろう。同行を許す。して、服はどうする。リディアのお古でも与えようか?」


「既に採寸合わせをして服を注文しています。明日までには用意できるかと…」


俺と糞オヤジの会話にマリアが割って入ってきた。


マリアの態度に糞オヤジは特に異を唱えることなく俺の頭を撫でつけてくる。


「さすがは抜かりがないな。次期当主に恥ずかしくない振る舞いだ。父として私は鼻が高いぞ」


「私も母として貴方のような息子を持てたことに誇りに思うわ。立派な暗殺者を育て上げるのよ」


ふん、良い息子を演じるのも楽じゃないぜ。


「ご期待に添えるように全力を尽くします。父上、母上」


いずれてめえ等は俺の踏み台になってもらうんだ。


俺が成人になるまでせいぜい立派に親の務めを果たしてくれや。


「私は今まで通り、ガルム様をお守りします」


マリアもまた決意を新たにするように慇懃無礼にお辞儀をしてくる。


「では、訓練に行って参ります」


俺は食事部屋を後にし、サイン共がいる地下室へとマリアを連れて行く。


さてと、今日も元気よくサイン共をいたぶり、もとい教育してやりますかね。

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