第18話:死は救いなり
『※※さん、ピアノ上手なったわね。お母さん、嬉しいわ』
………。
『お母さんには分かるの。※※さんは将来きっと偉い人になるはずよ…』
………。
『諦めたら駄目よ!お母さんが知ってる※※さんはこれぐらいは出来るはずだわ!』
………。
『何やってるのよ!※※さん!この問題が出来るまでご飯抜きですからね!』
………。
……。
…。
「はっ!はぁ…はぁ…はぁ…」
胸くそわりい夢を見ちまったじゃねえか!
サインに対する方針が決まってから気分良く寝れたというのによ…。
俺は汗を拭ってマリアが寝てるベッドから這い出ていく。
「これじゃあ当分二度寝は無理か…」
こういうときはストレス発散をたんまりとやって疲れたときに二度寝するパターンだな。
「てめえ等、付いてこい…」
俺の両脇にいつの間にか現れた黒子擬きAとBを付き従わせて部屋を後にした。
………。
……。
…。
サイン共の訓練で散々入り浸った牢獄へと俺は足を運んでいく。
真夜中の牢獄を歩いてると“あの場所”にぶちこまれたことを思い出すぜ。
「くっくっくっ…」
そういやあ、お袋も“あの場所”にぶち込まれたってけえな…。
物思いにふけってるうちに目的地に到着し、黒子擬きBを施錠を開けてくれた。
さてと、俺のストレス解消に付き合ってくれる親切な生贄に夜這いを仕掛けとするかね…。
「貴様は…ガルム!」
今晩の獲物は訓練中に歯を引っこ抜かれたエリスだ。
「こんばんわ、エリス。虫歯は治ったかい?だったら、おいちゃんと良いことしようか…」
「来ないで!」
黒子擬きABが颯爽と駆けってエリスの両脇を固めていく。
俺はベートーベンの第九を鼻歌で口ずさみながらエリスに見せつけるようにノコギリを弄んでみせる。
「ひっ…」
おっとっ、気の強いエリスちゃんのメッキが剥がれたかのように呻き声を出しましたよ!
よし、掴みはOKだ!
こうやるとヤクザ時代で任務に失敗した下っ端共を粛正したときを思い出すねえ。
古き良き時代ってやつだぜ。
「エリス、死ぬのは何故恐いって思うかねえ?」
「何を言っ…むごっ!」
エリスの口の中にノコギリを突っ込んでやる。
「国語の勉強したか?それとも耳が遠くなっちまったのか?俺は“死ぬのは何故恐いって思う”って質問したんだぜ。お分かりですか?エリスちゃん。分かったのなら瞬きを三回しろや…」
ノコギリを突っ込まれたエリスは光速で瞬きを三回してくれました。
「今度余計な口聞いたら口が鰐みてえになっちまうかもよ。分かりましたか?エリス君」
エリスは三回と言わず五回も十回も瞬きを持って応えてくれました。
俺はうんうんと頷いて、ノコギリを引き抜いてやる。
そんじゃあ気を取り直して質問タイムといくぜ!
「気を取り直した質問するぜ。“死ぬのは何故恐いって思う”」
「死んだら全てが終わってしまうから…」
模範的な解答だねえ。
だから、もうちっと突っ込んでやろうか。
「ほう、だったら全てとは何を意味するんだ?」
「全てって言ったら全てよ!何も出来ない!何も考えれない!何も思えない!全て!何もかもよ!」
「そう、それだ!“何も出来ない”それこそが死に対して恐れを呼ぶ原因。すなわち真理というもんだぜ!ははははっ!」
エリスの呆然とした顔を見つめながら俺は狂ったように高笑いする。
何も出来なくなるから死ぬのが恐い。
だからこそ「私にはまだやり残したことがあるんだ!」や「あの子達を残して逝くなんて…」ってほざいちまうわけだ。
そういう意味では確かに死ぬのは恐いよねえ。
「じゃあ次に質問其の弐だ。人が自殺するのは何故だ?」
「それは…絶望して…嫌だと思ったから…」
「ああん?絶望?嫌?抽象的過ぎるんだよ!もっと具体的に言えや!何に対して絶望して、何が嫌だというんだ?さあ、答えろ。今度詰まんねえ回答しやがったら本当の鰐女にしちまうぞ!」
「ひぃいいいいっ!」
俺はノコギリの先っちょを悲鳴をあげるエリスの鼻の頭に当ててやった。
さてと、みのもんたばりのしかめっ面で顔を近づけてエリスにファイナルアンサーを促してやるぜ。
「今度は慎重に答えてくれよ。人が自殺するのは何故だ?エリス君」
俺の脳内に「ゴゴゴゴゴゴッ」の音が鳴り響いてくる。
さあ、応えてみろ、エリス。
「生きても…仕方ないって思うからよ!」
「まだ具体的じゃねえけど、サービスだ。何故、生きていても仕方無いと思うんだ?」
「何も…出来ないから…」
「ブラボー!素晴らしい!そう、これも何もさっきと同じ答えだよな!自分は無力だから、何も出来ないから、生きていても仕方ない。これが真理というもんだぜ!」
俺と拍手喝采に会わせて、黒子擬きABも倣って拍手してくれる。
案外乗りのいい奴等だな。
気分が最高潮に乗ったところで最後の質問にいってみよう!
「最後の質問だ。“死は救いなり”どうやったら死を救いだと思えるようになる?」
「それは…」
「んん?それは?」
再び俺の脳内に「ゴゴゴゴゴゴッ」の音が鳴り、みのもんた面してエリスの顔を覗き込んでやる。
「それは…」
「ざんねぇん!時間切れ!答えは“何も出来ない生を与える”だぜ。質問其の壱と其の弐を思い出したら軽く解ける問題だったのによ…」
「待って!私はそう答えようと思ってたのよ!だから、もごっ!」
「はい、お話タイムはこれにて終了!もうしゃべらなくていいぜ…」
黒子擬きBがエリスの顔をアッチョンブリケ掴みをして顎を外させました。
前置きはここまでとするかねえ。
こっからが俺のストレス解消タイムの始まりだぜ。
「パッパカプー!残念賞としてエリスちゃんには俺直々に“何も出来ない生”をプレゼントしちゃいます!」
俺はノコギリを煌めかせながらエリスに近づいていく。
エリスは失禁しながらも犬木加奈子の漫画に出てくる絶叫面みてえな顔になっちまう。
「ああっ…あああああああああっ!」
「両手両足両目両耳鼻を奪ってあげますからねえ…」
ノコギリの刃がエリスの股間に当てていく。
「死は救いなり…」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
エクスタシーを感じるぜ!
この肉を切る感触が何とも言えん心地良さだよな、おい!
「くっくっくっ…」
ストレス解消が終わったらピアノでも弾いて気分を落ち着かせるとするか。
そんでもって二度寝するかねえ。
サイン、こんな俺でも守るべき弱者だと哀れんでくれるのか?
「はははははっ…」
俺はハレルヤコーラスを鼻歌で口ずさみながら夢中で“作業”に没頭していった。
………。