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第15話:自己分析することで感情移入を回避する

ペンチを持って無表情に見つめてくるサインに俺は近づいてく。


俺に不意打ちをかまして唇を奪うなんて屈辱を舐めさせやがって…。


こいつの歯と言わず、目も鼻も乳首も全部引っこ抜いてやるぜ。


それにこいつは何てほざきやがった?


魔女に洗脳されてるだと?


俺をマリアに誑かされた幼気な糞ガキと見なしながったのも許し難いっていうもんだ。


「落ち着いてください、ガルム様」


マリアが俺の前に立ちはだかってくる。


「ちっ!マリア!てめえはまた俺を止めやがる…むっ!」


マリアは俺の唇に指二本を押しつけてくる。


「エアタバコを吸って落ち着いてください…」


俺はマリアの指を吸って深呼吸する。


「ふぅ…」


たくっ、俺としたことがつい熱くなっちまったな…。


投げ捨てたハリセンを拾って自分の頭をぴしぴしと叩いて自分を戒める。


教育者である俺が熱くなってどうする。


もっとクールになりやがれってんだ。


「落ち着かれましたか?」


「ああ、わりいな。マリア…」


ていうかマリアはエアタバコの有用性を理解してくれたんだな。


それはいいとして冷静になるにはまず物事を客観視していかなきゃあならねえぜ。


それには遺憾ながら第三者の意見を謹んで聞かねえとな…。


「おい、そこの黒子擬きA!」


俺はハリセンをマリアの後ろに控えてる黒子擬きAにびしっと指して名指してやる。


「えっ!黒子擬きAって…私のことなのですか?」


「そうだ、てめえだ。黒子擬きA!そんで聞きてえことがあるんだが、俺とマリアは端から見てどう思う。思ってることを言ってみろ」


俺の突然の質問にマリアの後ろに控えてた黒子擬きAがビクついてきやがった。


「はい!え…えと…本当に宜しいのでしょうか?」


「ああ、ぶち切れて歯を引っこ抜くなんて真似はしねえよ。安心して馬鹿正直に答えてくれたらいいぜ…」


黒子擬きAは顔は見えねえけど、どうやら気のよええ女のようだな。


「分かりました。その…可愛い子供を誑かす悪女…と言う形に…ひぃ!」


「ああん?」


別に脅してねえのにいきなり黒子擬きAがヘタレやがったぜ。


ヘタレてる黒子擬きAの視線?らしきものの後を追ってみると何とマリアが絶対零度の眼差しでガンつけてらっしゃるじゃねえかよ…。


「おい、マリア…」


「…申し訳有りません」


ほほう、あの鉄の女マリアでも切れるなんていうレアな一面があったなんてな。


こりゃあ新たにマリア編のCG集を脳内で作成して収めとこうかねえ。


「とまあ、てらいのねえ意見感謝するぜ。黒子擬きA」


「あ…ありがとうございます…」


ふん、俺としたことが自分が6歳児のガキだということをもうちっと認識しとくべきだったな。


ファンタジーだからって何でもが俺のとっての非常識ってわけでもないということか…。


「落ち着いた?」


「てめえが言うんじぇねえよ!」


俺は逆転サヨナラホームランボールをかっ飛ばすようにサインの顔をハリセンでフルスイングしてやる。


「痛い…」


サインは赤くなった鼻を涙目で押さえてくる。


「ったく…このアマが…」


この電波女と話すと何でこうも疲れやがるんだ?


ていうかあれほど殺意を抱いてた俺の身を心配するなんてどういう風の吹き回しなんだよ?


「あまり怒ると身体に良くない…」


「ぐっ…まだ言いやがるか…」


こいつは女版の犬養毅首相だ。


まともに話を聞いてしまったら負けになっちまう。


マリアは苛立ってる俺を察するように二本指を唇に押し当ててエアタバコを吸わせてくれる。


全く本当に役に立つ女だな、マリアは…。


さてと、決して感情に溺れず冷静に客観視して自己分析しようじゃねえか。


相手を怯えさせるために計算付くでぶち切れるのはかまわねえが、素でぶち切れてしまったらNGだ。


フロイトの転移・逆転移の話を思い出せ。


俺はこの電波女の訳の分からん言動に苛立ってる。


それは何故だ?


俺を幼気なガキ扱いしたからか?


いいや、違うな。


俺が殺人大好きの逝かれ思考の持ち主に対して、サインは汝敵を愛せよと言わんばかりの聖職者気取りの糞尼だ。


最初は俺に殺意を抱いていたが、マリアが姉の仇だとばらしてしまったことサインの頭の中で俺に対する見方を改めてしまったんだろう。


殺意の矛先を姉の仇であるマリアへと移行させ、俺はマリアに誑かされてる単なる可哀想なガキだと認識しちまったに違いねえ。


そんでもって可哀想なガキだと見なしたことで聖職者ぶって聞いてられねえ愛のノイズを俺に垂れ流してきやがった。


つまり、俺はサインに可哀想なガキだと見なされて同情的な目線で説教されっちまったから苛立ってるんだ。


サインの上から目線で可哀想だから助けてやるという恩着せがましい自己満足の偽善者面にどうしようも無く苛立ってしまってるわけだ。


それで俺は弱い犬のようにみっともなく吠えちまうが、サインは全く堪えねえわけで空振ってさらに苛立って疲れてしまうという最悪の悪循環。


なるほど、大いに理解したぜ。


サインという女は俺にとって毒になるような最悪の存在、いわば天敵。


そう言えば陵辱ゲーで調教師が奴隷に感情移入しちまって逆に調教されるなんてみっともねえパターンがあったけえな。


サインはまさに調教師を逆調教する奴隷っていう厄介な立ち位置だ。


ヘタレ調教師は奴隷に抱いた感情に目を背けてしまったからこそ戸惑い翻弄されちまって奴隷に感情移入しちまった。


さらに感情移入がきっかけで、調教するはずの奴隷に無用な愛着を抱き、愛着が愛に変わって遂には逆調教されてしまったわけだ。


だが、俺はサインに抱いてる自分の感情を自己分析して自覚したわけだから感情移入はしねえし、逆調教されてたまるかってえの。


まあ、ファーストキスを奪われたことは犬に噛まれたと思って諦めるしかねえか。


相手が最悪のどブスでなく美女といってもいいレベルの奴に奪われただけでも救いだと思わねえとやっていけねえだろ。


今までの醜態を綺麗サッパリ心の中に仕舞い込んで俺はサインの方に向き合う。


「サイン、てめえは言ったよな。俺がマリアに誑かされてるただの情けねえガキだとな…」


「そこまで言ってない。けど、私は貴方を魔女から救い出すことは確かに言った。貴方は魔女に言われたから仕方なく酷いことをしている…」


たくっ、無口系だと思ったヒロインが何時になく饒舌になっちまってパパは猛烈に悲しいぜ。


それにしても俺は歯を抜いたり殺させたりと自分の同僚を好き勝手に弄んでるというのによ。


そんな外道な俺を救うなんてどんだけ凶悪なお人好しなんだろうねえ。


「くっくっくっ…」


「ガルム?」


だったら、そのお人好しがどんだけ続くか限界まで試させてもらおうじゃねえか…。


………。

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