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第14話:サイン

さてと、今日の講義はここでお開きにするかねえ。


だが、その前にやらなきゃあならねえことがあるんだよな、これが…。


俺は立ち上がってサインを見守っていた女騎士共を見渡す。


「てめえ等、この女の足枷になるからって舌噛んで自殺なんて馬鹿な真似はするんじゃねえぞ。もし、一人でもやったら…」


マリアは俺の命令を伺うまでもなく一人の女騎士の前に来て、顔を鷲づかみにして口を無理矢理開かせる。


俺はハリセンを投げ捨てて職人から借りたペンチを取り出してマリアが取り押さえてる女騎士に近づく。


「てめえは確か英雄の妹の側近の一人エリス・ヴィンヤードだったよな…」


「ほれはろうひたっ!」


エリスはマリアにアッチョンブリケな顔にされていることから間抜けな声で答えてきやがってるねえ。


全くシュールなギャグにもならねえコメディだぜ。


さてと、痛みを伴う意識構造改革っていうもんを実践するか…。


「てめえは笑ったときに歯が綺麗だと言われたことが無かったか?ほら、女性は歯が命とか言うだろ。それと白い歯は健康の証だとかな。全く健康ってもんはいいもんだよなあ…」


俺はエリスに見せびらかすようにペンチをカチカチ鳴らし、サインの方に向いて笑みを見せてやる。


「けどな、いっつも健康だったらいざ風邪引いたときに免疫力ゼロで成す術も無く逝っちまうよな。それじゃ駄目だろ。健康な奴ばかりが溢れてたら人類はいずれ滅びてしまうかもしれねえ。極論だが強ち間違えってわけでもねえと思うぜ。骨を折ることで頑丈な骨が作られるように人も丈夫になるためには痛みを覚える必要があるわけさ。だからよ、たまには不健康になってもいいんじゃねえのっということだ。てなわけで人類を救うためにいっちょ不健康になってみねえか?なあ、エリスちゃんよお…くっくっくっ…」


「…っ!」


白かったエリスの顔が青ざめてくるのが分かるぜ…。


「ガルム!」


サインが焦った声を響かせてくる。


「ガルム様と呼べって言っただろ。よく見ておけ。これが痛みを伴う意識構造改革ってやつだ…」


俺はエリスの開いてる口の中にペンチをカチカチと音を立てながら近づけさせていく。


「あああっ!あめろっ!あめれくらさい!」


エリスの目から涙が零れてきやがったな。


「女の涙は武器っていうが、俺の信念は揺るがねえぜ。なぜならば、俺は人類を救うっていう世界一の大義名分を背負ってるわけだからな。はははははっ!だから…不健康になりましょうね…エリスちゃん」


丁寧だが、異様に迫力ある恐い歯医者みてえな口調でペンチを女騎士の口の中に突っ込んでいく。


「は!はめろ!はぎゃあああああああああっ!」


「これでてめえも目出度く不健康な歯抜けババアの仲間入りだぜ!ははははっ!」


狂ったように藻掻き苦しむエリスを余所に良い仕事をやったと言わんばかりに俺は汗を拭う。


世界初6歳児にして無免許で歯医者さんをやっちまったぜ。


ブラックジャック先生も真っ青のギネスもんかもしれねえな。


「集団自決しよってんならてめえ等の家族を歯抜けにして市中引き回しの刑にしてやるからな」


俺は血塗れになったペンチを弄んでサインに向かってエリスの歯をポイ捨てしてやる。


「今日の講義はこれにて終了だ。せいぜい恨み節を子守歌に寝ることだな。行くぞ、マリア」


「はい、ガルム様」


俺は鼻歌交じりに牢獄から出ていこうとする。


「マリア、今日は俺に添い寝をしろ」


「今日も…ですね。畏まりました」


さとて、マリアに添い寝をしてもらうかねえ。


「待って…ガルム」


「ああん?」


二度ならず三度までも俺を呼び捨てにするとは良い度胸じゃねえかよ…。


俺は血が滴るペンチをカチカチと苛立たしげに鳴らしながらサインに近づいていく。


「貴方は…いったい何を望んでいるの?」


ほう、「何故、こんな酷いことをするの?」とは聞かないんだな…。


そう言えばサインとまともに話すのはこれが始めてじゃねえか?


ひょっとして何かフラグを立てっちまったかねえ。


だったら特別に聞かせてやってもいいか…。


「世界を面白くするためさ…」


「世界を面白くするため?」


サインは分からないって言った顔になる。


まあ、こんな虐待じみた訓練をしていて「面白い世界にする」なんて言っても分かんねえよな。


だけど理解なんてしてもらおうなんてミジンコも思わねえからよ。


「こんなことをしても世界を面白く出来るとは思えない…」


コサインに続いてこの俺にまで説教を仕掛けてくるとは良い度胸じゃねえかよ…。


「ほう、俺を殺すとか言ってた奴がえらそうに説教するつもりか?てめえには殺し屋だけじゃなくて糞尼になれる素質もあるようだな…」


「私は宗教国家出身。元々聖職者を目指していた…」


「皮肉を言ったんだよ!それを素で返してくるんじゃねえ!」


「ご免なさい…」


怒鳴った俺に対してサインは平謝りしてくる。


何なんだ、このやり取りはよ?


この俺が調子を狂わされてじゃねえか!


ちっ、この女は犬養毅首相じゃねえけど話せば負ける可能性があるな…。


だったら、ここは問答無用で返してやるのがお約束っていうもんだろ…。


「マリア、こいつの歯を抜く。押さえつけろ」


その説教臭い口を糞ババアのように老けさせてやるぜ。


「それは止めた方が良いと思われますが…」


「何だと?」


俺はマリアにペンチを向けてガンつける。


まさかここに来て「マリア、てめえもか?」を俺に言わせるつもりかよ。


「歯を抜けば噛み合わせが悪くなり、身体能力に影響が出てしまいます。繊細な身体能力を旨とする殺し屋に育てたいのでしたら止めた方が宜しいかと…」


「はああん?何言ってやがる!任務中に顔をぶん殴られて歯抜けになることだって…」


言いかけて俺は止めてしまう。


任務中に顔をぶん殴られる状況に陥ること事態暗殺者にとって致命的で失敗を意味してることに気づいたわけだ。


それにマリアにはサインを一流の暗殺者に仕立て上げることを俺は言い渡してる。


だからこそマリアは俺に諫言じみたことを物申したわけだろう。


俺は忌々しげに舌打ちしてペンチをカチカチ音を立てるのを止めてやった。


「ちっ!忌々しい限りだが、今回ばかりは勘弁してやる!だがよ…」


倒れてるサインの顎を掴んで顔を引き寄せて凄んで見せつける。


「てめえが使いもんにならねえ殺し屋になるん…むぐっ!」


「ガルム様!」


俺の頭ん中はPCがブルースクリーンになっちまったかのように真っ青になっちまう。


「んっ…」


目の前には目を瞑ってるサインの顔があった。


だったら、この唇の感触は…。


「ぷはっ…サイン!てめえええええええええええっ!」


俺はサインを突き飛ばして口を拭う。


そんな俺をスカした面で見つめてきやがるサイン。


「貴方をその魔女に洗脳されてるだけ…だから…私は貴方を救う…」


「何電波なことを言ってやがる!よくも俺のファーストキスを…しかも不意打ちで…この逝かれ狂信者の腐れ雌豚がっ!」


俺は生まれ変わって以来初めて本気でぶち切れてしまったぜ…。


サイン、てめえはぶッ殺す!


………。

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