第10話:初心者には手取り足取り丁寧にお教えします
「私は…良いことをする…英雄に…なる」
「そうだ、コサイン。てめえは生まれ変わるんだ。それで誰もが傅いて止まない最高の女なるんだ…」
コサインは虚ろな面でナイフをロベルトの胸に向けて歩いていく。
ほら、ぶすっと逝って殺れ!
もう少しで処女喪失だ!
鮮血を浴びて虚ろに笑う壊れた姿を俺に見せるんだ、コサイン!
「私は…」
おっと、コサインがナイフを引いてロベルトをぶっ刺すように構えましたよ!
新郎新婦がウェディングケーキをカットする瞬間のような感動的名シーンだ!
このファンタジーの世界にビデオカメラがねえことをこれほど悔やんだことがねえぜ!
コサインはついにナイフを突き刺そうとしてくる!
「私は!」
よっしゃ、コサインのクラスチェンジの瞬間だぜ!
「そんなことをしても貴方は英雄にはなれない…」
「えっ…」
なんだって?
「恨みを断ち切ることは出来ない…」
感動的名シーンとなる瞬間にコケテッシュなノイズが入ってきてNGシーンになっちまったなあ…。
「くっくっくっ…」
俺はサインにガン飛ばす。
サインは俺の睨みに何も言うことなくだんまりで返してきやがる。
「サイン…てめえ…」
てめえは無口系なんだろ?
何ここで五文字以上の台詞を吐いてるんだよ、コラ…。
俺は立ち止まってるコサインの頭をハリセンでぶっ叩く。
「何やってんだ?早く殺れよ」
「けど…私は英雄には…」
さらにハリセンでコサインの横っ面を引っぱたいてやる。
「サインの言うことは戯れ言だ。俺の言葉に従え」
「けど…けど!」
虚ろだったコサインの目に光が戻ってきたじゃねえか…。
このやろう…。
だったら、もういいぜ…。
「わりいわりい、てめえは確か赤点まっしぐらの困ったちゃんだったな。そんなてめえにいきなり本番は酷だったぜ」
俺は笑顔でコサインの頭をぺしぺしと叩いてみせる。
「えっと…だったら…」
コサインは隠しきれない歓喜の笑みを見せて期待してやがる。
困ったちゃんだから勘弁して貰えるのかと思ってるんかねえ、この女は…。
さっきまでは絶望から希望を与えてやったが、次は逆だ。
「けどな、俺も一応教師だ。相手が例えどうしようもねえ程の糞ったれな困ったちゃんでも教え導くのが教師の使命ってもんだ。だからよ…」
俺は視線をマリアに向ける。
マリアは俺の視線に意味に気づいて頷く。
これぞアイコンタクトってやつかねえ。
「困ったちゃんでも分かるように手取り足取り丁寧に教えてやるよ。マリア…」
「畏まりました」
マリアは流れような動作でコサインの背後に立って羽交い締めにしてくる。
「えっ?何?」
マリアに拘束されて戸惑うコサインを余所に黒子擬きがロベルトに猿ぐつわを噛ませて、動けないように両脇を固めていく。
さあ、準備は整った。
「何をさせるつもり?」
今度はサインが俺にガン飛ばしてくる。
「ああん?てめえは床にキスでもしてろってんだよ!」
「あぐぅうあああああっ!」
久しぶりにスティグマを発動させちゃいました。
「ぐっ…うあああああああああっ!」
反抗するむっつり娘が床で身もだえる姿は萌えるねえ。
「もう止めてください!苦しんでいます!」
苦しむサインが見てられないとばかりにさっさまでゲロっていたタンジェントちゃんがここでようやく見せ場を作ってきましたよ。
「てめえもサインとお揃いになりてえってのか?んん?」
「ああ…あの…その…」
勇ましく言ってみたものの瞬殺かよ…。
これじゃあ単なるギャグにしかならないぜ、ミス・ヘタレ。
俺はミス・ヘタレからコサインに目を向ける。
さてと、特別補習だ。
「マリア、きっちりとガキでも分かりやすく教えてやれよ」
「はい、ガルム様。では、コサイン。貴方は力を抜いていてください。私が貴方の身体を使って実演してみせますから…」
「えっ…ちょっと止めて…いや!離してぇえええっ!」
マリアはコサインを羽交い締めにしながらもナイフを握ってる手を掴んで強引にロベルトの方へと刃先を向けさせているな。
俺はマリアの腕の中で無駄な抵抗をしているコサインに笑みを見せていく。
コサイン、てめえが悪いんだぜ。
俺の言葉よりもサインの戯れ言に耳を貸したんだからよ。
「それではコサイン。この肋骨に丁度覆われていない場所が心臓の位置です。早速実演してみましょう」
「いやぁああっ!止めて!止めてぇええええええっ!」
「暴れないでください。手元が狂ってしまいますよ」
激しく抵抗するコサインを余所にマリアの手で容赦なくコサインのナイフがロベルトの心臓の位置まで動かされてるぜ。
さあ、人の身体を貫く感触を味わいな。
「むごおおおおっ!」
あらあら、ロベルトの奴は刃が心臓の位置に迫ってくると首をぶんぶんと振り回してきやがったよ。
やっぱり死ぬのは恐いものなのかねえ。
「それでは心臓に向かってゆっくりと刺していきましょう」
「いやああああああっ!」
おおっ、ロベルトの胸にコサインのナイフがゆっくりとめり込んできている!
「もごおおおおっ!」
ロベルトが猿ぐつわの中で絶叫が上げてるのを全身で表現してるぜ!
「これが人を刺す感触ですね。もう少し深く刺せば、心臓を完全に貫けますよ」
「止めてぇええええええっ!」
それにしても時間かけて胸にナイフをめり込ませるシーンもまた貴重だな。
俺も初めて見るしよ。
おっ、コサインのナイフが柄のとこまでめり込んでいったな。
これで死んだか?
「これは私としたことが失礼しました。コサインが余りにも暴れるので手元が狂ってしまいました。心臓の位置はもう少し左よりですね」
「ああぅ…」
絶対ワザと外したな…。
コサイン如き小娘が幾ら暴れようともマリアほどの殺しの匠が手元を狂わせるなんて天地が裂けてもありえねえはずだ。
こいつはとんでもねえドSメイドだな。
ロベルトなんかはもう白目むいてやがるし、コサインなんかはもう失禁もしてやがるぜ。
とりあえず訓練が終わったらマリアには後で新しいメイド服を俺が手取り足取りで着替えさせてやるとするかねえ。
「それでは仕切治しと行きましょうか。今度こそ一緒に心臓を綺麗に貫くようにしましょう」
「ああ…もういや…ううっ」
マリアがコサインの手を引かせた瞬間にロベルトの胸から血が飛び散ってコサインの顔にひっかかっていった。
「これが返り血です、コサイン」
「いやああああああああっ!」
いやあ、容赦無いね、マリア大先生はよ。
せいぜい頑張ってくれよ、困ったちゃん…。
………。
外道っぽいでしょうか。
御感想待っています。