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第9話:代名詞や普通名詞よりも固有名詞がインパクトに残る

息を呑んで顔を強ばらせる三人娘を楽しむようにして眺めながら俺は果物ナイフを弄んでみせる。


「…とまあ、てめえ等にはこれからこの御献体共に実践してもらうわけだが、まずはお手本を見せねえとな。マリア」


「はい、ガルム様」


俺の隣に付き添っていたマリアが一歩前に出てくる。


「これからこの殺しの匠であるマリア大先生がただで殺しの手本を見せてくれる。夢に出てくるほどに目をかっぽじって見ろよ、てめえ等!」


マリアの背後から黒子擬きの連中が手早く両脇から献体を起こし上げていく。


「ああ、そうそう一応てめえ等のために御献体になってくれる野郎共の自己紹介をしてやらねえとな。こいつの名はライナス・ガーランド。あの魔女ガレサの麾下にいた邪教の先兵ともいうべき野郎だ。俺達のために戦ってきたヴァルハラ兵を殺した大罪人だ」


俺はサインの何かを堪え忍ぶ素顔を観賞しながら丁寧に御献体を紹介してやる。


別にサインに対する嫌がらせだけじゃねえ。


代名詞の「彼」や普通名詞の「男」よりは固有名詞の「ライナス・ガーランド」という御献体をぶっ殺すということを認識してもらった方がより強いインパクトを残せると考えたからだ。


俺は殺人に関しては標的をその他大勢と認識させて教え込むつもりはねえ。


標的がどんな奴かを認識してもらった上でぶっ殺せるような真に鉄の意志をもった殺し屋に仕立てるつもりだ。


標的のことを一々考えるななんてほざく奴が多いが、そんな奴に限って標的に感情移入してしまいやがって失敗する奴が多い。


なぜなら標的をカモやネギだと思いこもうとする奴は心の何処かで感情移入しちまったらどうしよっかと潜在的に恐れてるからだ。


それに殺す標的のことを知ろうとせずに殺ろうとすれば逆に標的に足を掬われるてしまう可能性がある。


標的の全てを洗いざらい受け止めて尚自制出来る奴こそがプロの殺し屋ってもんだ。


「では、僭越ながら不肖この私マリアが実演させて頂きます」


マリアは両手でスカートを持ってお辞儀した後、黒子擬き共がライナスを解放していく。


「この忌まわしき魔女め!貴様さ…え…」


ライナスが罵倒を上げてる途中にいつの間にかマリアが懐に入って心臓に果物ナイフを差し込んでいた。


「お疲れ様です」


マリアは胸からナイフをひき抜き、社交ダンスでもするかのようにライナスの背後に回って返り血をさけていく。


「なっ!」


「えっ…」


「っ…」


コサインもタンジェントもあのサインすらも目を見開いてマリアの鮮やかな殺人テクを魅入ってやがった。


ライナスは盛大に鮮血を撒き散らせて壊れた人形のように身体をかくかくさせてぶっ倒れていく。


「おえぇえええっ!」


牢屋に血の匂いが充満し、タンジェントはその場に崩れてゲロをぶちまける。


おいおいまるでサスペンス劇場で仏さんを初めて見てゲロする新米女刑事みてえだな。


俺はゲロするタンジェントを余所に見事な殺人テクニックを披露してくれたマリアに拍手喝采してやる。


「素晴らしい!さすがは殺しの匠だぜ!マリア!」


「恐れ入ります」


そんな俺とマリアのやり取りをコサインは気持ち悪い目でガンつけてくる。


「どうしてそんなに簡単に人を簡単に殺したりするのよ!あんた達最悪よ!」


「何ほざいてやがるんだ?てめえもこれから最悪になっていくんだぜ…」


俺はコサインの頬をハリセンでぺしぺしと叩きながら言ってやる。


「てめえもヴァルハラで生きる民草だろうが。この御献体はてめえと同じ民草をぶっ殺して生きてきたんだ。むしろ褒めてもらいたいぐらいだぜ…」


「殺しなんか褒められるもんなんかじゃないわ…」


「あっそ、てめえは国のために血と汗と涙を流してる兵隊さん達を褒められないって言い張るのだな…」


「それは…」


口をつむぐコサインに俺は果物ナイフを突き付ける。


「まあ、下らねえ討論なんかはこれ以上するつもりはねえよ。ほれ、手本は見せてやったんだし、今度はてめえが殺してみやがれよ。おい、マリア」


「はい」


マリアの促しで黒子擬きはコサインに殺させる御献体を引っ立てていく。


「こいつの名はさっきマリアが見事な手際でぶっ殺したライナスの弟ロベルトだ。こいつもヴァルハラの民草を虐殺したふてえ野郎だ。だから遠慮無く殺っちまいな」


「よくも兄上を…この悪魔共め!」


ロベルトは怨嗟を言葉を俺やコサインに向けてきてやがる。


「そんな…私が…やったわけじゃあ…」


「くっくっ…あちら側から見るとてめえも同類だとよ…ははははっ!」


コサインは見事に恨み辛みの言葉に腰が退けているな。


だが、それでいい…。


そうやってたっぷりと恨みを買っていけ…。


恨みを買って慣れてそれがどうしたとスルーして刃を突き立てる度胸を身につけていくんだ。


「貴様等絶対に許さな…ぐはっ!」


「ごちゃごちゃうっせんだよ!この邪教徒風情が!」


俺は喚いているロベルトを蹴飛ばして、恐慌状態に陥ってるコサインにナイフを握らせてやる。


「ほら、耳障りなんだからさっさとぶっ殺せよ」


「いや…そんなの…出来ない…出来ないわ…」


気がつええコサインが涙目で俺に懇願してやがる。


ようやく自分の置かれた現実が見えて来たようだな…。


「てめえの手でこいつを兄貴の下に逝かせてやれよ。それがせめてもの情けってもんだぜ。なあ、コサイン…そうだろ?」


「出来ない…出来ないよぉおおおおっ!」


「やれってんだよ!恨みも憎しみも哀しみも死ねば綺麗さっぱり消してやれる!こいつを殺せば、もうてめえは罪悪感に駆られることはねえんだよ!なぜなら死人に口無しなんだからよ!」


全くみっともなく泣き喚いちゃってよ。


やれやれ、ここは少し優しくしてやるかねえ。


調教の基本は絶望と希望の適度な配分だ。


絶望と希望は使いようってもんだ。


俺は喚くコサインを首根っこを掴んで耳元で囁いてやる。


「冷静に考えてみろよ、コサイン。てめえはこいつを殺さない限り一生恨まれて生きていくんだぜ。友達と遊んでいる時も歌を歌ってる時もガキに乳を飲ませる時も愛する男と一緒に寝ている時もずっと恨まれていくんだ。そして、てめえは耐えきれずに気が狂って見たくもねえ悪夢に震えて一生引きこもって過ごしていく。そんな人生にてめえは耐えられるんか?」


「いや…そんなのいや…」


「だったら、やるんだ。安心しな、てめえは良いことをやるんだ。こいつに殺されていった家族の恨みを晴らすんだからよ。むしろてめえは英雄なるんだぜ。少なくとも俺はてめえを英雄と褒め称えてやる。他の誰もが否定しようとも俺だけはてめえを認めてやる」


俺は糞オヤジに強請る時に使う天使の微笑みってやつをコサインにも使っていく。


「本当…に…?」


コサインは希望を見出したかのように俺に縋る目を見せてくる。


これはひょっとして堕ちたかねえ…。


「くっくっくっ…ああ、俺は嘘つかねえぜ…」


存外呆気ないもんだったな…。


さてと、コサインの処女喪失の瞬間を見さしてもらって感動させてもらうか…。


コサインは幽霊に取り憑かれたかのようにナイフを握って蹲ってるロベルトの方へと向かっていく。


さあ、殺せ…。


殺せ…。


殺せ!


………。

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