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幼馴染に貶され続けた絵が、隣国の公爵令息の心を奪ったらしい

作者: ぴょる
掲載日:2026/04/10

エリーゼは絵を描くのが大好きだ。

幼少期から、心揺さぶられるものを見たら描かずにはいられなかった。


描かないと手がうずうずして仕方なくて、とにかく何でもたくさん描いた。

スケッチも、油絵も、どれも楽しかった。


両親はエリーゼの絵を大層褒めてくれた。

だがエリーゼにはわかっていた。

親だから褒めてくれるだけなのだと。


親だから画材を惜しみなく与えてくれるし、親だから描くたびに褒めてくれる。

真の評価は違うのだと、エリーゼは理解していた。


エリーゼには幼馴染、レナートがいた。

領地が近く、親同士仲が良かった。

将来は結婚するかも、なんて親が噂するくらいには、エリーゼとレナートの仲も悪くなかった。


しかしある時、エリーゼが描きあげたばかりの風景画を見て彼は言ったのだ。

「面白くない。こんなの誰でも描ける」


エリーゼは内心傷ついた。だがどこかで理解していた。

両親は褒めてくれる。でもそれは親だから。

彼の言葉は残酷だったけれど、少なくとも正直だと思った。


レナートの言葉は止まらなかった。

「つまらない絵だな」

「こんなの飾るより薪にした方がいい」

「画材の無駄だ」


それでも、エリーゼは描くのをやめようとは一瞬も思わなかった。

描かずにはいられなかったのだ。

誰かのためではなく、ただ自分が描きたいから描く。

それがエリーゼという人間だった。


---


ある日、遠方に住む祖父母から手紙が届いた。


屋敷の応接室を模様替えしたのだ。そこに飾る絵を描いてくれないか。


エリーゼは喜んだ。

両親から贈られた画材はまだたくさん残っている。

何を描こうかと考えるだけで、もう手がうずいた。


数週間かけて仕上げた一枚は、祖父母の屋敷の窓から見える丘の風景だった。

遠い記憶を頼りに描いたものだったが、エリーゼ自身、悪くない出来だと思った。


祖父母は届いた絵を見るなり、大袈裟なほど褒め称えた。

「なんて美しい。まるで本物みたいだわ」

「エリーゼ、お前は天才だ」


エリーゼは微笑んだ。

お世辞だとわかっていても、やはり嬉しかった。

愛されているのだと感じた。


---


絵は応接室の、一番目立つ壁に飾られた。


数ヶ月後、隣国の公爵家が祖父母の屋敷を訪れた。

領地の境界に関する話し合いのためだったが、エリーゼにはあずかり知らぬことだ。


公爵家の令息、クロードは応接室に通された瞬間、足を止めた。

壁の絵に目を奪われたのだ。


丘の稜線が、夕暮れの光の中に柔らかく溶けていく。

遠く小さく描かれた羊の群れ。

風を含んだような草原の揺らぎ。


「この絵は」クロードは呟いた。「誰が描いたのですか」


祖父母は顔を見合わせて、誇らしそうに笑った。

「孫の絵ですよ。まだ若い娘なのですが、昔から絵が好きで」


クロードは絵から目を離せなかった。

「若い令嬢が、これを?」


それから彼は、絵の作者に会いたいと申し出た。

真剣な目で、真剣な声で。


---


エリーゼの家にやってきたクロードは開口一番に言った。

「あなたの絵を見て、立ち尽くしてしまいました。描いた方にどうしてもお会いしたくなったので」


エリーゼは面食らった。

「わざわざそのためにいらしたのですか」

「ええ」

クロードは迷いなく答えた。

お世辞にしては、あまりにも真っ直ぐだった。


「……両親も祖父母も、いつも褒めてくれるのですが」エリーゼは少し困ったように微笑んだ。

「身内ですから、差し引いて聞いていて」


するとクロードは、わずかに眉を上げた。

「それは違うと思いますよ」

「え?」

「あの絵を依頼したのはご祖父母様でしょう。飾る場所まで決めて」

クロードははっきりと言った。

「わざわざ孫に頼むのは、あなたの絵でなければならないと思っているからです」

エリーゼは言葉に詰まった。

「ご両親が画材を惜しまないのも同じことでしょう。これほどの才能を、周りが放っておくわけがない」


才能。


その言葉が、するりと胸に落ちた。

お世辞でも愛情でもない響きで。

エリーゼはしばらく黙って、それからゆっくりと息を吐いた。

「……初めて、そう言われました」

「そうですか」クロードは少し意外そうに、それから穏やかに笑った。

「では、これからは私が言い続けましょう」


それが始まりだった。


クロードは熱心だった。手紙を送り、機会があれば顔を見せ、エリーゼの描いた絵について真剣に語った。

絵のどこが好きか。何を感じたか。次はどんな絵を見たいか。


エリーゼは戸惑いながらも、気がつけば笑っていた。

自分の絵についてこんなに話したのは、初めてだった。


やがて二人は婚約した。


---


知らせはレナートの耳にも届いた。


エリーゼが、隣国の公爵家令息と婚約した。

きっかけは、彼女の絵だという。


レナートは一人、自室で拳を握った。


馬鹿にしていた。

「つまらない」「誰でも描ける」そんな言葉を何度も言った。

でも本当は違う。

あの絵の前に立つたびに、うまく言葉にできない何かを感じていた。

悔しくて、認めたくなくて、だから貶した。


照れ隠しだったのだ。

ずっと、そうだったのだ。


だがもう遅かった。


エリーゼは絵を褒めてくれた人を選んだ。

正直に、真剣に、絵と向き合ってくれた人を。


レナートがずっとできなかったことを、その男は初対面でやってのけたのだ。


---


エリーゼは今日も絵を描く。


描かずにはいられないから描く。

それは昔から変わらない。


ただ一つ変わったのは、傍らで「次はどんな絵を描くの」と聞いてくれる人がいることだ。


エリーゼはパレットを手に取りながら、少し考えた。


「丘の絵、もう一枚描こうかと思って。今度はもっと朝の光で」


「それは楽しみだ」


その言葉に、エリーゼは微笑む。

お世辞じゃないとわかるから、余計に嬉しかった。

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― 新着の感想 ―
個人的に幼馴染みシリーズの話が好きなので面白く読ませて貰いました。 好きな女の子を苛めたくなる男の子全員に教訓として読ませたいですね。
これ絵に限らず、好きな人が真剣に打ち込んでることを貶してくる奴は好かれないよ。
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