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第5話 筋肉は温泉を消し飛ばす

温泉宿の夜は、静かだった。

虫の音が遠くで鳴き、

風が木々を揺らし、

露天風呂からは、かすかな湯の揺らぎが伝わってくる。

その穏やかな空気の中。

セリアーナが満足げに伸びをした。

「いや~。最高の料理でしたね!」

フィオナも短く頷く。

「あぁ」

カイシンが顎を撫でる。

「山菜に川魚……どれも地元で取れた食材じゃろうな」

竹助は静かに言った。

「筋肉が満足している」

セリアーナ

「やっぱり筋肉なんですね!?」

カイシンが立ち上がる。

「さて」

一度、外の方へ視線を向けた。

「ワシは少し外すでの」

セリアーナが首を傾げる。

「外す、ですか?」

「神殿への報告じゃ」

フィオナが頷いた。

「頼みます」

カイシンは竹助を見る。

「先に温泉に入っておくとよい」

一拍。

「露天風呂は格別じゃぞ」

セリアーナの顔がぱっと明るくなる。

「はい!」

フィオナも静かに立ち上がる。

「……では後ほど」

竹助は頷いた。

「筋肉に癒しを」

セリアーナ

「だから何なんですかそれ!?」

こうして三人は、夜の露天風呂へ向かうことになった。

露天風呂。

月明かり。

白い湯気がゆらゆらと揺れる。

竹助は湯に浸かっていた。

目を閉じている。

静止。

だが、その身体はいつでも動ける状態にあった。

その背後。

音もなく、影が現れる。

シエル。

(やっと一人になった)

(――好機)

ナイフを構える。

踏み込む。

一閃。

キィン。

止まる。

竹助の指。

刃はそこに挟まれていた。

(……見えたのか!?)

思考が一瞬で切り替わる。

(なら――)

消える。

残像だけが残る。

高速移動。

撹乱。

左右、背後、死角。

ナイフが連続で閃く。

だが。

竹助もまた、消えていた。

地面を蹴る。

湯気を裂く。

影が交錯する。

静寂の中で。

異様な高速戦が展開されていた。

シエル

(速い……!)

理解する。

正攻法では通じない。

だから――

奥の手。

小瓶を取り出す。

投げる。

同時に。

ナイフを投擲。

カンッ。

小瓶が砕ける。

毒が霧状に広がる。

竹助の顔面へ。

吸い込まれる。

シエルが低く言った。

「終わり」

だが。

竹助は動じない。

「……毒か」

静かに呟き。

しゃがむ。

スクワット。

一回。

二回。

三回。

筋肉が膨張する。

血流が加速する。

体温が上がる。

空気が歪む。

湯が揺れる。

ボコボコと泡立つ。

シエル

「……何をしている」

次の瞬間。

ジュワァァァァ……

露天風呂の湯が――

蒸発した。

完全に。

一瞬で。

湯気だけが残る。

沈黙。

シエル

「えぇ……」

竹助

「解毒した」

「新陳代謝で!?」

その時だった。

のそのそと、影が現れる。

全裸のカイシンだった。

「何か騒がしいのう」

そして、止まる。

全裸の竹助。

シエル。

空の浴槽。

沈黙。

カイシン

「竹助よ」

一拍。

「そういうサービスは知らんぞ」

シエル

「違う!!」

顔を真っ赤にして叫ぶ。

その瞬間。

ドタドタと足音。

セリアーナの声。

「何か音がしました!」

バンッ!!

扉が開く。

セリアーナとフィオナが飛び込んできた。

少し息が上がっている。

急いで来たのが分かる。

そして――

止まる。

全裸の竹助。

全裸のカイシン。

シエル。

沈黙。

セリアーナ

「きゃあああああ!!」

フィオナ

「服を着ろ!!」

カイシンが慌てて隠す。

「すまぬ!」

竹助は、動かない。

「問題ない」

セリアーナ・フィオナ・シエル

「問題あるわ!!」

混乱の中。

カイシンがふと浴槽を見る。

空。

湯気だけ。

沈黙。

カイシン

「……ワシの温泉が」

竹助

「すまない」

「解毒のためだ」

カイシンは腕を組む。

考える。

しばらく。

そして。

「……分からぬ」

一拍。

「だが」

深く頷く。

「筋肉じゃな」

セリアーナ

「納得しないでください!!」

その隙に。

シエルが動く。

逃げる。

だが。

竹助の方が速い。

一瞬で距離を詰める。

肩を掴む。

動けない。

シエル

「速……」

竹助

「逃げるな」

シエル

「……殺さないの?」

竹助

「殺さない」

一拍。

「筋肉が泣く」

沈黙。

シエルは竹助を見上げる。

やがて。

小さく息を吐いた。

「……変なやつ」

ナイフを落とす。

カラン、と音が響く。

「降参」

フィオナが剣を下ろす。

セリアーナがその場にへたり込む。

カイシンが頷いた。

「面白い」

こうして。

暗殺者シエルは捕らえられた。

そして――

彼女の背後にいる存在。

ロゼッタ。

その名が、次の戦いを呼ぶことになる。

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