表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/8

第4話 筋肉は罠を無視する

ロウゼルを出て、数日。

街道は次第に細くなり、やがて山道へと変わっていた。

木々が生い茂り、風が葉を揺らす音だけが静かに響いている。

そんな中、竹助たちは新たな任務の最中にあった。

――女盗賊ロゼッタの討伐。

街道を荒らす盗賊団。

行き交う商人を襲い、物資を奪い続けている存在。

その拠点は――山奥。

フィオナは足を止め、地図を広げた。

「この先だ」

視線は鋭い。

「山に入れば、やつらの縄張りに入る」

セリアーナは思わず周囲を見渡した。

木々の隙間。

岩陰。

どこからでも襲われそうな気配がある。

「盗賊団……ですか」

少し声が硬い。

「やっぱり他の方も連れてきた方がよかったのでは……?」

その言葉を、フィオナが即座に断ち切った。

「ダメだ」

迷いのない声。

「大人数では目立つ」

「だからこその少数精鋭だ」

セリアーナは「うっ」と言葉に詰まる。

確かに、とも思うが、不安は消えない。

そんな空気を和らげるように、カイシンが穏やかに頷いた。

「うむ。強敵じゃが、この面子なら何とかなるじゃろ」

その言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。

だがカイシンは、そのまま話題を変えるように続けた。

「ところでな」

「この辺りはのう」

「温泉の源泉が流れておる」

一瞬。

空気が変わった。

セリアーナの目がぱっと輝く。

「温泉!?」

「さすがカイシン様! 博識ですね!」

カイシンは満足げに笑う。

「ほっほっほ」

顎を撫でながら、どこか懐かしそうに言った。

「この先にある温泉宿の露天風呂に入ったことがあっての」

一拍。

「景色は抜群」

「その湯は傷を癒し、美肌効果もあるという」

フィオナの視線がわずかに動いた。

「ほう」

興味を引かれたようだ。

セリアーナはさらに食いつく。

「美肌効果ですか!?」

「それはぜひ入らないと……!」

竹助が静かに呟いた。

「温泉か」

一拍置いて。

「悪くない」

そして続ける。

「サウナはあるのか?」

カイシンが固まる。

「え?」

「さ、さうな?」

竹助は腕を組む。

「……サウナはこの世界にないのか」

セリアーナが首を傾げる。

「サウナって何ですか!?」

フィオナ

「知らん」

カイシン

「……分からぬ」

沈黙。

竹助は静かに頷いた。

「問題だな」

セリアーナ

「何がですか!?」

その頃。

山の上。

木々の影に紛れ、ひとりの少女が彼らを見下ろしていた。

銀髪。

小柄な体。

鋭い視線。

――シエル。

「……来た」

視線は冷静だ。

竹助。

王国騎士フィオナ。

大賢者カイシン。

補助神官。

「面倒な面子」

脳裏に蘇る声。

――始末しろ。

ロゼッタの命令。

シエルは小さく息を吐いた。

「……仕方ない」

ナイフを指で回す。

そして。

静かに仕掛けた。

山道。

穏やかな空気が、一瞬で変わる。

ゴゴゴゴゴ……

低い音。

地面ではない。

上だ。

フィオナが反射的に顔を上げる。

「――上だ!」

次の瞬間。

岩が落ちてきた。

いや。

崩れてきた。

大量の岩石が、まるで滝のように降り注ぐ。

セリアーナ

「きゃあああ!?」

反応するより早く。

竹助が前に出ていた。

拳を握る。

空気がわずかに震える。

そして――

連打。

ドドドドドドド!!

拳が空を裂く。

衝撃が連続する。

岩が砕ける。

粉々に。

形を失い。

空中で霧散する。

一瞬後。

何も残らなかった。

ただの空気。

静寂。

竹助が振り返る。

「怪我はないか」

フィオナが言葉を失い、わずかに目を見開く。

「あ、あぁ……」

一拍。

「礼を言う」

セリアーナ

「さすがです……!」

だが、それで終わらない。

次の瞬間。

地面が崩れた。

足場が消える。

竹助の体が沈む。

落とし穴。

そのまま――落ちる。

はずだった。

だが。

竹助の足が、空中で止まった。

崩れた土を踏み、蹴る。

一歩。

二歩。

三歩。

まるで地面があるかのように。

そのまま歩いて戻ってくる。

セリアーナ

「今ひっかかりましたよね!?」

竹助

「問題ない」

フィオナが呟く。

「……ありえん」

カイシンが腕を組む。

「……分からぬ」

一拍。

「だが筋肉じゃな」

セリアーナ

「もうそれで納得するんですか!?」

木の上。

シエルは無言だった。

(……無理)

トラップが通用しない。

常識が通じない。

「……直接やるしかない」

彼女は影のように姿を消した。

やがて。

山を抜ける。

視界が開ける。

その先に――

温泉宿があった。

木造の建物。

立ち上る湯気。

どこか懐かしい静けさ。

セリアーナが声を上げる。

「わぁ……!」

フィオナも小さく頷く。

「確かに……悪くない」

竹助は宿を見上げた。

「悪くない」

一拍。

「サウナはあるか?」

セリアーナ

「まだ言ってる!?」

カイシン

「……分からぬ」

こうして。

四人は温泉宿へと足を踏み入れた。

その夜。

暗殺者が動くことも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ