第29話 筋肉と誇りは理を越える
中央戦線。
そこは、もはや戦いではなかった。
ただ、理に蹂躙される領域。
メギストラが一歩進むたびに、空間が軋む。
魔力の密度が異常に高まり、呼吸すら重くなる。
その中心に、三人は立っていた。
フィオナ。シエル。セリアーナ。
「来る……!」
次の瞬間、見えない圧が叩きつけられる。
だが。
パキン――
セリアーナの結界が、それを受け止めた。
「はぁ……っ、まだ……いけます……!」
震える声。
それでも、魔力を絞り出す。
しかし。
ドンッ――
結界が砕ける。
「――張り直します!」
即座に再展開。
その隙を、メギストラは逃さない。
圧が収束する。
押し潰す力。
「――来るよ」
シエルが動く。
セリアーナごと抱え、一瞬で位置をずらす。
直後。
ドォンッ!!
先ほどまでいた場所が、抉り取られる。
「……ほんと、化物」
シエルが吐き捨てる。
止まらない。
移動。回避。再配置。
その間に。
フィオナが剣を振るう。
魔力を纏った斬撃が、遠距離から叩き込まれる。
ドォンッ!!
だが。
効かない。
「……っ」
それでも、止めない。
削る。繋ぐ。耐える。
セリアーナは、何度も結界を張り直す。
一度。
二度。
三度。
そのすべてが、砕かれる。
それでも。
「……守ります……!」
指先が震え、視界が滲んでも。
結界は、消えない。
メギストラが、静かに言う。
「非効率だな」
「壊れると分かっている防御を、繰り返す」
一歩、踏み出す。
「合理性に欠ける」
圧が、さらに増す。
限界が近づく。
その時。
シエルが、ぽつりと呟いた。
「ねぇ……」
「離れた場所にも、結界って張れる?」
セリアーナが目を見開く。
「え……?」
フィオナが、短く言う。
「……やるしかないか」
そして。
鎧を外した。
胸当てが落ちる。
肩当てが転がる。
「え!?フィオナさん!?」
「羞恥心など――とっくに捨てている」
一歩、踏み出す。
「これで、身体が軽くなったな」
短い作戦。
言葉は少ない。
だが、十分だった。
■反撃
セリアーナが結界を張る。
ドンッ!!
衝撃。
結界が揺れる。
その瞬間。
左右に、影が走る。
メギストラの視線が動く。
同時攻撃。
ドォンッ!!
片方を捉える。
だが。
結界の中にいるのは、シエル。
「……なに?」
もう片方。
破壊。
そこにあったのは――鎧。
「囮……!」
理解した瞬間。
背後。
シエルのナイフが、深く刺さる。
「毒、入れた」
さらに足を崩す。
バランスが、崩れる。
「なに……!?」
その瞬間。
前方から。
フィオナが、踏み込む。
「――これが、騎士だ!!」
ドォォンッ!!!!
会心の一撃。
直撃。
メギストラの身体が、吹き飛ぶ。
地面に叩きつけられる。
沈黙。
動かない。
■勝利
シエルが、その場に座り込む。
「……もう、無理」
セリアーナも膝をつく。
「私も……です……」
フィオナも剣に体を預ける。
「く……さすがに疲れたな」
全員、満身創痍。
それでも。
勝った。
三人で、掴んだ勝利。
その時。
シエルが、ふらりと立ち上がる。
ゆっくりと。
倒れているメギストラの元へ歩く。
そして。
躊躇なく――
ナイフを、突き刺した。
ドスッ。
「……え?」
セリアーナが目を丸くする。
「え!?」
フィオナも、思わず声を上げた。
シエルは、何でもないように言う。
「だって、もう戦えないし」
一拍。
「立ち上がられたら、面倒」
沈黙。
そして。
セリアーナとフィオナが、顔を見合わせる。
――笑った。
緊張が、ほどける。
シエルが、眉をひそめる。
「……なんだよ」
戦場の一角に、ほんの一瞬。
静かな空気が戻っていた。




