第28話 激突、筋肉と完成と鍛錬
戦場の最奥。
喧騒は遠く、代わりに異様な静寂が満ちていた。
竹助内人と、ゼルアーク。
二人の間にあるのは、距離だけではない。
思想。
完成と鍛錬。
それらすべてが、空間に張り詰めていた。
「……行くぞ」
先に動いたのは、ゼルアークだった。
地を蹴る。
その瞬間、姿が消える。
速い。
次の瞬間には、竹助の懐に入り込んでいる。
拳。
ドォンッ!!
空気が爆ぜる。
だが。
竹助は、動かない。
受ける。
ただそれだけで、衝撃が拡散する。
ゼルアークの目が、細くなる。
(止めた……?)
即座に次の動きへ移行。
蹴り。
回転。
さらに魔力が絡む。
肉体。
速度。
魔法。
すべてを融合させた、総合体術。
間断なく、攻撃が叩き込まれる。
ドンッ!!
ガキンッ!!
ドォンッ!!
衝撃が連続する。
だが。
竹助は、崩れない。
避けない。
受ける。
受けて――
踏み込む。
ドンッ!!
一撃。
ゼルアークの身体が、わずかに揺れる。
(重い……!)
歯を食いしばる。
「まだだ!」
さらに速度を上げる。
魔力が加速し、残像が生まれる。
上。
横。
背後。
同時に攻撃。
だが。
竹助の筋肉が、応える。
すべてを、受け止める。
そして。
一歩。
それだけで、距離が詰まる。
拳。
ドォォンッ!!
直撃。
ゼルアークの身体が吹き飛び、地面を削るように転がる。
それでも、立つ。
息は荒い。
だが、目は死んでいない。
「……さすがだ」
低く呟く。
「だが……まだ足りん」
最後の力を振り絞る。
魔力を、肉体へ。
すべてを一点に集中させる。
踏み込む。
全力の一撃。
ドォンッ!!!!
だが。
止まる。
竹助の掌が、それを受け止めていた。
微動だにしない。
沈黙。
そして。
竹助が、静かに言う。
「いい筋肉だ」
一拍。
「だが――まだ、届かない」
そのまま。
押す。
ドンッ。
それだけで。
ゼルアークの身体が、崩れた。
膝が落ちる。
「……くそ……」
息を吐く。
「やはり……貴様は……許せぬ……」
そのまま、倒れる。
完全に、沈黙。
静寂。
その中で。
魔王オーマが、ゆっくりと歩み寄る。
倒れたゼルアークを、静かに抱き上げる。
乱暴さはない。
ただ、静かに。
「……よく戦った」
短く呟くと、その場から離れ、安全な位置へと運ぶ。
そして。
再び、向き直る。
竹助へ。
「筋肉の勇者よ」
一歩。
「戦いを、間近で見させてもらった」
視線が、交わる。
「ゼルアークでも、相手にならぬとはな」
竹助は、わずかに頷く。
「そいつもまた、良い筋肉だった」
魔王の目が、わずかに揺れる。
「……そうか」
一拍。
「敵を下に見ないのだな」
そして。
一歩、踏み出す。
「では――次は私の番だ」
空気が、変わる。
竹助の筋肉が、わずかに膨らむ。
「……俺の筋肉が、呼応している」
一歩、前へ。
「お前もまた――筋肉の求道者か」
魔王オーマは、静かに答えた。
「お前が、そうさせたのだ」
沈黙。
二人の間にある空気が、歪む。
巨大な存在同士が、対峙している。
理を超えた領域。
筋肉と筋肉。
その頂点同士の戦いが――
今、始まろうとしていた。




