9 目覚めたらビックリ!
「目覚めたらビックリ…何てところじゃ無えよ、気が付いたら女の子になってたって、どーゆう事だよおーっ!」
オレはあの日…ベッドから起き上がり何度目かの絶叫をした。
「仕方無いでしょう、なってしまったモノは…幾ら叫ぼうと状況は変わら無いわよ」
恵美姉ちゃんが少し憐れみを含んではいるがいい加減に呆れた様に言う。
オレが流星雨の夜から意識を失って入院してから3か月、意識を取り戻して一か月ほぼ毎日の様に恵美姉ちゃんはオレの見舞いと世話をするために病室に来てくれて居る。
オレは無地のパジャマに入院中ずっと髪を切って無かったので襟足に届きそうな位髪が長く伸びて来ていた。
「恵美姉ちゃん、髪がうっとおしいよ切ってくれない」
オレが伸びてきた前髪をいじりながら言うと。
「え~っ女の子は髪を伸ばしてた方が可愛いわよ、もっと伸びたら三つ編みだとかシニヨンだとかにして見ようか」
恵美姉ちゃんはオレの髪を触りながら言う。
「だからオレはまだ自分が女だって認め無いから!」
オレは髪を触る恵美姉ちゃんの手を払って叫ぶ。
すると恵美姉ちゃんはオレの顔を覗き込んで来て言う。
「真は私とお母さんに似てかなりの美少女になるわよ、そろそろ観念したら…それに私としては弟では無く妹が出来て良かったと思ってるのよ」
そう言って恵美姉ちゃんはケラケラと笑う。
オレは恵美姉ちゃんのその言い草に不貞腐れた。
オレの家は父子家庭だ、母親はオレが1歳になる前に病気で亡くなって居る、父と姉弟の三人家族だ。
父は商社のソコソコのポストにいて、先日昇進して本社勤務となり東京に引っ越して来たばかりなのに、オレが原因不明の意識不明になり、しかも性転換何て前代未聞の事を起こしため、姉ちゃんが仕事を休めない父の代わりに仕事を休職して日々オレの面倒を見てくれて居る。
「真もう直ぐ今週の定期検査があるんでしょ、準備は良いの?」
恵美姉ちゃんになるべく考え無い様にしていた事を言われて、たちまちオレの感情が駄々下がりする。
ただでさえ親しかった友達と別れる事になり、寂しい思いをしていた時に意識不明になり、目覚めたら男の子から女の子の身体に性転換してた何て…そんな轟天動地天衣無双な出来事のためにオレのメンタルはグチャグチャだった。
「わ…分かっているよ…」
オレは少し不貞腐れて言う。
それからしばらくしてオレの病室のドアが開かれ数人の看護師とソレを上回る数の白衣を着た人々がドヤドヤと入って来た。
オレは恐怖にも似た感情がたち起こり、顔を引きつらせる。
「真くん、さぁ検査に行きましょう、車椅子に乗って」
オレの面倒を良く見てくれて顔を見知った若い女性の看護師さんが言う。
オレが不承不承にベッドから降りようとした時。
「高橋さん、患者を“くん”呼びするのはどうかね、患者は完全に女性化しているのだから」
白衣を着た人々の中で一番年重の男が言うと。
「すみません…さあ真ちゃん行きましょう」
顔見知りの看護師さんが恐縮して言い直し、車椅子をオレに差し出す。
(高橋さんがオレを“くん”呼びするのはオレが自分の事を女の子扱いして“ちゃん”呼びされる事に抵抗がある事を知ってるからなのに…)
そう想いながらオレは車椅子に乗る。
それからオレは長い廊下を車椅子に乗せられて運ばれ、いろんな検査機器や器具がある検査室に連れて行かれる。
検査室にある特殊な検査代にオレが座ると。
「さあそれじやパジャマを脱いで」
検査室に集まって居る沢山の白衣の人達の一人にそう言われる。
オレは屈辱と諦念が混じった表情で嫌々ながらにパジャマの上を脱いだ。
するとオレの胸には意識不明になる前には無かったモノが露わになる、それは今だにオレが受け入れ難いモノだった。
未だ小さいながら二つに膨らんで盛り上がった胸と、先端に以前と違う感じのやや突出した乳首があった。
「十二〜三才の乳房と云う処でしょうか、まぁ年相応と云う処ですね」
「でも四ヶ月前は普通の男児だったのでしょう、その短期間でこれ程とは、テストステロンの過剰分泌なのか?」
「意識不明時の変態期にどの様な体内変化があったのか凄く興味深ねぇ?」
「CTスキャンのデータは有るのかい?」
「CTスキャンのデータによると…」
「何!性腺がウオルフ管とミュラー管に再構成されただって⁉」
「その時のゲノムサンプルは無いのか…」
「iPs細胞じゃあるまいし、分化前の細胞の状態になったと言うのかね?」
「何故こんな事に…性別分化後にまたリセットする何て」
「アメリカの論文では四ヶ月前の流星群が地上に降らせた強力な放射線が原因だと言ってますね」
白衣の人達は、オレの胸の膨らみに冷徹な視線で観察しながら、思い思いの事を喧々諤々と言い合って居る。
オレが以前と変わってしまって、今は困惑して居る部位を、物珍し気に観察する沢山の人に晒し、オレはただひたすらに羞恥と屈辱に耐えるしか無かった。
それから白衣の人達がオレの胸に聴診器をあてたり脈を測ったりして診察をする。
その後オレの乳房のサイズをメジャーで測ったり前後左右から写真やビデオを撮ったりされる。
「それじゃ次は、下も脱いで足を診察台の両脇にある保持器に乗せて、股を開いて見せて」
オレは羞恥で唇を噛むも…諦念の感を深めてパジャマのズボンと下着を取って、保持器に足を乗せて股を開く。
最初は思わず股間を手の平で隠そうとするが。
「ああダメダメ、隠さないでもっと足を開いて良く見える様にして」
白衣の男達に命じられて、不承不承に手を退けて足を開く。
ソコはオレの身体の中で一番変化して、最も困惑し受け入れ難いと思っている部位なのだが、ソコを多数の白衣の人達に晒し観察された。
「外見上は完全に女性器だな、内部はどうなって居る?」
「膣鏡やコルポスコープによる目視での観察では、膣内壁も子宮頸も完全に女性器でしたし」
若い白衣の人がそう言う。
オレはその若い白衣の人を見て、以前された嫌な検査を思い出す。
オレの変わってしまったアソコに、その若い白衣の人にアヒルの口の様な器具を差し込まれ、オレは言い様の無い異物感と身体の内部に外気が入って来る感じに恐れさえ覚えた。
つまりオレさえ未だ触れないで居るアソコから、身体の中の奥を覗き見られたのだ。
その上白く細い棒状の物までが、アソコから身体の奥に挿入されて超音波で検査された。
「経膣プロープによる超音波探査やCTスキャン等の検査で、子宮も卵巣も完全に揃っていますね」
その若い白衣の人はあの日の診断結果を淡々と読み上げて居た。
「しかも意識が戻ってから直ぐに生理まで始まったんだろう、将来的には受胎妊娠も可能だろうな」
中年の白衣の人が興味深そうに言う。
「人間の男性から受胎可能な女性に変化…まさに医学…いや生物学の学会もひっくり返るな」
「だけど今の時勢はポリコレだのジェンダーだのと色々と喧しいから、人権に配慮して公表は差し控えた方が良いだろう」
白衣の人達の議論がオレを置いてけぼりにして盛り上がって居る。
それからオレは血液検査、尿検査、CTスキャン、MRI、等々の検査フルコースを受けグッタリして自分の病室に帰って来た。
「ご苦労さま、大丈夫だった」
恵美姉ちゃんが労る様にオレを迎えてくれるが、オレは返事をする気力も無くベッドに這い上がって寝た。
それからオレはぼーとした様に病室の窓から外を眺めていると。
「今日の夕方に父さんが見舞いに来てくれるって」
「……」
恵美姉ちゃんが落ち込んでるオレを慰めようとして居るのが分かるが、オレは返事さえ返す気力が無かった。
「あっ真、近くのコンビニに新しいスイーツが入ったんだって、コッソリと買って来て上げるね」
オレの沈黙に耐えきれないかの様に、恵美姉ちゃんはそそくさと病室を出て行った。
オレはこの週一で有る検査の後は、何時も酷く落ち込む。
だってそうだろう、オレが自分に起きている受け入れ難く目を逸らして居たい事実を沢山の人に晒し、更に恥ずかしかったり屈辱的だったりする検査まで受けねばならない何て、オレのメンタルはボロボロどころかグチャグチャだよ。
オレは落ち込んだ気持ちを、何とか紛らわそうと病室を出て散歩に出る事にした。
性別が変わった以外オレは至って健康体だったので、退屈凌ぎに病院内をよく徘徊して散歩していたのだ。
病院の隣に小さな公園があり、ソコは一応病院の敷地内で入院患者達の憩いの場となっていた。
オレはそこに行こうとして、病院の駐車場に向かうスロープになって居る道路を横切ろうとした時。
「危ない!」と声がかかった
オレが振り向くと、搬入用の製薬会社のバンが無人でスロープを走って来る。
どうやらサイドブレーキが甘かったのか、そこそこの勢いでオレに向かって来るが、避けて避けられ無いほどでは無かったのだが…。
その時のオレは何だか避けるのが面倒臭く思えた。
オレは検査で落ち込んで居たし、自分のコレからに付いても暗中模索だったから。
このまま立ち尽くしていれば、毎回検査で覚える羞恥と屈辱、コレから女の子として生きていく不安などの懊悩が無くなる様な気がした。
バンがオレに向かって、後少しと云う処まで迫った時、グイッとオレの手が引かれてバンを躱した。
「真!何ぼーとしてるの、もうちょっとで大怪我か下手したら死んでたのよ」
恵美姉ちゃんがオレを抱き寄せて叫ぶ。
「…その方が良かったかもね……」
オレは焦点の合わない目でそう呟いた。
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その夜、父が面会時間外をおしてオレに会いに来た。
恵美姉ちゃんが今日有った事を父に伝えたらしい。
父はオレの今の境遇は辛いかと聞き、オレは頷いた。
すると父は一通の封筒をオレに差し出した。
「コレはお前がもう少し大きくなってから見せようと思っていたものだ……母さんからお前に宛てた手紙で、亡くなる一週間前に書かれたものだ」
それから父は母親がオレを妊娠中に病気が見つかったが、妊娠中のオレに病気の治療の悪影響が有るのを嫌って治療を拒否した事を教えてくれた。
オレを無事出産後に母親の体力の回復を待って治療を開始したが。
「母さんは治療に強い薬を使うため生まれたお前に自分の母乳を飲ませてやれない事を、慈しんでやれない事を、とても残念がっていたよ」父は昔を思い出す様に言う。
母親はかなりキツイ治療にも耐えたが…だが病は予想以上に進行していて結局間に合わずに母親は死亡してしまった。
文字通り母親は自分の命を賭してオレを産んだのだと父は言った。
それからその手紙をオレに渡すと父は帰って行った。
オレはその夜、殆んど記憶に無い母親の手紙を読んだ。
母親はもうオレを守ってやれない事を詫び、成長を見守れない事を悲しみ、年老いた後にオレの子供を抱け無い事を寂しいと切々と書かれていて、最後にどんな辛い事があっても生きて次代に命を繋げて欲しいと…灯々代々と命を繋いで行くのが命有る者のつとめだと締め括られていた。
オレは母親の事は殆んど覚えて居ない、顔も写真でしか知らない、だけど母親の遺した手紙の言葉は、オレの中に沁み入って母親の手紙の文字がポタリポタリと滲んでいく。
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次の日からオレの頭の中に“灯々代々”と言う言葉と”慈しんでやれなかった“と言う母親の言葉が何度も思い出され、オレの中に何かモヤモヤとした想いとして居座るようになった。
数日後オレは病院の中をブラブラと散歩していた。
その日も入院生活にかなり退屈していたのでオレは日課の散歩で病院内を彷徨いていた。
オレは偶々(たまたま)よく知っている若い看護師さんが足早に行くのを見付けて、単なる好奇心で後を着けた。
その看護師さんが入って行った病棟は、今まで行った事の無い病棟で、そこにオレは足を踏み入れた。
その病棟は産婦人科の病棟だったらしく、お腹の大きな妊婦さんや、生まれたての赤ちゃんをトレイの様な物で運ぶ看護師さんが行き交っていた。
オレの外見は殆んど女の子の様に見えるので、ほぼ女性ばかりのこの病棟内を特に咎められる事も無く散策して歩く。
そしてとある病室の前を通った時、病室の中から聞き慣れたあの若い看護師さんと他の人の話声が聞こえて来た。
オレはちょっと好奇心に駆られて、その病室のドアを少し開けて中を覗いた。
中にはオレが顔を見知って居る若い女の看護師の高橋さんと、ベッドに横になって居るこれも若い女の人に、着物を着た中年の女の人三人が居た。
看護師の高橋さんがベッド横の赤ちゃんを運ぶトレイから、まだ生まれたばかりの様な赤ちゃんを抱き上げて、ベッドの女の人に渡した。
ベッドの女の人は上体を起こして、さも大事そうに赤ちゃんを受け取る。
「私がママよ」
そう言って女の人は微笑む、その笑顔は感極待って何処か切なさすら感じられる笑顔だった。
「私がお婆ちゃんよ」
着物の中年の女の人が、これまた笑顔で赤ちゃんを見て笑って居た。
「それじや赤ちゃんに母乳をお願いします」
高橋さんがそう言うと。
「はい」
そう言ってベッドの女の人が着て居る物の前を開けて乳房を出した。
程なく赤ちゃんはその乳房に吸い付き、女の人は穏やかな微笑を浮かべて見守っている。
オレは思わず自分の胸に手をやり、男の子の時には無かった膨らみを触る。
(この膨らみは…あんな慈愛のために有るのか)
オレは自分の胸の膨らみを触りつつそう思った。
その母子が授乳する姿は古の絵画の様で、正に聖母子像の如く慈しみに満ちたその神聖な佇まいに、オレは母親の言った“慈しんでやれ無かった”と言うあの言葉の意味がどう言う事かと理解した。
オレの母親…いや母さんはオレにこうしたかったんだ…オレを抱き慈しんで乳を自分の乳房から飲ませる、。
それをオレに出来無かった母さんは…何と無念で寂しい事だったのだろう。
着物を着た中年の女の人も、授乳してる若い女の人を見ながら慈母の如く笑っている。
この人もかつて授乳してる女の人に同じ様にして乳を与え育てたのだろう。
着物を着た中年の女の人は授乳してる女の人に言い聞かせる様に話出した。
「赤ちゃんに母乳を飲ませるって母親の特権何だよね…男だって哺乳瓶で授乳させる事は出来るけど、自分の血で出来た文字通り自分の命を分け与える様にして乳を飲ませられるのは母親だけなんだよね、私達女はそうやって灯々代々と命を紡いで来たんだよ…」
その言葉を聞いた時、オレの中でモヤモヤとして居た物が、カチッと収まった様な気がした……そしてオレはいつの間にか目から熱い雫を流していた。
それからオレは自分の病室に戻って、パジャマも下着も脱いで裸になった…ソレからその自分の裸を鏡に写して見る。
自分が性転換したと知ってから一度もまともに見た事の無い自分の変容した裸を観察する。
オレは自分の身体の感触を確かめるように、掌で触って確かめる。
以前より細くなった頸、丸くなった肩、細やかながら膨らんで居る胸は確かに柔らかいが、ちょっと強く押すと柔らかさの奥に硬いコリッとした物が感じられ痛みが走った。
それからその先端の乳首は敏感で変に触るとピリッとした痛みがあるくらいだ。
更にお腹や腰周りは以前よりなだらかな曲線を描き、僅かながら女性らしさの片鱗が表れ出していた、そしてヘソの位置まで以前とは変わっている様だった。
それから…いよいよ用を足す時以外触れる事すら忌避していた処…股間…ソコにもオレは恐る々掌を這わした。
ソコは思春期DT男子が等しく見る事も触る事も出来ない聖域で、憧憬と切望が複雑に入り混じった妄想がDT男子の頭に渦巻き、DT男子等の知り得ぬ深淵にして秘密の花園がある処だと…オレもDT男子の時はそう思っていた。
触った最初の感触は“柔らかい”だった。
だが良く確かめて行くと…男子のあの物の様な単純な物では無く…複雑怪奇な形状を中に秘めていて、非常に敏感だった。
「あっ…痛っ…い…」
一際敏感な処を探りあて思わず声が漏れる。
やがてソコ以外もイロイロ探って行く内に、男の子の時とはちょっと違うむず痒い様な昂ぶりまで覚えた。
一頻り自分の身体を鏡で観察し、掌で感触を確かめて…ようやくオレは自分が以前とは違う女性器を持った性別になったのだと理解した。
つまりオレは自分が女である事をようやく受け入れ始めたのだ…。
コレからオレは自分の性自認が女だと思う様にして生きて行こうと決心する。
そう…あの赤ちゃんに乳を与て慈しんでいた女の人と同じ存在に、オレはなったんだと云う事を…自覚しょう。
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オレはショピングモールのフードコートで思い出した事を掻い摘んで明里に話した。
「ふ~んそっかぁ、真琴ちゃんも大変だったんだねぇ」
明里は感慨深気に言う、それからニヤっと笑って聞いて来た。
「赤ちゃんを慈しむって…誰の赤ちゃんかなぁ…俊くんかな遊馬くんかな?」
オレは再び口にして居る物を吹き出した。




