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15 夏の終わりを告げる花火大会

「うん、かわいい」

オレは姿見の前でクルリと一回転して見た。

姿見の中にはオレの浴衣姿が写って居る。

浴衣の柄は花々の間をトンボの様な昆虫が飛んでる柄で、そのトンボの様な昆虫は薄羽蜉蝣(うすばかげろう)と云うちょっと変わった柄なのだ。

この柄の生地を見付けた時、オレはコレを浴衣にして今日という日に着ようと思って居たのだ。

今日は八月三十日…つまり明後日には夏休みが終わる。

夏が終わる時オレは帰らなければならない。

この三十日に地元の神社で縁日と花火大会があるので、俊と遊馬とで行く約束をしている。

つまり俊と遊馬とで遊べるのは今日の花火大会が最後になるのだ。

夏休みが終わるとオレは薄羽蜉蝣(うすばかげろう)の様に俊と遊馬の前から儚く消えるつもりだ。

(オレは俊と遊馬にとっての思春期の憧憬を写した蜃気楼、儚く消える青春の幻影…て、何だか銀河宇宙を旅するD-51に乗った黒いファーコートと帽子を被った女の人見たいだな…)

等と思って悦に入りながら、姿見に写る自分の姿を見惚れて居ると。

「神社の花火大会は夜七時からでしょう、そろそろ出た方が良いじゃあないの」

恵美姉ぇが声を掛けてくれた。

「うん、そうだね、そうするよ」

(くだん)の神社は県中央にある大きな湖の(ほとり)にあるので近くまではバスで行き、後は歩きなので下駄では無くクロッカスを履く。

(ちょっと風情が無いけど、そこそこ歩くから仕方無いよなぁ)

等と思いながらマンションを出る。

神社に向かうバスが止まるバス停に行くと、俊はTシャツと短パン遊馬は作務衣と云う姿でもう来ていた。

「おぉ~っ」「あぁ、真琴ぉなかなか色っぽいぜ」

等と俊と遊馬はオレの浴衣姿に感嘆の声を上げる。

バスが着くと中はけっこう混んでいて、大抵の人が浴衣姿だったので、神社に向かう人ばかりなのだろう。

神社のある街に着くと、門々に提灯がぶら下げられていて、何だかお祭りの高揚感が盛り上がって来る。

神社に向かう参道には屋台が出て居て、なかなかの混雑ぶりだ。

オレと俊と遊馬は三人で(そぞ)ろ歩く様に屋台を見て回った。

「ココの祭りに来ると夏休みも終わりだなぁと言う感じがするなぁ」

遊馬が感慨深気に言うと。

「三十日にやる祭りだもんなあ、明後日には新学期かぁ」

俊も逝く夏を惜しむ様にやや淋しげに言う。

オレは少し複雑な表情をして二人を見た。

それからオレ達は先ず焼きそばやたこ焼き、最近ではすっかり定番になった屋台のケバブ等を三人でシェアしあいながら食べ歩き。

遊馬が射的でちょっとカワイイヌイグルミを取り、俊はスーパーボールすくいで黙々と器一杯にスーパーボールを掬ったり、型抜きではオレがキレイに型を抜いて店主のオッサンを驚かせたりなどと屋台を堪能した。

そう…かつてオレ達男子三人でこの神社のこの祭りで屋台を回った時の様に…一時オレ達は三年間離れて居た時を埋める様に(はしゃ)ぎ回った。

ただ時折オレに声を掛けて来るナンパ野郎が居てソレを俊と遊馬が追い払う、その時オレ達は男子三人では無くて中に一人女の子が混ざっている事を思い出させられる。

一頻り遊んだ後オレ達三人は、オレ達だけが知ってる秘密の花火見物場所に行く事になった。

先ず神社にお参りして境内裏にある湖上から打ち上げる花火が見られる高台に続く道を歩く。

その道の暗く細く人っ子一人居ない道を三人で歩いていると。

「真琴は…明日帰るのか?」

ポツリと俊が聞いて来た。

「うん…」

短く答えると。

「また来年…とは行かないのか、引っ越すんだもんなぁ」

遊馬も何処か淋しげに言う。

オレは曖昧に笑った。

細い道を抜けて湖畔に面したやや広い高台に着く。

ドーン、着いて直ぐに最初の花火が上がり。

ドドーーン、ドパパパーン、と次々花火が上がり出した。

夏の終わりを告げる花火大会…が始まった。

花火が上がるその度高台の上は一瞬明るく照らし出される。

オレ達はただ黙って花火を見上げて居ると。

「真琴はこの夏どうしてボクや遊馬に会いに来たんだよ……」

俊がひとりごとの様に言う。

「ワイ達もう三人で会う事は出来ないのかよぉ」

遊馬も誰とは無しの様に言った。

二人の言葉を聞いて、オレは(しば)し黙った後で意を決する様に口を開いた。

「オレは俊と遊馬に聞いてもらいたい事があるんだ…」

俊と遊馬はオレの方に向いた。

「オレはこんな風に女の子に成っちまっただろ」

オレがそう言うと、俊と遊馬はちょっと苦笑気味に笑いながら頷く。

「だから…もう前見たいに男同士の友達付き合いは出来ないだろう」

オレがそう言うと遊馬は強く頭を横に振り、俊は何か言おうとする。

オレは何か言おうとする俊を手で制して続ける

「でもその代わり…新たな関係を俊と遊馬とに作りたいんだ」

オレの言葉に俊と遊馬がやや困惑気味の顔になる。

「つまりオレは…俊と遊馬のどちらかと…イヤ良ければ二人共と……」

オレは一旦言葉を区切り、俊と遊馬は固唾を呑んでオレの次の言葉を待った。

「SEXをして赤ちゃんを産みたいんだ!」

ドドーーン!

特大のスターマインがオレの背後の夜空に爆ぜる。

オレの言葉に二人は表情を無くしたようにポカーンとしてた。

「「あ…え…っ⁉」」

二人は顎をガクガクさせて言葉が出ないようだ、だからオレは言葉を続けた。

「オレは三年前に突然女になっちまった時…正直なった当初はオレ凄く悩んだんだよ…それこそもう死んじゃおうかとも思う程」

夜空で花火が爆ぜてまた辺りが一瞬明るくなる。

オレの言葉を花火の音で聞き逃がさない様に、俊と遊馬がしっかりと聞き耳を向けて来る。

「そんな時…あるお母さんが赤ちゃんに授乳してる姿見たんだ…オレはその姿が慈愛に満ちて神々しいと思った…そして」

花火の一瞬の明るさの中にオレが微笑んで居るのが浮かび上がる。

オレのその表情を見て、二人もやや相好を崩しながら次の言葉を待った。

「オレは女になったという事は…その神々しい姿にオレもなれる事が出来るんだと思ったんだ」

オレのその言葉を俊と遊馬はどう捉えて良いのか分からず、再び困惑気味の顔になる。

「そう思った時オレは自分が女になった事を嬉しく思えて…そして女になった事を受け入れられたんだよ」

オレは喜色満面の笑顔で俊と遊馬に向き合って言った。

また一際大きな花火が爆ぜて辺りが明るなる。

「女子は…イヤ、女の人は毎月憂鬱になる月の物があり、しかも出産はかなりの苦痛が伴い時には自分の生命にも関わる事があるのにも関わらず、女の人は生命を産み出そうとする、それは義務…イヤ、女の人に許された崇高な特権だよね」

オレがそう言うと、俊と遊馬は神妙な表情になった。

遠くから花火を見物している人々の歓声が聞こえて来る。

「オレにも毎月…月の物が来るんだ、その時オレはあの神々しい姿になれる準備がオレの身体にも出来ているんだと思う」

オレは自分の身体を抱きしめる様にして少し高揚したような表情で続ける。

「だから…オレも何時か自分のお腹の中に命を宿し、それを自分の血と肉を分け与えて育み、そしてこの世に産み出すつもりだ…」

オレは自分の浴衣の帯の下辺りを愛おし気に撫ぜながら言う。

俊と遊馬も釣られてオレの下腹辺りを見て、ちょっと赤くなる。

「モチロン産んだ後も自分の血を元にした母乳で赤ちゃんを育てる…」

今度は浴衣の自分の乳房を持ち上げて愛おし気に撫ぜる。

俊と遊馬はまた釣られてオレの胸を見て、更に赤くなる。

「つまり…オレもいずれは女の人に許されたその特権を、行使したいと思っている」

花火の一瞬の明かりの中でオレは、自分の胸元に掌を置きながら誇らしげに微笑みながら言う。

オレの言葉に俊と遊馬はどう応えたら良いのか分からないと言った複雑な表情になった。

「その…真琴は…赤ちゃんを産みたいとか言ってたケド、なぜボク達なんだ?」

俊が言い難そうに聞いて来る。

「実はオレ…男が怖いんだ」

オレの答えにまた俊と遊馬は困惑の表情を深くする。

「オレは中学の時、当然ながら女生徒として学校に行ってたんだよ…それでオレってこの通り美少女だろ、男子達からナンパされたり、ちょっとセクハラめいたイタズラをされたりとイロイロちょかいを出されてね」

オレはちょっと(しな)を作って俊と遊馬を見ながら言うと。

俊は呆れた様に苦笑し、遊馬はちょっとだらし無く笑って身を乗り出して来る。

「最初の内は…オレも元男で身に覚えも有るから大目に見てたんだけど、強引に交際を迫って来たりストーカーまがいに付きまとって来る奴が出てきて、正直ウザイと思い出したんだ」

オレが苦笑しつつ肩を(すく)めて言うと。

俊と遊馬もヤレヤレといった感じに肩を(すく)める。

「それにオレ昔から合気道をやってただろう、だから大概の不届き者はそれで排除していたんだけど…ある時本物の変質者に襲われたんだ」

花火と花火の間の静寂と暮明(くらがり)が辺りに降り…オレは俯き加減になって声を低めて言う。

「夜に人気の無い公園で全裸でチン“ピーッ”を見せ付けてながら近付いて来る変質者に出会(でくわ)したんだ」

俊と遊馬が緊張した面持ちになる。

「ああ言う本当に可怪(おか)しい人に出会うと、排除するどころか(うろ)が立ってオレは何も出来なくなったんだ」

オレは下唇を噛みながら悔しげに言う。

「その時実感したよ、女にとっての貞操の危機とはどういう事かと…女性の身体と心を踏み躙る行為だと」

再び上がった花火の明かりに、オレの目に滲むものが反射する。

「幸い通行人が来て変質者は逃げて行ったのでオレは無事だったけど、それ以来男がちょっと怖くなってさ…学校でも男子に近づいたり話し掛けたり極力避ける様にしたので、オレはレズじゃあないのかと疑惑を持たれたくらいだよ」

オレは目に浮かんだ物を拭いつつ、(おど)けた様に言うと、俊と遊馬はやや沈痛な面持ちでオレを見た。

「実際オレは元男なので男に恋愛感情何て持てないだろうし、ましてや男が怖くなってしまったので…男とSEXをして命を宿す何て出来ないんじゃ無いのかと思ってたんだよ」

オレは花火を観てる高台の草地に腰を下ろして言うと、俊と遊馬もオレの両側に腰を下ろした。

「そんな時にオレはある物を見つけたんだ…俊に遊馬覚えてるか、あの秘密基地でオレ達チン“ピーッ”の見せ合いっこしたのを」

オレのその唐突な話に俊と遊馬は面食らった様な顔になる。

「あの時ケータイでお互いのチン“ピーッ”を写真を撮ったりしたよな、その時データが入った記録チップを見付けてパソコンで見て見たんだ、するとお前等のチン“ピーッ”の写真が出てきて、可笑しいやら懐かしいやらで笑っちゃたよ、でも同事にオレはお前等のチン“ピーッ”に怖さも嫌悪感も覚え無かったんだ」

オレは俊と遊馬の二人肩を引き寄せ言った。

「だからお前等とならオレはSEXが出来ると思ったんだ!」

「あっ…えっ…し、しかし…」

俊は顔を赤くして些か狼狽え言葉が出ないらしい。

「え~っ、でも良いのか…そのワイ達で…」

遊馬も顔を赤くしているが、満更(まんざら)でも無い様子だ。

「モチロン今直ぐじゃあ無いよ、オレは帰って来るから…お前等の処に帰って来るから、そうしたらオレといつかSEXする事を前提に、お付き合いをしょうぜ!」

オレは満面の笑みで言い放った。

ドパパパーンドーンドーンドパーーン

その時、花火大会のクライマックスに入り、夜空一面に幾つもの花火が咲き誇ったのだった。

********************

夏休みが終わって一週間が過ぎた。

朝のHR前の教室内には、あちこちで朝の挨拶や最近SNSに上がってる話題、それにサブスクで見たアニメの話等が話されていて、そこそこ賑やかしい。

ボクはそんな教室でケータイを見るでも無くボンヤリとしていると、明里が話掛けて来た。

「俊くん、なにボンヤリしているの」

「あっ、えっ…ボンヤリなんかして無いよ」

「そおかなぁ…さっき隣のクラスの遊馬くんも見て来たけど、アッチもなんかボンヤリしてたよ…もっとも時々ニマニマと気色悪い笑みをしてたけど」

ボクはそれを聞いて、アイツもかと思った。

「真琴ちゃん、三十一日に帰っちゃたんだって?」

「あっ…うん、そうらしいよ…ボクと遊馬で三十一日に真琴が泊めてもらってたお姉さんのマンションに行ったら、朝早くに出て行った後だったんだ…」

ボクはちょっと寂し気に笑って、教室の窓の外の校庭を見る。

校庭には、もう直ぐ授業開始のチャイムが鳴るので、朝練の運動部連中が急いで校舎に向かって来てるのが見えた。

校庭端の雑木林からはまだ蝉の鳴き声が聴こえて来て居る。

「ふ~ん、そっかぁ…真琴ちゃんが居なく無って俊くんは寂しいんだぁ」

明里は何か意味ありげな含み笑いをしながらボクをからかう様に言う。

「あ…いや…」

ボクは一瞬、反駁(はんばく)しょうとするが、それが図星だと自分でも分かって居たので黙った。

「それで真琴ちゃんとはもう会え無いのかなぁ…?」

やや疑問形を含んだ様な言い回しで明里が言うと。

「イヤ…アイツは帰って来ると…何時かオレ達の処に帰って来ると言って居たから…」

ボクは今度こそ反駁(はんばく)して言うと。

「ふ~ん、そかそか、真琴ちゃん早くまた来てくれるといいねえ」

明里は何やらニマニマしながら自分の席に戻って行った。

明里のその態度に何か変なものを感じつつ見送った。

程なくチャイムが鳴り担任の先生が教室に入って来てクラスメイト達は慌てて席に着く。

担任は教卓の上に出席簿を置くなり言った。

「今日はこのクラスに転校生が入るから」

担任が教室に招き入れた転校生を見てボクは驚いた。

「私は小鳥遊真琴と言います、皆さんよろしくお願いします」

可憐な美少女の転校生にクラス中がザワつく。

転校生の彼女はグルリと教室中を見回しボクを見付けると、親しげにそれでいて何処かイタズラが成功したかの如くのドヤ顔で微笑んだ。

********************

夏休み編…了

次回…新学期編…開始

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