13 女になったオレにも性欲はある
「ウウ~ン」
オレはベッドから起き上がり伸びをする。
寝間着としていたタンクトップとショーツだけの格好でオレはベッドから降りて窓のカーテンを開けると、丁度朝日が昇って来るところで遠くにスカイツリーが望む早朝の街並みが見える。
ココは東京都内のビジネスホテルで、俊が夏のコミケで知合いのサークルの手伝いをする事になり、オレと遊馬もそれに付いてきたのだ。
オレはユニットバスに入ると、パッパッとタンクトップとショーツを脱ぎ、昨夜の寝汗をザッとシャワーを浴びて流した。
ユニットバスから出ると、今日着ける下着と服をカバンから出す。
ショーツはビキニタイプのナイロン製で色は白、前見ごろ全面に薄いピンクの小さな花柄入っていて鼠径部辺りにレースのフリルがあしらわれていた。
ブラジャーはワイヤー入りの二分の一カップで、ショーツと同じ薄いピンクの花柄が前面にあしらわれている。
オレはそのショーツにスッと足を通して…病院で沢山の医者に検査観察された以外、未だそれ程衆目に曝されて居ないオレの乙女の秘所を隠す様に履く。
ブラは正式には前屈みになり、カップの中に乳房を落とし込む様にして着けるのだけど。
オレは面倒臭いので身体の前でブラのホックを付け、それからブラ全体をグルリと回して乳房をカップに押込み肩紐を掛けると云う手抜きで着けた。
(ブラジャーを着けるのに、こう云う手抜きも馴れたものだね…最初の頃は自分のオッパイをカップに仕舞うために触るのもおっかなビックリだったんだけどなぁ…今やオッパイもただの自分の身体の付属物と言う感じだね)
ブラのカップに収まった乳房を眺めつつ、オレはそんな感慨に耽る。
そしてジーンズ生地のミニスカにノースリーブの白いブラウスを着る。
それからハンドファンや手拭い制汗剤等が入った肩掛バッグを肩に掛け、更に今日のために用意した秘密兵器を備え付けの冷蔵庫の冷凍室から出して保冷箱に入れて持つ。
出掛ける準備を終えてホテルの部屋から出ると、隣の部屋のドアも開いて俊と遊馬も丁度出てきた。
ビジネスホテルを後にしたオレ達は足早に駅に向かう。
「こんな朝早くから出かけないとダメなのかよ…開場は確か十時だろう」
遊馬が不満そうに言うと、俊が遊馬を見て答えた。
「それは一般開場でサークルは八時に会場に入って、ブースの設営だの見本誌の提出だのと、イロイロ忙しいらしいよ」
電車に乗ると会場に近づくにつれて明らかにコミケ目当てらしい乗客が増えて来る。
そして電車を降りてコミケ会場の前まで行くと、ソコは壮観な状況になっていた。
人、人、人……人だかり、人ばっかり、人だらけ、しかもみ~んなヲタクばっかり。
「うわぁ~今ココに爆弾を落としたら日本の治安が良くなるんじゃねえか」
遊馬が何だか物騒な事を言うと。
「なに言ってんだよ、遊馬はヲタクは犯罪者予備軍だと言う偏見が有るんじゃないのか」
俊が珍しく怒気を孕んだ声で言う。
「うん、オレも今のは失言だと思うよ」
オレも遊馬を窘めた。
「ゴメン…」
遊馬はバツが悪そうに頭を掻いて謝って来た。
その時俊のケータイが鳴り誰かと連絡を取ると、しばらくしてちょっとふくよかな感じのボブカットでメガネを掛けた女の人が駆けて来た。
「ごめ~ん待ったぁ、私は海野と言います今日は設営と売り子の手伝いよろしくお願いしますね」
女の人はオレと遊馬にお辞儀しつつ自己紹介をする。
「へぇ…女の人だ、今日は男性むけ…つまりエロい同人誌を売る日なんだよなぁ」
遊馬が意外そうに言うと。
「あら、女だってエロい同人誌を描くわよ」
海野さんは朗らかに笑って言った。
それから数字が描かれたミサンガの様な物をオレと遊馬に渡して来る。
「それがサークル入場証なので、サークル入場口でスタッフに見せてコミケ会場に入るの」
「うん…アレ、俊の入場証は?」
オレが入場証をもらわ無かった俊を見て言うと。
「あっ…えっと、ボクは一般入場なので…」
俊が目を泳がせて少し言い難そうに言うと。
「そうなのよね、私が売り子手伝ってと連絡した時にコミケ会場で同人誌を買い回りたいので売り子は手伝え無いと言われたの、そこで私の知合いの入手困難な壁サークルの同人誌をもらって来るからと言うと、代わりの手伝いを用意すると言って来たのよね」
海野さんは何の屈託も無く呆気らかんとバラして来た。
オレと遊馬が些か睨む様に俊の方を向くと、俊はコツゼンと居なくなって居て、遠くにある人の列に並ぼうとしていた。
「はぁ、道理で今日のコミケに一緒に行こうとワイ等を誘って来た訳かあ…」
遊馬が憎々しげに言う。
「まあしょうが無いよ…コミケサークルの売り子何て普通じゃあ経験出来ない事が出来るんだと思って楽しもう」
オレが慰める様に遊馬の背中を叩きながら言うと。
「そうそうコミケは楽しんだ者勝ちよ」
海野さんがニコニコして言って来た。
サークル入口に向かう途中で、海野さんに俊とはどういう関係なのか聞いた。
「俊くんとは一昨年の夏コミケで、私のブースに私の同人誌を買いに来た時知り合ったの…私の同人誌のテーマであるケモミミ異類婚物の話で盛り上がってね、以来冬コミやコミティアなんかでも私のブースに来てくれて、去年の冬コミケでは搬入や売り子もしてくれたのよ、だから今回も売り子を頼もうと思ったんだけど…」
「ふ~〜ん」「へ〜え」
オレと遊馬は普段どちらかと言うと大人し目のキャラだと思ってた俊が、こう云う場所では意外とアグレッシブなんだと感心する。
海野さんにオレと遊馬は手に巻いたサークル参加証を見せて無事コミケ会場に入った。
会場内は何百という長机が整然と並べられていて、その列の中から会場見取り図を見て海野さんの売り場予定の長机半分のスペースしか無いブースに行く。
するとソコには宅急便の段ボール箱が五つほど届いてた。
それからは海野さんの指示で段ボール箱から印刷したての同人誌を出して机に並べてブース設営をオレと遊馬がする事になる。
取り出した同人誌を机に並べながらちょっと中身をオレと遊馬で見てみると、ネコ耳やイヌ耳にウサミミの女の子が倔強な騎士と組んず解れつと絡み合っている内容だった。
(アレ…このウサミミの女の子のキャラクターは…)
オレは同人誌のキャラの一つが俊の家で見た薄い本に載って居たキャラと同じ事に気付いた。
「うわぁ~ガチのエロマンガだよ、コレ女の人が描いたのかぁ」
遊馬が感心した様に言うと。
「女だってエロマンガくらい描くわよ、女にも性欲はあるんだから、ねえ貴女もそうでしょう」
海野さんがオレの方を向いて同意を求めて来た。
「あはは…うんまあ…そうですね」
オレは曖昧に笑いながら頷き、それを見て遊馬は微妙な顔になる。
まあ確かに…女になったオレにも性欲はある…生理の前くらいに何かモヤモヤした様な思いになり、下腹の奥の方に疼く様な感覚を覚える事がある。
男子の時の様な、突き上げる様な焦りにも似た切羽詰まった暴力的な衝動と云うほどの性欲では無いが、コレはコレでなかなかに切無い物だったりする。
ただオレはまだ何に対して性欲を覚えるか分からないでいる、男に対してなのか女に対してなのか…。
それからもブースの設営は進む、海野さんはポップを描いたり隣ブースの人達と挨拶をして同人誌の交換をしたりして、それからコミケ準備会に見本誌の提出やスタッフの巡回があったりで…あっと言う間にコミケ開場時間になった。
コミケット開会のアナウンスが会場内に流れると会場全体から拍手が起こり、程なく会場になだれ込んで来た入場者達の地響きが聴こえて来た。
たちまち企業ブースや壁際に設営されてる人気サークルとソコに準ずる人気サークル等に人だかりと行列が出来る。
程なくオレ達の一般サークルの方にも人が集まり出して、あっと言う間に人、人、の大混雑になった。
そうすると、今までも会場内は大きな空調設備が稼働しているにも関わらず、ソコソコ暑かったが…人が増えて温度と湿度が一気に上がりかなり暑くなった。
オレ達のいるブースにも汗を流しながら沢山の人が来て、並べてる同人誌をパラパラと見て買う人、中を見ずに買う人、何か悩んで買う人等様々だった。
海野さんの同人誌はそれなりに人気だったらしく結構良い売れ行きで、用意された八百部の同人誌は直ぐに完売しそうな勢いだった。
オレと遊馬は声を張り上げて売らないといけないのかと思って居たが、そんな事も無くスルスルと同人誌は売れて行った。
お昼近くになって買いに来る人が落ち着いて来たので海野さんが、今のうちに昼食を取って来たらと提案されたので遊馬と昼食に出た。
俊にケータイで連絡すると買い物も一段落したので落ち会う事になる。
俊はリュックと両手の紙袋一杯に同人誌や企業ブースの物販を買って居て、ヨタヨタとオレ達の処にやって来た。
オレと遊馬はその姿にヤレヤレと言う顔をする。
俊と落ち合った後昼食を取ろうと会場近くに出たが、食べ物屋もコンビニも恐ろしい程の混み様だったので、俊と遊馬はその中に飛び込むのに躊躇していると。
オレはここぞとばかりに持つて居た保冷箱を差し出す。
「こんな事もあろうかとオレが手ずから握ったオニギリが入ってるぜ、作ったのは昨日の出掛ける前だからもう丸一日経ってるケド、ずっと保冷剤や凍らせたスポドリで冷してあるから大丈夫だと思うよ」
オレがそう言うと、俊と遊馬はちょっと驚いた顔をしてから喜んでくれた。
近くの日陰になったベンチを見付け、保冷箱を開けるとラップとアルミホイルに包まれた大玉のオニギリが六つ、凍ったスポドリと保冷剤の間に入っていた。
「夏場なので凝ったお弁当は傷むかもしれないからオニギリにしたんだ」
オレからそう言うと、俊も遊馬も神妙な顔で頷く。
オニギリの具は傷み難い梅干やオカカにお漬物だった。
遊馬が先ずオニギリに齧り付いた。
「おむっ…オニギリ美味いぜ」
「そうだなぁ、今日見たいにいっぱい汗をかいた日はこう云う塩ぱい具のオニギリは結構いけるね」
俊も食べながら感想を言う。
(うん…まあこんなもんかなぁ、夏場で一日以上保たすのは限界があるからねえ、具だってもっとイロイロ入れたかったんだけどなぁ)
オレもオニギリを頬張りつつそんな事を思う。
「しかし真琴がオニギリとは言えこんなの作って来るなんて、もう嫁に行けるンじゃあ無いか」
遊馬がふざけ気味に言うので。
「あら、じゃあ私を嫁にもらってくれます」
オレは科を作って流し目で遊馬に言うと。
すると遊馬はちょっと驚いてオニギリを喉に詰まらせ、俊は笑い転げた。
(取り敢えず手作りオニギリで女の子をアピールするは、ミッションコンプリートかなぁ)
オレのオニギリを頬張る俊と遊馬を見てそう思う。
「それじゃボク、行くね…」
食事を済ませ俊がまたコミケ会場に行こうとしたので、オレと遊馬は俊の両側から肩を押さえた。
「午前中いっぱい会場を回ったんだろ、午後はモチロン手伝ってくれるよなぁ」
遊馬が猫なで声で俊に言う。
「イヤ…最優先のブースは回ったけど、第二希望や新規開拓のためにもうちょっと回りたいのだけど…」
「却下!」
オレはピシャリと言って、遊馬と二人で俊を引きずって会場に戻った。
ブースに戻ると海野さんとこの暑いのに長いコートの様な物を羽織った人が話込んで居て、机には完売の札が立ててあった。
「あーっ完売したのですかぁ」
オレが驚いた様に言うと。
「そうよ、この“みゃりー”さんが最後の一冊を買ってくれたのよ」
コートの人を向いて海野さんがそう言った。
オレがコートの人を見ると、長い赤髪のウイッグに濃いめのメイクをしたクールビューティーと言った感じの女の人で、コートの下はコスプレ衣装らしくビスチェの様なトップにタイトなミニスカと言うセクシーアンドカッコイイコスをしている。
コートの人は振り返るなりオレを上から下までマジマジと凝視して来た。
「な…何でしょか…」
コートの人のオレを品定めする様な視線にオレはヒキながら言うと。
「貴女、私とコスプレしましょう!」
突然コートの人は言って来る。
「はい〜?」
オレは困惑して返した。




