12 女の子の日
女の子の日……。
そうアレの日だ……女の子に性転換してから毎月やって来る……生理の日。
オレのは大体三十日間隔で三日から四日ほど憂鬱な日々が続く。
オレはマンションの自分の部屋でベッドに横になりながら、落ち込む気持ちと鈍い痛みに耐えていた。
「大丈夫?私これから奈っちゃん連れて出掛けるけど…」
恵美姉ぇが心配して部屋のドアの向こうから声を掛けてくれた。
「うん、大丈夫だよ、オレももう三年もコレと付き合ってんだから」
一応何でも無い風を装って返事をする。
「分かったわ、夕方までには帰るから…」
そう言って恵美姉ぇは玄関を出て行った様だ。
「生理に三年も付き合うか……」
オレは少し自嘲気味の笑みを浮かべて一人語ちる。
オレは飲んだ鎮痛剤と全身の気怠さからウトウトと眠くなって来た。
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「オレ…イヤ私は小鳥遊真琴と言います、よろしくお願いします」
オレはかなりガチガチに緊張して挨拶をした。
オレは中学二年の二学期から都心に近い新しい学校に転校生として復帰した…女子学生として。
オレが挨拶をすると、教室の中が一瞬ザワッと騒がしくなった。
オレはその時肩位の流さの髪をハーフアップにして後ろにリボンを付けて、セーラー服とプリーツスカートと言うまさに女子中学生と言う格好をしていたのだけど。
オレは早くも自分が元男だとバレたのかと思い身を固くする。
先生の一括で教室は静かになったが、自分の机に向かう途中で教室のあちこちでヒソヒソと何か囁かれている様だった。
周りからの密かにオレの方を見る好奇の目に曝されながらの授業が終わると、おっかなビックリと言う感じでオレに話掛ける生徒が三々五々やって来た。
転校初日はオレが元男の子だとバレないかと緊張して居たので、物珍しさでイロイロ話掛けてくるクラスメイト達に辛うじて一言二言ギコチ無く返すのが精一杯だったのだが。
そんな訳でどうも新しいクラスメイト達にはオレは人付き合いが苦手な無愛想なヤツと思われたらしく、やや遠巻きにされる様になった。
その後も上手くクラスメイト達とコミニュケーションが取れず、オレはクラスで孤立してしまった…オレは傍目にはクールビューティーな美少女で、黙って居れば何処ぞの真相の令嬢に見えなくも無いので、クラスメイト達が変に神格化して引いてしまったと言うせいでもあるが。
ある日あの事が起きた…オレは性転換してまだ日が浅かったため、生理の周期が不順で思い掛けない時に始まったりした。
「真琴さん、血が出てるよ!」
たまたまオレの後の席の子が、オレの足に血が付いているのに気が付き、言ってくれたのだ。
だけどオレは突然来た生理に自分でも驚き、狼狽えて立ち尽くしてしまった。
近くに居た女子達が虚が立って呆然として居るオレを庇う様に声を掛けて来る。
それからはクラスの女子達が集まって来て、興味本意で見に来たり囃し立てる男子達からオレを守って隠してくれたり追っ払ったりもしてくれた。
オレも男子だった時、生理で体育を休んだりした女子を興味一杯で見たり囃したりした事を思い出し、今更ながらに無神経な事をしたなぁと、反省する。
それからオレの心配をしてくれて女子2人が付き添ってくれて保険室に行く。
こう言う時の女子の団結と連携にオレは驚いたものだった。
結局この時、オレの世話を焼いてくれた女子2人とその後も何となく話すようになり、お昼にお弁当を一緒に食べようと誘われたりして、オレの学校での初めての友達…女友達となった。
その女友達のお陰でクラスの他の女子達のコミュニティにも一応入れはした……。
オレはその後マンガやアニメのTS物主人公見たいなお約束をこなしてしまう…男子トイレに間違って入り掛けたり。
男子が居る中で大股を開いてイスに座ったり、男子達がゲームの話で盛り上がっていた時、オレもその話に混ざろうとして男子達に引かれたりしたり、男子が口を付けたジュースのペットボトルを気にせずに飲んだり等々。
仲良くなった女友達にその都度オレは、笑われたり怒られたりした。
最初オレは不慣れな環境で大人しくしていたので、そのため深層の令嬢か何か見たいに思われて居たらしいが。
オレが色々なやらかしやポカをやるので、外見と違ってかなりのポンコツだと思われる様になり、クラスメイト達に少しづつ親しまれる様になって行った。
ある時に校庭にヘビが迷い込んで来た事があり、都会っ子の生徒達がヘビを見てパニックになったがオレが平然と素手でヘビを捕まえて藪に逃がしてやった。
「アレは青大将と言うヘビで毒も無い大人しいヘビなんだよ、欧米ではラットスネークと言ってペットとして飼われている事も有るヘビだよ」
と説明すると女子達に勇気が有ると感心され、
そんなオレの奇行?のため親しくなった2人には、男前だとか漢気が有るとか言われ…真琴“君”なんて呼ばれたりした。
それからある日の教室で、女子の1グループと男子の1グループが、些細な事で言い合いを始めた。
その中でガタイが大きくやや短気な男子が苛立って、女子の一人に掴み掛かろうとして来た。
オレはソコに割って入って男子を三か条と云う合気道の技で押さえて止めた。
オレは小学三年の頃から合気道を習っていて、この時にはもう初段を持っていたんだ。
自分より大柄な男子を毅然として止めた事でオレはクラスの女子達から頼られる様になり、密かに王子様と言われたりしていたらしい。
こうしてオレはクラスの中で女子からはいろいろと頼りになる女の子として、男子達からは男同士の様にフランクに話せる女子としてクラスの中に馴染んで行った。
そしてこの頃からオレに交際を申し込むヤツが出始める。
主に男子達からだが…偶に女子からも時々言って来た。
オレはこの事態に困惑して女友達に相談すると、女友達がオレと付き合いたいと思ってるヤツは結構いっぱい居ると教えてくれた。
「最初…真琴くんは何処かのお嬢様かモデルさんかと思う位綺麗過ぎて近寄りがたがったのよね…」
「ソレが実際はポンコツで間が抜けていたり男の子見たいに周りに無頓着だったり…でも時々には格好良かったりして…結構親しみやすい人柄何だなぁと分かったので、皆んな真琴くんとお近付きになりたいなあと思っているのよ」
女友達の2人がそう説明してくれた。
そうは言われてもオレの困惑はますます深まったのだが。
(そもそもオレは男に恋愛感情を持てるのか?)
と言う命題がオレの中に有ってまだ答えは出ていなかった。
兎に角オレは男子の目を引くらしく、女友達と街に遊びに出たりすると必ずナンパに出会う。
どんなに断わってもしつこく言いよってくるバカも多くて閉口した。
オレは女子となったので、女子の側から男共のナンパや口説きに来る姿を見ると、その下心が透けて見えて正直かなりウザイと思う様になっていった…。
この頃中学二年生の女子がお昼休みに集まってダベる話題と言えば、推しのアイドルとか百均コスメだとか、そして恋バナ…。
オレはそお言う話題は苦手だったので、大抵は愛想笑いを浮かべてやり過ごす様にしていたが。
一学年上の先輩女子が付き合ってる男と初体験をしたと言う話がオレと女友達のグループに回って来る。
話を持って来た女子はやや声を潜めて語り、女友達も興味深々と言った風に聞く。
件の先輩女子の部活後輩だと云うその女子が直に聞いて来たと言う話を語り、その先輩女子がどう言うシチュエーションで、どう言う推移に事が進行して行ったかを仔細かつ生々しく話してくれた。
オレも当然ながら興味深々でその話を聞きそしてオレは思った。
(男とSEX…オレも何時かそう云う事をする時が来るのだろうか…?)
そんな事を徒然に考えながら家に帰ると、恵美姉ぇがオレや父親に妊娠したと報告して来た。
恵美姉ぇは常々結婚するなら白馬の王子様ならぬレクサスに乗った大病院の次男坊、等と言っていたが。
オレが入院中にオレを診てくれて居た医者の一人と実は同郷だと(同郷とは引っ越たあの街の事だ)云う事をきっかけに親しく付き合う様になり、頃合いを見て毒牙に掛け捕獲して、既成事実を盾に結婚を約束させたそうだ。
親父は轟天動地の如く驚きオレも呆れた。
そんな事を聞かされた後、オレは部屋で一人になって思った。
(オレはコレから女として生きて行く…そうなれば何時かオレも結婚何てする事になるかもしれない、そして結婚と言う事は…SEXをしなくちゃいけないんだよなぁ)
モチロン…オレはSEXとはどう言う物かは保健体育や“秘密基地”で読んだエロ本等で知識としては知っているが…。
(自分の身の内に男のモノを迎え入れて性的快感や興奮をする…自分?)
オレは自分が実際にSEXをする場面をエロ本等の場面に置き換えて想像したが…全く漠然として実感も捉えられ無かった。
この頃のオレは、自分の女の子としての身体にまだ馴れ切って居なくて、何処か遠慮がちに自分の身体を扱って居て…つまり自慰等はしていなくて、女子としての快感に疎かったのだ。
ただ生理前くらいになると、男の時とはちょっと違う下腹の奥がムズムズと疼く様な昂まりと火照りを覚える事は有るが…。
恵美姉ぇの妊娠と結婚問題が一応の決着が決まった頃…オレの学校で文化祭の準備が始まった。
連日学校の放課後は、文化祭の準備で大騒ぎだったのだが。
警察から最近この辺りに変質者が徘徊して居るとの通報が有り、文化祭の準備は明るい内に終わらせて帰る様に学校から生徒達に通達があった。
「変態が来ても真琴が居れば合気道でやっつけてくれるよね!」
オレのクラスの女子達はそう言って暗くなるまで準備を続けた。
その様に頼られたのでは仕方無いと、オレはクラス女子の用心棒の様な心持ちで、準備の仕事が終わった後皆んなを家や駅まで送るようにしていた。
皆んなを家や駅に送って行くと、オレが帰る頃には日はとっぷりと暮れてしまっていた。
オレが帰り道のちょっと人気の無い公園に差し掛かった時、前方の街路灯の下に一人の人が立って居るのに気が付く。
その人は今の季節にしては厚手で裾の長いコートを着て、チューリップ帽を目深い被った如何にも怪しいですと云う出で立ちだった。
オレは少し警戒しながら横を通り過ぎようと近付くと、突然コートの前を開いた。
コートの中はやや小太りな全裸の男で、しかも股間の男性のシンボルを隆々と立たせて見せ付けて来たのだ。
オレはその時、驚きの余り虚が立ってしまった。
普段あまり目にしない物を、あり得ない状態にした全裸の男の出現に、オレの思考が止まってしまったのだ。
全身が硬直し足は竦んで動かない、声さえ喉が詰まった様に出せなかった。
男はジリジリとオレの方に近付いて来る。
「お嬢ちゃん…ワシと良い事しないかい」
全裸の男の声はまるで地獄の底から聞こえて来る見たいに、オレには感じられた。
オレの頭が警鐘を鳴らすが、オレの身体は動か無い。
近付いて来る男にオレは女として蹂躙される想像が頭の中で幾つも浮かぶ。
そしてここに至ってオレは、自分が男の情欲の贄である女で有るという事にオレは自覚した。
女とは男に嬲られる存在、女とは男に蹂躙される存在、女とは男に弄ばれる存在、女とは男の性欲の捌け口、女とは……そして今…オレは女だ…。
オレの胸中にそんな事実が渦巻く。
「そこに誰かいるのか!」
突然オレの後から声が聞こえ、目の前の変質者の男は一目散に遁走する。
男が居無くなってオレの全身の力が抜けてクタクタとその場にへたり込んだ。
オレに声を掛けてくれた人に警察に連れて行ってもらい、警察での事情聴取を受けている時に父親と恵美姉ぇがオレを迎えに来てくれた。
家に帰った次の日からオレは熱を出して寝込み、遂には文化祭さえも休んだ。
そしてオレは学校に復帰しても、しばらくは男子生徒に近づく事も近づかれる事も忌避する様になって居た。
オレは普段女子生徒の用心棒見たいに思っていたのに、イザ変質者を前にしたら虚が立ってしまって何も出来なかった事が悔しく思い。
それからオレは実戦とうたう武術、格闘技、等を調べてココはと思う所に習いに通い出す。
あまり色んな武術や格闘技にオレが没入するので、女の子として大丈夫かと心配した父親に、どんなガサツな女でも淑女に躾けられると言うある特殊な養成所に一月ほど放り込まれたりもした…のは余談だ。
オレが中学三年に進級してしばらくすると恵美姉ぇが女の子を出産した。
病院に恵美姉ぇに会いに行くと、丁度授乳の時間で生まれたばかりの赤ちゃんに母乳を上げているのを見られた。
恵美姉ぇは今まで見た事無いような慈しみと愛情に満ちた笑顔で授乳しているのを見ると、ほぼ一年前に入院していた病院で見た聖母子像の様な授乳姿をオレは思い出しした。
そしてあの時にオレの心に去来した想いが蘇る。
オレもあんな風に……赤ちゃんにお乳をあげたいなあ……。
だけどそのためには…オレが赤ちゃんを産まなくてはならない、そして赤ちゃんを産むためには……。
あの変質者のためオレはすっかり男性を忌避する様になっていて、赤ちゃんを妊娠する行意何てとても出来ないだろう。
オレは男を恋愛対象としては見れないから結婚何てのも無理だ。
それとも赤ちゃんを得るためだけに男に身体を許すか……。
そもそも変質者のトラウマのため男のアレに対して嫌悪感があるのに…。
そんな事をオレは堂々巡りの様に考えて悩んだ。
恵美姉ぇはオレが高校に上がる頃結婚式を挙げて旦那さんが故郷に建てた新居に引っ越して行った。
そしてその頃父親が仕事でまた転居する事になったと言って来た。
オレは仕方無く転居に備えて自分の荷物を整理しょうと部屋の大掃除を始める。
色んな荷物を整理して居ると、古雑誌の間からケータイの記憶チップが出てきた。
そのチップをパソコンに入れてファイルを開くと、オレがまだ男の子だった中学一年の頃の写真で友達の俊と遊馬とで“秘密基地”で撮った写真が出てきた。
たちまちあの頃の思い出が蘇って来る。
(俊に遊馬…今どうしてるかなぁ、懐かしいなぁ)
そんな事を思いながら写真を閲覧していると、最後の方にとんでもない物が写されていた。
“秘密基地”でお互いのチン(ピーッ)を見せ合いっこした時の写真だった。
オレはソレを見た時腹が捩れるほど笑いそして何とも複雑な懐かしさが込み上げてくる。
(ああ…そう言えばこんな写真を撮った事あったっけ…我ながらバカな事したなぁ)
等と思いながら再度写真を見返して居ると、オレは変な事に気付いた。
オレのかつて有った懐かしい男としての分身…それと俊と遊馬の男としての分身達…。
オレは俊と遊馬の男の分身達に忌避感や嫌悪感が無い事に気付いた。
それどころか可愛いく愛おしいとすら感じる、自分のかつての男の分身にそう思うのは分かる、しかし友達とは言え他の男の分身にまで忌避感や嫌悪感を覚え無いとは。
最近は大分落ち着いて男子達とも接したり話したり出来る様になりはしたが、まだ何処かで男の性欲と云う物に怯えて居る自分が居る事を知っている……だけど。
(ヒョットしたらオレ、俊と遊馬のチン(ピーッ)なら受け入れられる!?)
そんな考えがオレの脳裏を走った。
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オレはフト目を覚ました。
起きると日は傾きもう直ぐ夕方だ、直に恵美姉ぇが帰って来るだろう。
オレはナプキンを取り替えるためトイレに行く。
トイレで処置をしてナプキンを取り替えて出て来ると、今朝ほどの痛みが無い事に気づきどうやら峠は越した様だと思う。
オレは自分のお腹を撫でる様に触って思った。
(オレの身体は着々と赤ちゃんを宿す用意をしてるんだなぁ、何時かこのお腹の中に新しい命を宿す時が来るのか…その時のためにオレは……。)




