第九話:絶対零度の奴隷契約
1. 新たな脅威の排除
『鉄壁の傭兵団』を崩壊させたレイジ(伊達ソウジ)は、再び静かなソロ活動に戻っていた。しかし、彼の頭の中には、排除すべき最大のノイズ――最強のソロプレイヤー、アヤの存在があった。
アヤは、レイジの行動を観察し、常に彼にプレッシャーを与えてくる。彼女の挑戦は、彼の「最短ルート」の維持にとって、最大の障害だ。レイジは、アヤの圧倒的な戦闘力を正面から打ち破るには、まだ時間が必要だと判断していた。
(最短ルートは、彼女を打ち破ることではない。彼女の戦力を無力化し、利用することだ)
レイジは、アヤの最も警戒心が薄くなる瞬間をデータから抽出し、作戦を実行した。
2. 卑劣な奇襲とシステム操作
アヤは、初期都市ステラリスから離れた高レベルダンジョン『古の霊廟』の深部で、単独での素材収集に集中していた。彼女はレイジと同じくソロでの攻略を得意としており、ダンジョンの最深部が最も静かだと知っていた。
レイジは、アヤが戦闘中ではない、休憩に入る直前のコンマ数秒を狙った。
アヤが休息のためアイテムボックスを開き、思考を一時停止させた瞬間、レイジは隠し持っていた『絶対拘束の枷』というレアなシステムアイテムを発動させた。これは、PvP戦闘中ではない相手を一瞬で拘束し、一時的に戦闘不能状態にする、PvPにおける「反則級」のアイテムだった。
ゴォン!
黒い魔力が込められた枷が、アヤの全身を硬く拘束した。彼女の重装甲の鎧は無力化され、アヤは動くことができない。
「なっ……レイジ! 卑怯な手を使う気か!」
アヤは怒りに声を震わせた。彼女はレイジが正々堂々としたPvPを嫌うことは知っていたが、システムアイテムによる奇襲を仕掛けてくるとは予測していなかった。
レイジは表情一つ変えず、彼女に近づいた。
「卑怯ではない。最も効率的な脅威の排除プロセスだ」
レイジは、アヤがPvPで失明状態になった際にドロップする『隷属の契約書』という、さらに凶悪なシステムアイテムを取り出した。これは、PvPのルール外でのみ使用が許される、運営も推奨しない悪質なアイテムだ。
「この契約書にサインしろ、アヤ。サインすれば、この枷は解除される。拒否すれば、お前はこのダンジョンの最深部で、拘束されたままモンスターに食い殺されるだろう」
レイジは、彼女の命を人質に取った。
「くっ……私が、お前のノイズに屈するとでも思うか!」
アヤは抵抗したが、レイジの次の言葉が、彼女の冷静な判断力を打ち砕いた。
「お前が死ねば、お前の全装備とレベルは大幅に低下する。また一から最強を目指すか? それは非効率だ」
レイジは、アヤの効率至上主義を逆手に取ったのだ。
アヤの冷徹な理性は、非効率な死と、屈辱的な生存を天秤にかけた。
「……何をさせるつもりだ」アヤは、悔しさに声を絞り出した。
「簡単だ。私の『犬』になれ。私の目標達成のために、お前の戦闘力を提供しろ」
レイジは、ゾルグを排除して手に入れた、彼の最も嫌う「犬」という呼称を、アヤに突きつけた。
屈辱的な沈黙の後、アヤは静かにシステムコマンドを選択した。
契約:レイジ(使用者)とアヤ(被使用者)の間に隷属の契約が成立しました
枷は解除され、アヤは解放された。彼女の瞳には、怒り、屈辱、そして、レイジに対する異常なまでの憎悪が灯っていた。
「レイジ……貴様、必ず後悔させてやる」
「無駄な感情は、私の目標達成を妨げる」レイジはそう言って、最強のソロプレイヤーを、彼の道具として手に入れた。
3. 最強の道具
レイジは、最強のソロプレイヤーを奴隷として手に入れたことで、自身が抱える二つの課題を一気に解決した。一つはアヤという脅威の排除。もう一つは、彼女の力を利用した集団戦の脅威への対策だ。
レイジは、アヤに最初の命令を下した。
「ユノたち『きらきら☆乙女連盟』が、私の背後で私を観測している。お前の最初の任務は、彼女たちの指導だ。私の邪魔をさせないレベルまで、彼女たちの戦闘力を向上させろ」
アヤの顔が歪む。彼女が最も嫌う「集団への指導」という、屈辱的な任務だった。
「わかった。貴様の命令は、この契約が続く限り、絶対だ」
アヤはそう言い放ち、レイジの視界から静かに消えた。
レイジは、非効率な「人との関わり」というノイズを排除するため、最も非効率な「隷属契約」という手段を選んだ。彼の最強への最短ルートは、冷酷な合理性によって、再び確保されたのだ。
アリス(金髪の少女、魔法使い)の視点
私は、レイジさんがゾルグさんたちを闇討ちした時、興奮しました。やっぱり彼は、誰にも理解されない孤高の天才だと。あんなに冷徹で、合理的で、無駄がない。
でも、今回アヤさんに行ったことは、もう「合理的」なんて言葉では片付けられない。システムアイテムで拘束し、卑劣な契約で、最強のソロプレイヤーを奴隷にするなんて。
アヤさんは、レイジさんと対立しながらも、同じ「ソロの美学」を持つ、尊敬すべき存在でした。そのアヤさんが、あんな屈辱的な契約に縛られるなんて……。
レイジさんの行動は、もう「最強を目指す」というより、「自分の効率のためなら、他人の尊厳を踏みにじる」という、恐ろしいものに変わってしまった。彼は、絶対零度を通り越して、感情のない機械になってしまったみたい。
そして、そのアヤさんが、今度は私たちを指導しろと命じられた。私たちにとっては願ってもない機会だけど、アヤさんの屈辱を考えると、手放しで喜べない。
レイジさんは、私たちを脅威ではない、利用価値のある道具だと認識した。それは、私たちを「ノイズ」だと無視していた時よりも、もっと恐ろしいことかもしれない。私たちは、レイジさんの道具として利用されながら、彼を打ち破るほどの強さを手に入れなければならない。




