第八話:絶対零度の本質、粛清の三日間
1. 忠実な「犬」の行動
レイジ(伊達ソウジ)が『鉄壁の傭兵団』に入団してから三日が経過した。彼はゾルグの命令に忠実に従い、ギルドの雑務や、闘技場でのトレーニングのサポートに徹していた。その態度は卑屈なまでに従順で、彼の口から「効率」という言葉は消え、「集団の利益」という言葉に置き換わっていた。
ユノたち『きらきら☆乙女連盟』は、レイジの変わり果てた姿を見て絶望していた。
「レイジさん……本当に、ゾルグさんの犬になっちゃったんだ」ユノはリスポーン地点の隅で涙ぐんだ。「あんなに『ソロが最強だ』って言っていたのに……」
レイジの行動は、ゾルグたちの油断を誘っていた。
「ハハッ、見てみろよ。あの絶対零度の観測者様が、俺たちのためにポーション補充してるぜ。最高だろ!」ゾルグはレイジの変貌を、自らの力の証明だと得意になっていた。
レイジは、その三日間で、ギルドメンバー全員の生活パターン、得意とする戦闘スタイル、そして弱点を完璧にデータ化していた。彼の「屈服」は、彼が最強への最短ルートを見出すために行った、極限のデータ収集と潜入だったのだ。
2. 闇夜の粛清
三日目の夜、初期都市ステラリスは、その静寂を破られた。
レイジは、闇に溶け込む黒いアサシンの姿に戻り、行動を開始した。彼の最初のターゲットは、ゾルグの側近であり、最も遠距離からの魔法攻撃が得意なリクターだった。
リクターは、都市の裏路地にある隠れ家で、翌日の作戦の準備をしていた。そこに、音もなくレイジが侵入した。
「誰だ!」リクターが振り向いた瞬間、レイジのダガーが彼の首筋を的確に捉えた。
―[アサシン・スキル:絶対零度の観測(FFO)]―
レイジのスキルは、リクターの防御が最も薄い、一瞬の隙を突いた。リクターは悲鳴を上げる間もなく、HPを一瞬でゼロにされた。彼は、戦闘不能となり、アイテムをドロップしてリスポーン地点へ戻される。
レイジは、リクターのドロップ品には目もくれず、次のターゲットへ向かった。彼の目的はアイテムではない。『鉄壁の傭兵団』の戦力と士気を、完全に破壊することだった。
その夜、立て続けに『鉄壁の傭兵団』の主要メンバーが、リスポーン地点へ送り返された。
重装甲の盾役ガルムは、レイジに装備の隙間からダガーを突き立てられ、一瞬で防御を貫かれた。
弓使いのシエラは、最も警戒心の高い時間帯に、彼女の予測を超えた速度で接近され、行動不能にされた。
レイジは、PvPのルール外で、集団戦という「暴力」に屈した。だからこそ、彼は「集団戦のルール」の外側から、最も効率的な「個の暴力」を行使したのだ。
3. ギルドの崩壊
夜が明け、都市は騒然となった。『鉄壁の傭兵団』のメンバー五人が、一晩で装備を失い、レベルダウンペナルティを受けてリスポーン地点に送り返されたという事実は、ギルド全体にパニックを引き起こした。
ゾルグは、リスポーン地点から怒り狂って闘技場に戻ってきた。彼の周りには、残りのメンバー数人しかいなかった。
「てめえら! 誰だ! 俺たちのギルドにこんな真似しやがったのは!」
ゾルグの怒号が響く中、レイジは再び闘技場ロビーに現れた。しかし、彼はもう「犬」の顔はしていなかった。彼の目は、氷点下の観測者の冷徹な光を取り戻していた。
「ゾルグ殿」レイジは静かに呼びかけた。
「な、なんだ! お前か! お前、昨日から何していた!」
「私は、あなた方の戦力データを収集し、脆弱性を抽出していた」レイジは、事もなげに言った。
「その結果、あなた方のギルドは、一人のアサシンによって容易に崩壊し、再起不能になることが判明した」
ゾルグは恐怖に顔を歪ませた。
「ま、まさか……お前がやったのか!?」
「その通りだ」レイジは認めた。「あなた方のギルドは、私の目標達成におけるノイズであり、排除すべき対象だった。あなた方の『集団の力』は、私の『個の力』を凌駕するには至らなかった」
レイジは、ユノたち『きらきら☆乙女連盟』が隠れている観客席に一瞥をくれた後、ゾルグに向き直った。
「私は、あなた方を利用し、最強への最短ルートを再確認した。あなた方は、もう私の利用価値を失った」
ゾルグは怒り狂い、残りのメンバーと共にレイジに襲いかかろうとしたが、彼らのHPバーを見た瞬間、その動きを止めた。レイジの「闇討ち」により、彼らはレベルダウンペナルティを受け、装備も失い、戦闘力が著しく低下していた。
レイジは、もはや彼らと戦う必要さえなかった。彼は、ゾルグたちを一瞥した後、静かに闘技場を後にした。
絶対零度のソロプレイヤーは、集団のルール外で屈辱を晴らし、再び孤高の道へと戻った。そして、彼の戦闘スタイルは、さらに冷徹で、容赦のないものへと進化していた。
ユノ(ピンク髪の少女、タンク)の視点
レイジさんがゾルグさんたちに頭を下げた時、私は本当に絶望した。レイジさんが、私たちを馬鹿にした集団の犬になってしまったなんて。アリスたちと、もうレイジさんのことは諦めようって話していた。
でも、昨日の夜……。
闘技場でゾルグさんが怒鳴っているのを聞いて、全部わかった。レイジさんは、屈服なんかしていなかったんだ。ゾルグさんのギルドに入ったのは、彼らを潰すための、一番効率的な方法だったんだ。
闇討ちなんて、卑怯だって言われるかもしれない。でも、ゾルグさんたちがレイジさんを袋叩きにしたのは卑怯じゃないの?
私は、ゾルグさんたちが倒れているのを見て、正直、怖かったけど、それ以上に感動した。レイジさんは、誰にも理解されなくても、自分だけの信念で、最短ルートを突き進んでいる。彼の「最強」への道は、本当に、誰にも真似できない絶対零度なんだ。
レイジさんは、私たちに何も言わずに去ってしまったけど、私はもう、レイジさんのことを「先生」とか「頼れる人」とか思わない。私は、あの孤高の背中を追って、自分も強くなりたい。レイジさんが私たちに見せてくれた本当の強さを、今度は私たちが証明してみせる。




