第五話:闘技場の火花と嘲笑の観衆
1. 衝突後の再会
レイジ(伊達ソウジ)は、アヤとの遭遇から一日後、初期都市ステラリスにいた。彼はアヤの挑戦を無視し、即座に都市の中央にある闘技場に足を運んでいた。彼の目的は、PvPではない。闘技場に常駐する上級武具の販売NPCから、新たな情報と素材を手に入れることだ。
彼は、アヤの戦闘スタイルを分析した結果、自身の防御性能の強化が急務だと判断していた。
闘技場のロビーは、挑戦者や観戦者でごった返していた。レイジ(ソウジ)は人混みを避け、静かにNPCのカウンターへ向かおうとしたが、その耳に馴染みのある声が届いた。
「レイジさん! いた!」
「今度こそ、逃げませんからね!」
ユノとアリスたち『きらきら☆乙女連盟』の面々だ。彼女たちは前日の敗北から立ち直り、さらに闘志を燃やしているようだった。
「なぜここにいる。二度と私の視界に入るなと言ったはずだ」レイジは冷たく言い放った。
「私たち、昨日ボコボコにされた後、一晩中話し合ったんです」アリスが真剣な表情で言った。「私たちは、誰にも頼らず、自分たちの力でアヤさんに勝てるようになります。だから、お願いです。あなたと同じ『最強のソロ』の道を歩むために、あなたの動きを、遠くからでいいので見学させてください!」
レイジは、彼女たちの粘着質さには辟易していたが、同時に、彼女たちが「依存」ではなく「自立」の道を選んだことに、わずかな驚きを覚えた。しかし、彼の返答は変わらない。
「無駄だ。私を見ても、あなた方の非効率な連携は改善しない」
2. 闘技場の支配者たち
レイジと少女たちのやり取りを見て、ロビーの群衆の一部が嘲笑の声を上げた。
「おい、あれ、噂の『きらきら乙女連盟』じゃねえか。またトップランカーにしがみついてるぜ」
「ボコボコにされた後も懲りねえのか。あのタンク、見てるこっちが恥ずかしいぜ」
特に声高に笑っていたのは、闘技場のロビーに陣取る、一際派手な装備を纏った一団だった。彼らは『鉄壁の傭兵団』という、このステラリス闘技場を実質的に支配している大規模PvPギルドだ。
その中でも、ひときわ巨大な戦斧を担いだリーダー格の男、ゾルグが、ユノたちに向かって皮肉を投げつけた。
「おい、そこのピンク! お前ら、昨日アヤにやられたんだってな? ざまあねえ。馴れ合いの集団が、最強のソロに勝てるわけねえだろ」
ゾルグのギルドは、ソロプレイヤーがPvPで勝つことを極度に嫌う集団だ。彼らはレイジに対しても敵意を向けてきた。
「おい、レイジ。お前もだ。ソロで最強だか何だか知らねえが、どうせ集団戦になったら一秒で潰されるだろうよ。馴れ合いは嫌いと言いながら、女に付きまとわれて、随分とノイズに囲まれてるじゃねえか」
ゾルグは嘲笑し、レイジの背後をちらりと見た。その視線の先には、同じく黒いプレートアーマーを纏ったアバター、アヤが立っていた。彼女はいつの間にか、闘技場の入り口に静かに現れていたのだ。
ゾルグはアヤに媚びるように笑う。
「アヤさんよ。このザマだ。やっぱりソロ最強は、馴れ合いの弱い集団を排除できる貴方だぜ!」
3. アヤの新たな挑発
アヤは、ゾルグを一瞥したが、何も言わなかった。彼女の視線は、レイジに固定されている。
「ノイズに囲まれているな、レイジ」アヤの声は静かだった。
レイジは、ゾルグたちの無駄な煽りにも、アヤの挑発にも、一切反応しなかった。彼は武具NPCに目を向け、必要な情報を思考検索している。
「あのさ、アヤさん!」ユノが、ゾルグたちの嘲笑に耐えかね、アヤに向かって叫んだ。「私たち、あなたに絶対負けません! 今度は、集団の力で勝ちます!」
アヤは、その言葉を聞くと、初めて明確に表情を動かした。それは、侮蔑を伴う冷笑だった。
「集団の力? 笑わせるな」アヤは巨大な両手剣をゆっくりと引きずった。
「この闘技場では、最強のソロは、いかなる集団にも負けない。私は今から、あの『鉄壁の傭兵団』を相手に、五対一のPvPを行う。そして、集団がソロに勝てないことを証明してやる」
闘技場ロビーが、一瞬で静まり返った。ゾルグとそのギルドメンバーは顔色を変えた。五対一のPvPは、PvPギルドのリーダーとして受けざるを得ない挑戦だ。
アヤはレイジに向き直り、静かに問いかけた。
「レイジ。見学するがいい。馴れ合いの集団が、いかに無力かを。そして、君が、私が君に提示した『最強のソロ』の道を歩む資格があるかどうかを」
そして、彼女は最後に、レイジの最も効率を求める神経を逆撫でする一言を付け加えた。
「ただし、もし私がこの五対一に勝てば、君は私とPvPをしなければならない。もし断れば、君は永遠に『半端なソロプレイヤー』の烙印を押される。どうだ、取引に乗るか?」
闘技場のロビーに、アヤの冷徹な声と、観客のざわめきだけが響き渡った。レイジ(ソウジ)は、彼の最も嫌う「無駄なイベント」と「強制された選択」の板挟みに立たされていた。
アヤの視点
レイジは、やはり逃げ回る。彼は「効率」を盾に、真の強さから目を背けている。だから、私は彼が無視できない舞台を用意した。
闘技場での五対一のPvPは、私にとってゾルグごとき相手では消化試合だ。だが、この行為には二つの目的がある。一つは、馴れ合いの集団が最強のソロに勝てないという「事実」を、レイジの目の前で証明すること。もう一つは、彼を私の土俵に引きずり出すための「取引材料」の確保だ。
彼が無視するならば、「半端者」の烙印を押す。彼が受け入れるならば、最強の座を巡る静かな決闘となる。どちらにせよ、私の勝利だ。
あの『きらきら☆乙女連盟』の少女たちが私に再戦を挑むと言ったが、無意味だ。弱い集団が持つ「感情」は、この世界の「強さ」とは無関係だ。私は、レイジに私と同じ視点、つまり「絶対的な孤独と力」こそがこの世界の真理であることを教えてやる。




